King Gnuの常田大希によるプロジェクト「millennium parade」。その初となる東阪ワンマンライブ「millennium parade Live 2019」の東京公演が、12月5日に新木場STUDIO COASTで開催された。躍動する音楽と3D映像が一体となり、約2500人のオーディエンスを熱狂させた90分のライブをレポートしよう。
Photo_Ito Kosuke / Ayumu Kosugi
Text_Osamu Onuma
2500人が熱狂!millennium parade Live 2019 東京公演
入り口で配られた3Dメガネを掛けると、二重に見えていた映像がはっきりと浮かび上がった。スクリーンに映し出されているのは、millennium paradeのプロジェクトロゴと、その周囲を走り回る青色の赤子たち。一体これからどんなライブが始まるのか——新木場STUDIO COASTは、そんな期待に胸を高鳴らせた観客たちで超満員だった。
開演時間の20時を少し過ぎると突如会場が暗転し、喧噪が歓声へと変わっていく。スクリーンにはSiriを起動した時のような画面が表示され、ところどころ日本語が不自然な人工音声がメッセージを淡々と読み上げる。人工音声が「共にぶとんで参りましょう」と告げると、いよいよライブがスタート。SEとともにメンバーが登場し、会場はひときわ大きな歓声で埋め尽くされた。
1曲目に披露されたのはミドルテンポのアシッドファンク調の楽曲「Fly with me」。常田が拡声器を手にフロアを煽り、石若駿と勢喜遊(King Gnu)からなるツインドラムと新井和輝(King Gnu)のベースによる重厚なビートが会場に響く。スクリーンに映し出された映像ではピンク色の人間の顔の集合体がうごめき、時折派手なライティングが閃光のように炸裂し、9人のメンバーのシルエットを浮かび上がらせる。
2曲目の「盆」では開演前にスクリーンを走り回っていた赤子たちが鬼の仮面を被って踊り、そのユーモラスな映像にフリージャズを彷彿とさせるMELRAWのサックスが重なる。3曲目「WWW」では常田と佐々木集(PERIMETRON)、Cota Mori(DWS)の3人がダークなビートに乗せてラップを披露。かと思えば、急にやたら明るいファンファーレが挿入されたりして、壊れたジェットコースターのようにサウンドが展開していく。その間もスクリーンには夢遊病的な3D映像が映し出されており、圧倒的な情報量に観客たちは否応なしに飲み込まれていった。そこで表現されているのはまさに、常田がインタビューなどでも度々口にしている「トーキョー・カオティック」の混沌だ。
「WWW」が儚くも美しい江﨑文武(WONK)のピアノで締められると、一瞬の間を置いて披露されたのは「Veil」だ。彼らのファーストシングルとしてリリースされた楽曲だが、音源のような浮遊感はなく、リズム隊のタイトなグルーヴ感が前面に押し出されていた。紅一点の女性ボーカルermhoi(Black Boboi)の透き通った歌声が、荒々しさと洗練をギリギリのところで共存させた演奏の上で響く。
続けて披露されたのは「Swan Dive」。シャッフルビートに乗せて拡声器でラップする常田に、佐々木、Cota Moriの2人も声を重ねる。映像はこれまでのCGを駆使したものから一転、1960年代のアメリカアニメーションを思わせる映像が映し出され、異形の者たちがゆっくりと行進したり、頭部のない男たちが増殖したりしている。様々な存在が個を保ったまま歩くことと、頭がない匿名的な男たちが生まれては消えていくこと。それは相反するようだが、どちらも「東京」という都市の一側面だ。時折響く清涼感あるエレピの音色が寂しさをかき立て、都市のブルースのように響いて聞こえた。
モノクロの無機質な映像とインダストリアルなビートがトリップ感を誘う「NEHAN」を挟み、7曲目「SNIP」ではキャッチーなサウンドに乗せて常田、佐々木、Cota Moriの3人が体を大きく揺らしながらラップを披露する。「dark」では人型の地球外生命体のような存在がスクリーンに大写しにされ、ermhoiのスムースなボーカルに合わせて口を動かす。おそらくermhoiの口元をトラッキングすることで同期させているのだろうが、まるで地球外生命体が情感豊かに歌っているかのような錯覚を覚えた。
9曲目は「Stay!!!」。音源ではCharaがボーカルを担当していたが、今日はermhoiがリズミカルに肩を揺らしながらキッチュに歌い上げた。曲の最後では常田が拡声器を突き上げ「Staaaaaay!!!!」と絶叫。暗闇にそのシルエットが浮かび上がると、会場は大きな歓声に包まれた。
続く「call me」では、スクリーンいっぱいに映し出された電脳都市のような映像と高音圧のシンセサイザーが、目から、耳から飛び込んでくる。後半ではバンドメンバーやプロジェクトに関わったスタッフの名前がスクリーンに高速で映し出され、フロアからはこのステージを作り上げた人たちへの惜しみない讃辞が贈られた。
祝祭的なムードに包まれた空間に響いたのは、なんとKing Gnuの楽曲「Slumberland」。イントロが聞こえた途端、フロアからは悲鳴にも似た歓声が上がった。“Open your eyes,Open eyes wide”と人々をアジテートする「Slumberland」の歌詞がmillennium paradeの世界観と共鳴し、この空間にさらなる熱狂をもたらす。そこには、大勢の人が覚醒し、世界や社会を変えてしまう瞬間のような、凄まじいエネルギーが満ちていた。
大歓声がフロアを満たしたあとは、波が引いていくように静けさが訪れる。Srv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)時代の楽曲「ABUKU」だ。海の底にいるかのような演出の中、内省的な常田の歌声がメロウなサウンドとともに響く。楽曲が進行するとともにスクリーンの海には無数の微生物=プランクトンが投映され、ライブはそのまま13曲目「Plankton」に突入。動物たちが夜の都市を歩く神話めいた映像と抑制の効いたバンドの演奏、そしてミスティックなermhoiの歌声が会場を包んだ。
暴力的なまでに満ちていたエネルギーが混沌の中で巨大な渦になり、既存の世界を破壊する。それが「Slumberland」までの流れだったとすれば、「Plankton」で表現されたのは再生だ。破壊と創造を繰り返し、新たな物語がはじまるような荘厳さに、見ていて息を吞んだ。
ライブはいよいよクライマックスを迎え、DIORとのコラボレーションムービーのために書き下ろされた「lost and found」を披露。常田が「今までで一番いい曲が書けた」と自負する彼らの最新曲だ。疾走感ある演奏に乗せてermhoiがエモーショナルに東京の孤独を歌い上げると、スクリーンにはmillennium paradeのロゴが大きく投映される。圧巻のパフォーマンスに会場からは大きな拍手が響いた。
アンコールではメンバー紹介のあと、「DURA」をパフォーマンス。眩しいライティングの中、1曲目「fly with me」で投映されたピンクの顔の集合体や、おかっぱの女性のアップの映像が映し出される。ラストには「極楽」の文字が3Dで浮かび上がり、この15曲90分のステージを象徴づけた。
最後まで膨大な情報量を保ったまま、millennium paradeのステージは幕を閉じた。まだリリースされているのは4曲しかないうえ、「lost and found」のように新たな楽曲も生まれている。常田を中心としたメンバーのクリエイティビティは留まることを知らず、今も泉のように湧き続けているようだ。その圧倒的なエネルギーを浴びて、観客席の照明がついたあとも呆然としてしまっている顔が見受けられた。
終演後、スクリーンにはこんなメッセージが映し出されていた。
“では自撮りでもしてお帰りください。
お気をつけて、おパンクで。
愛してるぜ兄弟。”
圧巻のステージを繰り広げながらも、彼らはユーモアを忘れない。そしてそのユーモアには、自分たちの表現に心を躍らせる人たちへの信頼が滲む。新しいものを生み出す表現者の興奮と、それを目撃するオーディエンスの熱狂に満ちた一夜だった。
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