STU48『暗闇』瀬戸内からのあたらしい船は波に乗るか?
日本の国民的アイドルグループAKB48に、またひとつ、姉妹グループが生まれた。その名もSTU48(エスティーユー フォーティーエイト)。1つの海と兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛の7県を舞台に活動を行うアイドルグループだ。本記事ではSTU48の魅力を紹介するが、何はともあれ楽曲が素晴らしいので、まずはこちらのMVを見ていただきたい。
(STU48『暗闇』MV)
STU48とは?
STU48は、国内6番目のAKB48姉妹グループとして2017年3月に誕生。瀬戸内エリアを本拠地とし、「1つの海、7つの県」を股にかける、AKB48グループ初の広域アイドルグループ。瀬戸内(SeToUchi)の頭文字からSTU48と命名された。
メンバーオーディションは瀬戸内海隣接の7県で行われ、最終オーディションでは44名が合格となった。新潟市を拠点とするNGT48と同じく、地域に根ざした活動が期待される。平均年齢が16歳と、AKB48グループ最年少のグループでもある。
中心メンバーは、AKB48兼任となる岡田奈々。AKB48として9枚目のアルバム『僕たちは、あの日の夜明けを知っている』のジャケット、同アルバム収録のリード曲『靴紐の結び方』で初センターに抜擢された、AKB48グループでいま一番勢いのあるメンバー。岡田奈々は、STU48発足に際してキャプテンに就任し、メンバーオーディションの段階から携わってきた。また、2017年11月までは、HKT48の指原莉乃がSTU48兼任とSTU48劇場支配人に任命されていた。
現在センターを務めているのは瀧野由美子(たきの・ゆみこ)。瀧野由美子は、AKB48の50thシングル『11月のアンクレット』で初めてAKB48選抜メンバー入りし、続くアルバムリード曲『靴紐の結び方』でも選抜入りしている注目のメンバーだ。
1stシングル『暗闇』の文学的な歌詞
上に紹介したMVは、2018年1月31日リリースの1stシングル『暗闇』。
まずはタイトルに注目したいが、AKB48グループのきらびやかなイメージとは真逆を行くような、対照的なタイトルだと言える。AKB48グループのメジャーデビューシングルのタイトルはそれぞれ、AKB48『会いたかった』、SKE48『強き者よ』、NMB48『絶滅黒髪少女』、HKT48『スキ!スキ!スキップ!』、NGT48『青春時計』だった。こうして並べてみるとやはり、『暗闇』という言葉が持つ鋭さが際立つ。
楽曲としてはBPM遅めの落ち着いた曲で、元気に盛り上がる曲ではない。しかし、感傷を誘うメロディーとアコースティックギターの音色が印象的で、どことなく往年のフォークソングを連想させる。歌詞をしっかり聴きこみたくなるタイプの曲だ。
「太陽は水平線の彼方を目指して Rを描き ただ落下する夕暮れに」という歌詞で始まるこの曲は、瀬戸内海に乱反射するオレンジ色の夕焼けを一瞬でイメージさせ、すぐに深い夜へと聴く者を引き込む。「孤独」「綺麗事」「傷つき」、そしてタイトルでもある「暗闇」と、ネガティブに思える言葉が散りばめられ、全体の色調は暗い。都会の夜と違って、この曲が示す夜は文字通りの「暗闇」だ。だからこそ、ラストの「何かが見えて来る」という言葉が重みを持つ。
STU48キャプテンの岡田奈々は、本作について次の通りコメントしている。
とても希望にあふれた楽曲で、普段の生活で暗い気持ちになることもありますが、その中に必ず光があって、進むべき道があると思うので、誰の心にも共感できる楽曲になっていると思います。
岡田奈々のコメントからもわかる通り、この曲は、暗闇のなかで目を凝らした先にふっと見えてくる希望を歌っている。闇から光へのコントラストを見事に表現した曲だと言える。「夜よ僕を詩人にするな」というポエジー全開のサビは、作詞家・秋元康の膨大な仕事のなかでも上位に入るパンチラインかもしれない。
(ちなみに、やや込み入った説明になるが、冒頭の焼けるような夕焼けの赤は、間接的に、直後に続く「何かをやり残してるような悔いはないのか?」という歌詞の、とくに「悔い」という言葉が持つ「焦れ(じれ)」のイメージに重ねられており、詩の技法として相当高度な技術が使われている――たとえば、夏目漱石の小説『それから』の主人公が、ラストで「焦る焦る」と言いながら、焼け尽きるような頭で真っ赤になる世の中を眺めているシーンを想起してもらえば、『暗闇』の歌詞が持つ文学性をおわかりいただけるのではないだろうか)
AKB48+坂道シリーズ+笑い=STU48?
ファンのあいだからは、文学的な歌詞や曲調から、乃木坂46や欅坂46の『坂道シリーズ』との類似点を指摘する声もある。確かに、『暗闇』や、初のオリジナル曲となった『瀬戸内の声』などは、坂道シリーズの繊細さを引き継いでいると言えるのかもしれない。
(STU48『瀬戸内の声』MV)
しかし、ライブは活力と笑いにあふれている。
都内での初単独公演となった2018年1月21日の『STU48単独コンサート〜ファンになってください〜』@TOKYO DOME CITY HALLでは、AKB48のシングル曲を多数盛り込んだセットリストでファンを盛り上げた(『フライングゲット』『ポニーテールとシュシュ』『ヘビーローテーション』など)。さすがはAKB48の姉妹グループということもあり、現在の王道アイドルらしさを感じさせる内容だった。
また、椅子やたわしなどの小道具を使ったパフォーマンス、方言交じりのMCでは、何度も大きな笑いを起こした。メンバーそれぞれの個性はこれから発見され磨かれていくだろうが、ボケ担当もツッコミ担当も原石はかなり豊富なようだ。メンバーのほとんどが瀬戸内エリア出身という地域性も関係しているのかもしれない。
つまり、AKB48グループが持つ明るさや力強さと、坂道グループが持つ繊細さの両方を兼ね備え、さらには笑いの素養も持ち合わせているのが、STU48というグループの特徴なのではないかという気がする。
「船上劇場」というユニークなスタイル
2017年にはNGT48が躍進し、都市部ではない地域密着・地元貢献型のあたらしいメジャーアイドルの道を切り開いた。STU48もそれに続く形となるが、このグループを唯一無二の存在にするのが「船上劇場」という他に例を見ないスタイル。
なんと、船の上に専用劇場を作り、その船で瀬戸内海に隣接する7県をまわるというのだ。
この試みには総合プロデューサーの秋元康も「今までとは違う試みに戸惑っている」(【秋元康コラム】STU48 船上劇場の未来)と発言している。
2018年1月現在、船上劇場はまだ完成しておらず、どんなものになるか想像がつかないが、間違いなくユニークな、あたらしいアイドルの形になるだろう。
あたらしい船は波に乗るか
さて、本記事では、STU48が持つ楽曲の素晴らしさ、AKB48グループと坂道シリーズの繊細さに笑いを合わせたハイブリット感、そしてユニークなコンセプトに焦点を当ててみた。STU48の魅力が少しでも伝わっていれば嬉しいのだが、しかしそういった魅力とは別の話として、この2018年、STU48には向かい風が吹いているように感じられる。
まずは、はじめに触れたように、キャプテン岡田奈々がAKB48の9枚目のアルバムのジャケットとリード曲でセンターに選ばれたということ。これによってSTU48は、現在のアイドルシーンでトップに立つメンバーを中心に据えてメジャーデビューすることになる。
さらに、2018年1月21日に行われた『第3回AKB48グループドラフト会議』においては、1巡目で2チーム競合の中村舞、2巡目で最多5チーム競合の沖侑果(おき・ゆうか)を引き当てた上、指原莉乃に「選ばれなかったら自分のプロデュースしているグループに入れたい」と言わせるほどの逸材・信濃宙花(しなの・そらは)を5巡目で指名。くじを引き当てた岡田奈々は「神の手」と言われるほどの強運を発揮し、今ドラフトの主役に躍り出た。野球で言えば新人王候補のルーキーたちを獲得し、STU48の出だしは100点満点以上の出来だと言える。
何かがブレイクするときは、いくつかの幸運が重なり合うもの。AKB48の9枚目のアルバムとドラフトで選ばれた5人の新メンバーの行方次第では、一気にシーンをひっくり返す可能性もありうる。
STU48というあたらしい船は波に乗るか。
『暗闇』という曲の歌詞は、その答えを予言しているように思える。
STU48
STU48 オフィシャルサイト
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