羽海野チカ原作の大ヒットコミック『3月のライオン』のテレビアニメが現在放送されている(NHK総合テレビ 毎週土曜日23時〜)。そのエンディング曲として書き下ろした、米津玄師の新作『orion』が2月15日に発売される。今回のインタビューでは、楽曲制作秘話から、羽海野チカ作品の印象、いつも自ら手がけるジャケットアートワークの話など幅広く聞いてみた。2017年は、音楽だけには止まらない米津玄師の魅力が大きく花開く予感に胸が高なる————。
Interview_神崎圭
Photo_HIROHISA NAKANO
米津玄師『orion』Music Video
——米津さんにとって2017年の第一弾のシングルは、TVアニメ『3月のライオン』のエンディング曲ですね。羽海野チカ先生の作品は読まれていたんですか?
米津玄師
米津:もともと『ハチミツとクローバー』が大好きだったんです。『3月のライオン』を読んだ時も感じたのですが、羽海野先生は繊細なマンガを描かれますよね。柔らかい雰囲気の中にコメディ要素がありつつ、ひたすらキラキラしている感じ。でもそのキラキラの合間を縫うように、繊細な心の機微をひとつ残らず表現してやろうという気概を感じる。その人間性が作品に現れていますよね。
——物語のテーマソングを書きおろすというのは初かと思いますが、今作『orion』はどうやって楽曲制作を始めたのでしょうか?
米津:昨年は、中田ヤスタカさんと映画『何者』の主題歌『NANIMONO(feat.米津玄師)』を一緒に制作させていただいたのですが、アニメのテーマソングを作るのは今回が初めてでした。そこでまず、“どうやって作っていこう”というところからのスタートでした。物語が最初にくるわけだから、じゃあそのストーリーを下から音楽で支えよう、と。それをするには、『3月のライオン』を自分の中で咀嚼し直し、自分のフィルターを通し再構築することだったんです。
——なるほど。そのやり方とは?
米津:原作を読んだ時、主人公の桐山零くんとリンクする部分が多かったんです。零くんは将棋ですけど、僕は音楽。将棋(音楽)を通してひとつの世界を切り拓いていく様なども共通していた。ということは、零君という立場で曲を作るというのが、一番自分の中でしっくりくる自然な行為だと感じたんです。
——『orion』はストリングも壮大で力強く、寒い冬の日にもぴったりな曲です。
米津:今年1月からの第2クールの放送だったこともあり、冬の歌をテーマに曲を作り始めたんです。冬って凛としたイメージがありますよね。そして空気が乾燥すると星がよく見える。冬の曲を作ろうと決めた時に、まず自分の記憶の中にある冬ってなんだろうと考えたんです。そしたら、子どもの頃に夜空を見上げたらすごく星がキレイに見えて、その中にオリオン座を見つけたことを思い出したんです。そのキラリと光るオリオン座は、星座を見つけた僕の原体験。とても印象的な出来事だったのでよく覚えていました。だからオリオン座をキーに曲を作っていきました。
——そして、2曲目『ララバイさよなら』はまったく違うテイストです。
米津:なんというか、人を信用していないという想いはずっと自分の根本的な原動力になっていて。人のことをあまり信用したくない自分がいるんですよ。誰の味方にもなりたくない。誰の味方にもならないことによって、すべての人にやさしくありたい。これが僕の基本原理。そんなエンジンを子どもの頃に自分の中に作ったんですよね。
——なるほど。
米津:それが今なお強く残っていて、それをエンジンとして音楽を作っている自分がいます。だからこそ『orion』制作後にこういう曲を作ることによって、自分の中で一回フラットにしておく必要があったんです。
——3曲目はアイリッシュ感を感じる『翡翠の狼』。聴きながらこの狼が愛おしく感じました。
米津:これは自分自身のことですね。この曲は結構前から歌詞もメロもコードもワンコーラスだけずっとあって。今回カップリングで入れることになり続きを作り始め、2番目“りんごの花咲く春の日まで〜”から、今回書き足した歌詞です。客観的にはどうかわかりませんが、自分としてはすごく歪な歌詞になったと感じています。2番目から切断面が見えてしまうというか。でもそれはそれで美しいし、おもしろいと感じたのでそのまま形にしました」
——『orion』『ララバイさよなら』『翡翠の狼』と、多彩な3曲が詰まった1枚になりましたね。そして今作もジャケットをご自身で描かれています。
米津玄師『orion』ライオン盤ジャケットアートワーク
イラスト:米津玄師 (C)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会
米津玄師『orion』オリオン盤ジャケットアートワーク
米津:はい。今回ライオン盤は零くんをイメージし、オリオン盤の花束も『3月のライオン』からイメージしました。毎回ジャケットを描く時はその音源を聴きながらで、今作も曲を聴きながら手を動かしていたらこの2枚ができあがりました。そして、オリオン盤に付いているクリアシートのイラストは左手で描いてみました(笑)。初めてだったんですが、左手で描くと別人の絵みたいな感じなるのは新しい発見でした。
——昨年は音楽以外でもユニバーサル・スタジオ・ジャパン®の“やり過ぎコラボ”へのイラスト参加、ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9〜漫画、9番目の芸術〜」の公式イメージソング制作&イラスト参加、初の単行本「かいじゅうずかん」など、幅広い活動が多かったですね。
米津:2016年が始まる時、今年はいろんな人たちと何かを作ろうという指針を打ち立てたんです。これまで基本的にはずっとひとりでやってきたので、他の人の関わる作品作りをやってみたかったんです。
——そこで拓けた扉はありましたか?
米津:中田ヤスタカさんとの曲作りはやはりとても大きな出来事でした。そもそも自分が作曲をしていないことも初めてだったので。“他の人は一体どういうふうに曲を作っているのか”。そのサンプル例が中田さんっていうのも特殊過ぎますが、やっぱりものすごい人で。目から鱗が落ちる瞬間が何度もありましたね。
———では最後に、米津さんにとっての“運命の出会い”とは?
米津:今回エンディング曲を書かせていただいた『3月のライオン』の舞台である月島。以前月島に住んでいたことがあり、住んでいた頃に原作を読んでいたんです。そんなこともあって、今回お話をいただいた時はある種の運命を感じました。
米津玄師:
ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年本名の米津玄師としての活動を開始。
その独特なサウンドメイクをした楽曲の強さと、リアルな言葉の数々は圧倒的で、今の音楽シーンにはない新鮮さを鮮烈に刻み話題に。2015年リリースの3rdアルバム「Bremen」ではオリコン週間チャート1位、iTunes週間チャート1位、BillboardJapan週間チャート1位という三冠を達成、2015年度レコード大賞優秀アルバム賞受賞した。
2016年はユニバーサル・スタジオ・ジャパン15周年企画 “やり過ぎ” コラボ、ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 ~漫画、9番目の芸術~」公式イメージソング、佐藤健・有村架純らが主演の映画「何者」の主題歌を中田ヤスタカ×米津玄師として初のコラボレーション作品として発表したりと、多岐にわたる才能を披露した。
同年9月に発売したシングル「LOSER / ナンバーナイン」はオリコン週間シングルランキング自身最高の2位を記録と勢いは止まらない。
米津玄師 オフィシャルサイト:
http://reissuerecords.net/
■米津玄師 New Single『orion』
発売日:2017年2月15日(水)
オリオン盤(初回限定):CD+クリアシート+ハードカバー仕様 ¥1,700+税 / SRCL-9313
ライオン盤(初回限定):CD+DVD+紙ジャケット仕様 ¥1,700+税 / SRCL-9314〜9315
通常盤 ¥1,200+税 / SRCL-9316
<全形態共通・初回封入>
7/14(金)・7/15(土)東京国際フォーラム ホールA公演 チケット最速先行応募券封入
応募期間:2/14(火)12:00〜2/19(日)23:59
<CD収録曲>
M-1:orion
M-2:ララバイさよなら
M-3:翡翠の狼
<DVD収録内容> ※ライオン盤のみ
「3月のライオン」第2クールエンディング ノンクレジットムービー
「orion」…NHK総合TVアニメ「3月のライオン」第2クール エンディングテーマ
■米津玄師 LIVE 2017 / RESCUE
日程:2017年7月14日(金)&7月15日(土)
会場:東京国際フォーラム ホールA
■LINE LIVE「米津玄師「orion」MVスペシャル対談」
配信日時:2017年2月15日(水)21:00〜22:00(予定)
配信URL:https://live.line.me/channels/73/upcoming/1014869
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