SAKEROCKの“声”浜野謙太の存在
SAKEROCKを語る上で外すことができないのは、ある意味で星野源以上に目立っていた、トロンボーン、浜野謙太の存在でしょう。SAKEROCKのライブ中では、スキャットとして、声を張り上げて意味のよくわからない言葉を矢継ぎ早に吐き出し、奇妙な振りで踊っている場面をよく見かけられました。それを、メンバーが優しく笑いながら見守っていたのは、とても印象的な光景でした。彼らのライブDVDなどからも、男子中学生のようにはしゃいで遊ぶ彼らの姿を観ることができます。
しかし、彼は単にSAKEROCKのコメディリリーフという立場にいたわけではありません。歌声を出さないインストバンドの中で、彼の吹くトロンボーンが、SAKEROCK唯一の“声”だったのです。
浜野謙太のトロンボーンを、SAKEROCKの“声”としてメンバーも捉えていたことが分かるのが、『MUDA』という曲です。これは、星野源ら他のメンバーがコーラスを歌っているのですが、その声は、先のトロンボーンの旋律に沿うようにして歌われているのです。そのため、トロンボーンの声をより引き立たせるためのコーラスとなっています。たしかに、浜野謙太の奏でるトロンボーンは、力強いリズム隊に後押しされながらも、その力自体を柔らかいものに変えて、全然違う印象をこちらに届けてくれます。まさしく、SAKEROCKの声の役割を担っていたのです。
解散、そして「あの世」へ…
そんなバンドも、2015年にメンバーそれぞれが個人での活動を増やしていったことをきっかけにして、解散。先に脱退した田中聲、野村卓史を除くと、浜野謙太は、自身のバンドである在日ファンクの活動を始め、俳優業、タレント業にも勤しんでいます。伊藤大地は、ハナレグミやV6などの楽曲レコーディングに参加しています。そして、リーダーの星野源は、2016年にドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主演と楽曲で大ブレイクし、ソロアーティストとして独自の地位を築き上げています。
それぞれの道を歩み始めたSAKEROCKだが、あらためて冒頭で紹介した楽曲『SAYONARA』に振り返ってみましょう。
先に脱退した田中、野村両氏も含んでの全員集合で収録され、これが文字通り、彼らの最後の楽曲となりました。
『1stアルバムのようなラストアルバム『SAYONARA』が完成しました。この1枚で思い残すことなく、自分が結成当初から目指していた音、インストバンドSAKEROCKのすべてを出し切ることができたと思います。』
星野源の解散コメントです。その言葉通り、『SAYONARA』にはSAKEROCKの魅力、力強くもどこか気が抜けていて、激しいのに緩やかで、明るいのにどこか寂しさも感じるといった、複雑さと柔らかさの混交した雰囲気の一曲となっています。聴いている側の様々な感情を刺激して、色んな気持ちで胸いっぱいにしてくれるのです。
ラストライブのMCで、星野源は「次のライブはあの世で、みんなで集合しましょう」と言いました。ならば、最近知ったことを後悔している人も遅くはないはずです。次のライブがくるまでに、現世でSAKEROCKの曲を何度も聴いて復習すればいいのです。いずれまた、あの世で聴こえてくるはずのSAKEROCKの曲を、ただ楽しみにして待ちましょう。
ゆりいか
SHARE
Written by