12月21日、緑黄色社会のワンマンツアー『溢れた音の行方』のファイナル公演がマイナビBLITZ赤坂で行われた。11月7日にリリースしたミニアルバム『溢れた水の行方』を携えて、全国をめぐってきたリョクシャカ。そのステージには、バンドのさらなる成長を確信する「音」が溢れていた——。2時間に及ぶ熱演をレポート。
Photography_Miyu Ando
Text_Osamu Onuma
過去最大規模の会場でも「狭い」と感じた、楽曲のスケールの大きさ
満員の会場が暗転し、フロアから歓声が上がった。ステージは緑から白、青、紫と鮮やかな照明で照らされ、鳴り響くSEとともに観客の高揚感を掻き立てていく。音に合わせて自然と起こったハンドクラップの中、メンバーが現れる。照明が逆光となってその表情は確認できないが、光の中に浮かび上がる姿から、全員が神経を集中させていることが伝わってくる。
SEから流れ込むように聴こえてきたのは『Alice』の力強いベースラインだ。長屋晴子(Vo・G)はステージを動き回り、サビでは観客との掛け合いも展開しながら会場を盛り上げていく。peppe(Key)の切ないキーボードで幕を開けたシャッフルビートの2曲目『恋って』では、観客は大合唱でバンドの熱演に応え、続く『Bitter』でもさらにボルテージを上げていく。曲中では小林壱誓(G)、穴見真吾(Ba)の二人がステージ前方の台にのぼって観客を煽り、パフォーマンスでも魅せることを忘れない。
この日の会場となったマイナビBLITZ赤坂は、バンド史上最大規模の会場だ。しかし、たった3曲を見ただけで、すでにこのステージは彼らにとって狭いと感じてしまった。それはこのツアーで、彼らがいかに多くのことを吸収してきたかを証明するかのようだ。
「今回はみんなと感情を共有できるツアーにしたいと思ってきました。楽しい気持ちも、それ以外も、私がいろんな曲をいろんな気持ちで歌うから、その時の気持ちを大事にして素直に聞いてくれたらうれしい。みんなでいい夜にしようね」
そんな長屋のMCのあとで歌われたのは、新作『溢れた水の行方』に収録の『視線』。ピアノとヴォーカルを中心とした歌い出しにサポートドラマー・比田井修の力強い音が加わると、エモーショナルなサウンドがさらに熱を帯びていく。緑黄色社会の音楽はレコーディングされた音源だとそれぞれのパートの音が独立しながら絡み合う印象だが、ライブで聴くとすべての音が一丸となって飛び込んできて、こちらの感情に強く訴えかけてくる。
オレンジ色に染まったステージで畳み掛けるように『またね』を演奏すると、続いて披露されたのは新曲『ひとりごと』。シャッフルビートの軽快なリズムの上で4人の歌と演奏が飛び跳ねるナンバーで、観客たちは手拍子をしたり、体を揺らしたり、口ずさんだりと思い思いに楽曲を堪能している。初めて聴く人が圧倒的に多いにもかかわらず、こうしてすぐに親しめるのは緑黄色社会の楽曲が持つポップさゆえだろう。
さらに、新作から『サボテン』を演奏。「ごめんね/私はサボテンさえ上手く育てられずに/やりすぎた水が溢れていったよ」という歌詞が『溢れた水の行方』というタイトルともリンクする、新作のキーとなる一曲だ。長屋はこの曲で溢れた水を愛にたとえ、咲くことのなかった花への悔恨を歌い上げる。では、溢れた「音」は? 緑黄色社会の溢れた音は、この日の会場がすべて受け止めていたと思う。楽曲の物語の悲しさを超えて、そうして音楽が鳴り響く幸福にただ胸を打たれる、美しい時間がそこにはあった。
「もっと広い世界を見たい」決意とともに届けられた歌
思いの限り歌を届けた長屋は、ギターを置いて「楽しんでくれていますか?」と観客に問いかける。会場を見渡しながらその広さに感慨を漏らし、来てくれたことに礼を述べると、フロアは暖かい拍手の音に包まれた。
「ここからはより自分自身と向き合った歌を歌います」というMCのあとは、『regret』『Re』『大人ごっこ』を立て続けに披露。これまではステージを縦横に動き回るなどして盛り上げていたメンバーも、今は音に向き合うことに集中しているような面持ちだ。ステージの上空にだけ光があって、まるでバンドが海底で演奏しているかのように見える『Re』、ギターソロの激情と連動するように真っ赤な光が会場に満ちた『大人ごっこ」など演出も美しく、ステージに釘付けになってしまった。
圧巻の演奏のあとは、メンバーそれぞれが今回のツアーの感慨を語る。小林が「最高です東京!! あなた方最強だよ!」と興奮気味に叫べば、客席からは「お前もな!」というゆるいレスポンスが飛び、peppeは「曲を歌ってくれると、みんなが思っている以上にこっちまで声が届いている。すごいんだよ!」と瞳を輝かせながら語る。穴見は「その土地で見たお客さんの表情を頭に入れながらツアーを回っていると、日常でもツアーのことを考えていて。これからの緑黄色社会をこうしていきたいと色々考えるツアーだった…………っていう」と、いい話をしながらもいまいち格好がつかず、会場を和ませた。
ここから、いよいよライブもラストスパートへ。メンバーの力強いコーラスとともに肯定のメッセージが響く『君が望む世界』、穴見のベースがヘヴィなグルーヴを打ち鳴らした『Never Come Back』、イントロで歓声が沸き起こった『アウトサイダー』。サビでは観客が揃って手を掲げ、長屋の喉が枯れんばかりの絶唱が空間を切り裂いた。
穴見が「東京のみんなの『溢れた音』、聞いてないなと思って。今から大きな声出せますか?」と煽ると、オーディエンスの歓声がフロアを震わせる。『リトルシンガー』『真夜中ドライブ』という疾走感ある楽曲で、クライマックスへと加速していく。
「今日は本当に集まってくれてありがとう! ツアーは終わってしまうけど、本当の意味での私たちの溢れた音の行方はどうなっていくんだろう。でも、もっと広い世界を見てみたい。みんなと一緒に夢を叶えていきたいです。これから先に続く景色が想像できてしまうような声を聞かせてください」
ファンと一緒に、バンドのさらなる飛躍を誓うような言葉を語ったあと、最後に披露されたのは『あのころ見た光』。この曲を歌っている時、伸びやかで安定感のある長屋の歌声が、時おり少し震えた。加速する自分の感情にブレーキを踏まず、すべてを解放するようなその歌声が、力強いバンドの演奏に乗せて響き渡る。観客もステージに声を届けるように全身全霊で歌い、満員の会場がひとつになった瞬間だった。
終わりを新たな始まりに変えて
4人が深くお辞儀をしてステージを去ると、フロアのどこかから『恋って』のコーラスが聞こえだす。一人からはじまったその歌声は徐々に大きくなっていき、会場全体で大合唱が沸き起こった。そんな温かな空気の中、ステージにぱっと明かりがつくと歌声はそのまま歓声に。歌ってアンコールを待つというファンのアイデアに、メンバーは喜びの気持ちを語った。
アンコール1曲目に演奏されたのは『want』。本編では自分の持ち場を離れなかったpeppeがステージ前方に走っていき、「私も行きたかったんだよねー!」と笑顔で会場を盛り上げた。
そして、最後を飾ったのは『始まりの歌』。きらめくサウンドに合わせてまたもシンガロングが起こり、勢いよく放たれた銀テープが降り注ぐ。終わりの瞬間を新たな始まりに塗り替えて、フィナーレを鮮やかに彩った。
すべての演奏を終えたあとは、このツアーの恒例だという写真撮影。その時、長屋が「本当に終わっちゃう」と誰に言うともなく呟いた。その声には寂しさが満ちていたが、それは同時にツアーの充足を物語るものでもあった。
それに、こんな素晴らしいステージを見せてくれた彼らなら、この先も今日のような、あるいはもっと素晴らしい瞬間が、この先何度も訪れるだろう。緑黄色社会の「溢れた音」が、残さずファンに受け止められた今夜。その音は、これからますます大きくなっていくに違いない。そんな予感に満ちた夜だった。
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