(当記事が公開される、2017年1月13日の21時~22時頃にかけて、焚吐がツイキャスを行う予定です。池袋をテーマとした新曲の制作の様子を読者の皆様にお伝えします。ぜひ、御覧ください)
※上記のツイキャス埋め込みは、モバイル向けに最適化しています。PCからご覧の方は、こちら
焚吐、十九歳。
東京で生まれ、池袋で育った彼は12月に行ったデビュー一周年を記念するツイキャスで「池袋」をテーマに新曲を制作することを発表した。
MEETIAでは「池袋」をテーマとする焚吐の新曲制作に密着。数回に分けて、連載をお届けする。
第二回では、焚吐と共に彼がデビュー前によく通っていたというカラオケ店に向かう。中学生から高校生にかけての多感な時期を、焚吐はどのように池袋の街で過ごしたのか。
どこのCDショップに足を運び、誰のCDを買っていたのか。当時受けていたという苛めの話から、カラオケで歌っていた曲まで彼は色々な話をしてくれた。
Interview_Arato Kuju & Sotaro Yamada
Edit_Arato Kuju
Photo_Hiroyuki Dozono
レストランを出た焚吐と筆者は、彼がデビュー前までよく通っていたという池袋のカラオケ店を目指した。外はよく晴れており、厚手のマフラーやコートは要らないような気温だった。
年末商戦に湧く池袋の中心街は栄えており、行き交う人の年代層も中高生カップルから壮年の男性、女性まで幅広かった。
岩井俊二監督の映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の冒頭、黒木華演じるヒロインが池袋の街で後の結婚相手の男性と「出会う」場面も、池袋で撮影されている。
彼が通いつめていたカラオケ店は決して高級店やミュージシャン向けに豊富な機材が揃ったような店舗ではなく、誰もが中高生の頃に一度入ったことがあるような有名なチェーンの一つだ。焚吐が通ったギター教室、そしてレストランから少し距離があり、池袋の中心街からは離れる。
焚吐と筆者は世間話をしながら、12月の池袋を歩いた。
友だちの作り方を忘れてしまった
――中学に入り、通っていた池袋のギター教室に友達を紹介されたんですよね。何かきっかけがあったんですか?
焚吐:小学六年生の時に初めて親友と呼べる友達が出来たんですけど、中学に入るタイミングで一回それがリセットされたんです。同じ小学校から、同じ中学に進んだ人自体が二、三人くらいしか居なくて。友達の作り方も忘れてしまっていて、中一の時は本当に友達がいなかったです。
そして、中二になった頃にギター教室に紹介した彼と仲良くなったんです。元々、中一の時から同じ卓球部に所属していたんですけど、一緒の学年の部員が僕と彼しかいなくて。僕がアコギを弾いているのを見て、彼も興味を持ったようで「ギターを始めたい」と言い出したんですよ。そうして彼はエレキを始めて、僕が先生を紹介したんです。彼のレッスンの時は、最初の内は僕が付いていったりもしたんです。
――それが何故、「一番苦手な奴」に……。
焚吐:中学二年生は、僕にとって有頂天の時期だったんですよ。学年にカーストってあると思うんですけど、僕は「勝ち組」に入っていて。でも、それがある時期からめちゃくちゃ殴られたり、蹴られたりするようになったんです。
元々、僕はいじられキャラではあったんですけど、エスカレートしてきたんですよね。そうして中二の終わりに、突然「もうお前、気色悪いから近寄んな」と言われて本格的にいじめが始まったんです。
彼とは中二の終わりでクラスが分かれたんですけど、それが尾を引いて中三でも中々友達が出来なくなって……。何よりきつかったのが、さっきも話した通り同じ学年で同じ部活に入っていたのが二人だけで。いじめっ子といじめられっ子で二人きりというのが、トラウマですね。中学には推薦で入ったんですけど、内申書のこともあるので部活には毎日でなくちゃいけなかったので余計に大変でした。
――いまでも、その彼と会うことはありますか?
焚吐:けっこう近くに住んでるんですけど、家の前を通る時は変装してます(笑)。ただ、こういった経験が自分の音楽性を形作ってくれた部分もあるとは思うので、感謝しないといけない面もありますね。
池袋を嫌いになることはありませんでした
――思春期に苛めを受けると、深い心の傷を負い、そのまま引きこもり世間に戻ることが難しくなってしまう人も居ます。しかし、焚吐さんはそうした時期を乗り切っていまに至ります。「引きこもらず」に居られた一番の理由とは何でしょう?
焚吐:いじめられた頃、既に曲作りの方法が身に付いていた、というのが一番大きいですね。「どうせなら曲にしてしまおう」という発想に至れた自分は本当に幸運でした。もし音楽をやっていなかったら巨大な怨嗟を生きる力に変換出来ないまま、引きこもっていたと思います。
――親など身近な人に反抗したり、自分の生まれや育ちを憎んで、憂さ晴らしをするようなことはありませんでしたか?多くの人が思春期には、反抗期を迎えますよね。
焚吐:特に反抗期はありませんでしたし、(自分が育った)池袋を嫌いになることもありませんでした。
相手に拒絶されるのが恐怖だった自分にとって、誰かを拒絶したり傷付けたりするのも同じくらい恐怖だったんです。「反抗したとしても後々ひどいしっぺ返しが待っているからやめよう」、という考え方だったので、何か気に食わないことがあってもひたすら自制していました。
――ステレオタイプですが、池袋にはドラマ『池袋ウエストゲートパーク』に顕著な「危険」というイメージがありますよね。そうした街に育つと、精神的に危うい時期には自分の置かれた状況を街や環境のせいにしてしまうこともありそうな気がします。
焚吐:そもそも幼い頃から今にかけて池袋という土地に危険性を感じたことがないので、そういったパブリックイメージはあまりピンとこないんですよね。(池袋に慣れているため)感覚が麻痺している、というのも大いにあるとは思います。
ネットを介せば何でも手に入るような感覚があった
――中学に入り、聴く音楽は変わりましたか?
焚吐:中学生になり、ボーカロイドと出会ったことは大きかったです。supercellやDECO*27、じんさん、米津玄師(※ハチ)さんなどが好きでした。
あと、YUIさんをはじめ自分が好きな音楽のルーツを辿っていったら、フォークソングと出会いました。この二つを並行して聴いてましたね。
――CDを、街のショップに買いに行ったりはしてましたか?
焚吐:YUIさんのCDは買いに行ってましたね。ただ、多くCDショップに行くようになったのは高校になってからでした。中学の頃は、音楽は無料で手に入るものだと思ってました。ネットを介せば何でも手に入るような感覚があって。いまとなっては原盤の良さを知ることが出来たんですけど、その頃は「どうやって聴くか」ということへのこだわりが無かったです。
あ――、でもYUIさんの他にもamazarashiのCDはちょくちょく買ってましたね。ボーカロイドとフォークソングの良いとこどりすると、amazarashiになると思うんですよ(笑)
焚吐としばらく並んで歩く内に、目的地のカラオケ店が見えて来た。
若者向けというよりは、近辺で働くビジネスマン向けの飲食店やファストフード店などが並ぶ少し落ち着いた雰囲気があるエリアだ。
カラオケ店が面する道路の向かいには大型書店があり、その店先には中高生には少々難しく感じられるであろうビジネス書や文芸書が並んでいた。
中学時代の終わりから高校時代にかけ、デビュー前の焚吐はこのカラオケ店でひたすら練習を重ねていたという。
――焚吐さんはamazarashiお好きですよね。音楽的にもかなり影響を受けているのではないかと思うのですが。
焚吐:僕、デビュー前によく一人カラオケに行っていて。amazarashiの曲をよく歌ってたんです(笑)。
――今回、ご紹介頂いたカラオケ店でよく歌われてたんですね。
焚吐:そうですね、ここのカラオケは本当に沢山行ってました。デビュー前の僕はとにかく声量が無くて、ピッチも安定してなかったんですよね。声が安定しないと、曲に(ボーカルで)表情が付けられないんです。
だからひたすら声量をつけるための下地を作ってました。カラオケの個室で発声練習をしたり、あとはとにかく体全体を使って歌ったり。一回カラオケ行ったら、一人で二、三時間は歌ってましたね。
――amazarashiの曲から、焚吐さんが学んだこととはどういったものでしょう?
焚吐:カラオケに一人で行く時には、特にamazarashiのポエトリーの曲を入れてたんです。友達とカラオケ行く時には、絶対に歌えないですけどね(笑)。
ポエトリーの曲を一人で歌うことで、歌にどうすれば表情を付けられるのか勉強することが出来たんです。それに、amazarashiの曲は声の低音から高い部分まで幅広く使うんですよね。声の張り方という部分でも、得るものが大きかったです。
――デビュー前の焚吐さんは、池袋でCDを買ったあとカラオケ店に行っては一人でamazarashiのポエトリー曲を歌ってたんですね。
焚吐:そうですね(笑)。あと、『さよなら人類』のたまも好きでした。CDは大体、池袋のタワーレコードで買ってました。持ってるCDの三分の二くらいは、タワレコ池袋で買ったものですね。
この後、筆者と焚吐は池袋のシンボルである「いけふくろう」のある公園に移動した。
「池袋」を新曲にした楽曲の制作にあたり、歌詞に入れて欲しいワードの募集をファンの方々から行ったところ「ふくろう」が多かったという。
第三回は池袋で過ごした高校時代、そして2016年夏に池袋で行った60本の路上ライブ、「池袋」から得ているインスピレーションに至るまで話を聞いた。
合わせて、新曲制作にかける意気込みも聞いた。更新をお楽しみに。
SHARE
Written by