永原真夏の『GREAT HUNGRY』
永原真夏(ながはら・まなつ)が1stフルアルバム『GREAT HUNGRY』をリリースする。今作について、本人は次のようなコメントを発表している。
とっっっても、自信作です。「ファック ユア ボーダー!」の精神ゆえ、打ち込み、フォーク、ロックなど、骨組み的にはジャンルは多岐に渡りますが、これは、まごうことなきわたしのパンクです。
さて、どんな作品なのか? そもそも永原真夏とはどんなアーティストなのか?
永原真夏とは?
2008年に結成されたギターレスバンド・SEBASTIAN X(セバスチャン・エックス)のヴォーカリスト。SEBASTIAN Xは、永原真夏(Vo.)、飯田裕(Ba.)、沖山良太(Dr.)、工藤歩里(Key.)の男女4人編成。2014年にミニアルバム『イエーイ』でメジャーデビュー。パワフルで愛らしい楽曲と、文学的な歌詞の強さが魅力。自主野外イベント『TOKYO春告ジャンボリー』を3年連続で開催し、奇妙礼太郎、曽我部恵一、平賀さち枝、大森靖子、東京カランコロン、N’夙川BOYSなどが出演した。新世代のバンドとして注目されたが、2015年に一旦活動休止。
2017年、3年振りとなる『TOKYO春告ジャンボリー』を開催して復活。イベントにはWiennersやHave a Nice Day!などが参加した。
(SEBASTIAN X『サディスティック・カシオペア』MV)
永原真夏自身は、2015年よりソロプロジェクトとして「永原真夏+SUPER GOOD BAND」を始動。EP『青い空』『オーロラの国』『HAPPY GO LUCKY』や、ミニアルバム『バイオロジー』などの作品を次々と発表。多数のライブやフェス出演を果たす。『オーロラの国』ではポエトリー・リーディングの要素も大胆に取り入れるなど、ポップでありながらその枠組みを広げるような試みを続けている。
(永原真夏『オーロラの国』MV)
作詞・作曲だけでなく、グッズ制作も永原自らが手がける。永原真夏+SUPER GOOD BANDの1stEP『青い空』リリース時には、エリザベス宮地と共同制作したZINE『SALVATION JOURNEY』を発表。冊子はSEBASTIAN X活動休止後の空白の10日間の写真をもとに構成されている。その際の映像も、『青い空』収録曲のトレーラー+ドキュメンタリーとして記録されている。
(永原真夏/エリザベス宮地 ZINE『SALVATION JOURNEY』Trailer)
2017年はあっこゴリラとコラボしたファンク・チューン『ウルトラジェンダー×永原真夏』も話題になった。MVはベトナム・ホーチミンで撮影し、地元のダンサーや芸人を巻き込む楽しい内容になっている。
(あっこゴリラ『ウルトラジェンダー×永原真夏』MV)
1stフルアルバム『GREAT HUNGRY』
永原真夏のソロ名義初となるフルアルバム『GREAT HUNGRY』は、『オーロラの国』『HAPPY GO LUCKY』『フォルテシモ』などの人気曲から、新曲『あそんでいきよう』『うさぎ春日』など全11曲入りで構成される。
アルバム先行曲として『あそんでいきよう/フォルテシモ』が7インチ版でリリースされた。
永原真夏はおもにアカペラで作曲をしているそうだが、この曲では初めて打ち込みに挑戦。打ち込み&バンドサウンドが融合し、独特のグルーヴ感を生み出している。『GREAT HUNGRY』のなかでも特に素晴らしい曲なのでぜひ聴いてもらいたい。永原真夏のTwitterからその一部分を覗いてみよう。
真夜中にこっそり、「あそんでいきよう」のイントロダクションを。東洋化成にて。
お布団の中、一人iphoneアプリで作った音がそのままレコードになった。
バンド、エンジニア、カッティング職人、スペシャチームにより、製品になる。
わたしには過程が大切だ。働く人の手が好きだ。 pic.twitter.com/PEGaZom8FJ— 永原真夏 (@manatsu_injapan) 2018年2月1日
この曲は具体的に「回る」という視覚的体験を促す再生装置とセットで表現したかった。
ので、よりダイレクトなレコードという形で発売前の曲解禁も無しにした。流行りも意見も酔うほどまわる。でもこの曲を再生する瞬間は、永遠より遥かに長い、ただひたすら続く、君のための生活の音なのだ。 pic.twitter.com/1exGA55oF5
— 永原真夏 (@manatsu_injapan) 2018年2月13日
この曲のサビの歌詞は「ずっとずっと まわる世の中で ずっとずっと 遊んで生きよう」。
上のツイートによると、その「まわる」を視覚的に体験させる装置としてレコードが選ばれたわけだ。音源だけで作品を完結させないところが永原真夏らしいところだが、まずはこの歌詞に注目したい。
「遊んで生きよう」とはずいぶん楽観的で軽い歌詞に感じられるかもしれないが、永原真夏の作品で軽い言葉がでてきた時は要注意。そうした言葉には様々な意味が込められていることが多い。
たとえば、冒頭で紹介した『オーロラの国』にも「遊びにきてね」という言葉がでてくる。しかしこの曲は、「あたらしい国をつくろう 夢を語るには 陸も海も空も もう 狭すぎるから」という意味深な言葉で始まり、あらゆる偏見や価値観へ挑戦する曲。ある意味ではプロテストソングとも言える。そうした文脈で「遊びにきてね」という言葉が出てくるとき、それを文字通り「遊ぶ」と受け取ると、歌詞が持つ意味を見失うだろう。
だから、今回の『あそんでいきよう』も、前後の文脈が大切だと考えられる。
『あそんでいきよう』には、「ごはんより美味しいもの 寝るより気持ちの良いこと」というフレーズがある。
作家の村上龍はかつて、小説『悪魔のパス 天使のゴール』で、「セックスより気持ちがいい瞬間をどこかで持つことができるかどうかどうかで、男の価値が決まるような気がする」と書いた。この文と、「ごはんより美味しいもの 寝るより気持ちの良いこと」には、共通点がある気がする。それは何かといえば、どちらも生理的な充足を超えた精神的な充足について述べているということだ。もっと言えば、両者は「自分らしい生き方を見つけること」の重要さについて語っているのではないか。
もしそうだとしたら、「遊んで生きよう」とは文字通り遊んで生きることではなく、精神的に自分が充足できるような、自分だけの人生を生きようと歌っているのかもしれない。
そう考えて楽曲を聴くと、この曲の歌詞の奥深さがわかるだろう。
詩か、それとも歌詞か?
『GREAT HUNGRY』の1曲目に置かれているのは『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』。アコースティックギターと声のみで構成された曲で、非常にシンプルであり、それだけに、永原真夏の本質がもっともわかりやすく現れているかもしれない。MVを見てみよう。
(永原真夏『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』MV)
まるでミニシアター系映画のようなMV。夜の街を歌いながら踊る永原真夏を映したもので、どことなく寂しいような、悲しいような感じがする。
この映像については色々と語ることができそうだが、本稿では映像の内容ではなく、中央に歌詞が表示されていることに注目したい。
なぜ歌詞をすべて表示するかといえば、それは言うまでもなく、本作において歌詞が非常に重要な役目を負っているからだろう。「一編の詩に納まるスケールを君は決めたんだね」「死ななくちゃわかんない言葉」「雄弁な静けさを捨てて」など印象的なフレーズが多い。
実はこの曲、MVよりも先に歌詞が公開された。永原真夏によれば、「歌詞を最初に読むことで、音楽に対し、新たにイマジネーションを膨らませる体験をお届けしたい」とのこと。
この投稿を見ると、「詩を書いたのかな?」と思うだろう。現代詩手帖(現代詩の雑誌)かユリイカ(詩と批評の雑誌)に掲載されていてもまったく違和感がない。
さらには「目で見る『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』」と題して、歌詞を活版印刷したり、曲のイメージを五線譜に書き起こしたりしたイラストをギフトボックスとしてモノ化。
歌詞を引用したグッズの販売はよくあるが、それをここまで洗練させてモノ化させることは珍しい。
とことん歌詞にこだわっているように見えるが、では、『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』は詩なのだろうか? それとも歌詞なのだろうか?
こちらから問いかけておいて身もふたもない言い方をするが、永原真夏においては、そうした問い自体が不毛なのだ。なぜなら彼女のモットーは、冒頭に記した通り「ファック ユア ボーダー!」だからだ。
基本的に、詩は、そのままの形では音楽のなかで生きられない。反対に歌詞は、音楽なしには成立しない。『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』は、音楽のなかで生きながら、音楽のないところでも成立している。ということは、『ダンサー・イン・ザ・ポエトリー』は詩であると同時に歌詞でもあるということだ。
永原真夏にとって、“詩”や“歌詞”といった概念は、ほとんど意味をなさないようだ。
あらゆるジャンルや分類といった概念に中指を立てて彼女は歌う。
人はそれを「アート」と呼ぶ。
リリース情報
永原真夏 1st Full Album『GREAT HUNGRY』
2018.03.07 Release
【初回限定盤】DDCB-94018 / ¥2,778+税
【通常盤】DDCB-14058 / ¥2,315+税
[収録曲]
01. ダンサー・イン・ザ・ポエトリー
02. 僕の怒り 君の光
03. あそんでいきよう
04. オーロラの国
05. HAPPY GO LUCKY
06. うさぎ春日
07. 原チャリで荒野を行くのだ
08. Quatz Waltz
09. FIRE
10. フォルテシモ
11. SUPER GOOD
[LIVE REC] ※初回限定盤のみ付属
リトルタイガー
応答しな!ハートブレイカー
ホームレス銀河
青い空
オーロラの国
【7inch INFO】
永原真夏『あそんでいきよう / フォルテシモ』
2018.02.14 Release
HR7S084 / ¥1,700+税
インストアイベント
・タワーレコード渋谷店
【会場】タワーレコード渋谷店4F イベントスペース *観覧フリー
【日時】3月10日(土)19:30スタート
【内容】ミニライブ+サイン会
・タワーレコード新宿店
【会場】タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース *観覧フリー
【日時】3月16日(金)21:00スタート
【内容】ミニライブ+サイン会
ツアー情報
永原真夏 1st Full Album 「GREAT HUNGRY」リリースツアー
「まなっちゃんのGREAT HUNGRY TOUR 2018」
・旅立ちのワンマン編
2018年03月21日(水 祝)
会場:京都nano
料金:前売2.500円 / 当日3.000円
時間:開場18:00 / 開演18:30
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / O.A 花柄ランタン
・みんなと冒険編
2018年3月24日(土)
会場 : 瓦RECORD(長野県松本市清水1-1-2 / 女鳥羽川沿いイオンモール横)
料金:予約2,500円 / 当日3,000円(+1Dオーダー)
時間:開場18:00 / 開演18:30
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / 藤原亮(フジロッ久(仮))/ 岡沢じゅん / AND LORELEI / Her Braids
Open,Close&転換DJ:dj sleeper(りんご音楽祭)/ DJ NICO
2018年4月06日(金)
会場:沖縄G-shelter
料金:前売2.500円 / 当日3.000円
時間:開場19:30 / 開演20:00
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND /MC ウクダダとMC i know / 切刃 / machìna
2018年4月07日(土)
キトゥンレコ発『Use your melon』
会場:沖縄G-shelter
料金:前売2.000円 / 当日2.500円
時間:開場18:00 / 開演18:30
出演:音沙汰 / キトゥン / むぎ(猫) / 春はあけぼの
2018年4月14日(土)
会場:広島BACK BEAT
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場18:30 / 開演19:00
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / チーナ / ペロペロしてやりたいわズ。
2018年4月15日(日)
会場:岡山PEPPER LAND
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場17:30 / 開演 18:00
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / チーナ / ペロペロしたやりたいわズ。 / ふちなし(岡山)/ and more…
2018年4月28日(土)
会場:山形 酒田hope
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場18:00 / 開演18:30
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / モーモールルギャバン / 台風クラブ
2018年5月16日(水)
会場:名古屋TOKUZO
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場18:30 / 開演19:30
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND / モーモールルギャバン / The キャンプ
・ワンマン決戦編
2018年5月17日(木)
会場:大阪PANGEA
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場19:30 / 開演20:00
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND(ワンマン)
前説 アイアムアイ
出店:otonacium / 小磯竜也
「まなっちゃんのGREAT HUNGRY TOUR 2018」ツアーファイナル!
2018年5月30日(水)
会場:東京 渋谷WWW
料金:前売3.000円 / 当日3.500円
時間:開場19:30 / 開演20:00
出演:永原真夏+SUPER GOOD BAND(ワンマン)
出店:otonacium / 小磯竜也
※詳細についてはオフィシャルサイトをチェック!
永原真夏
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