ラップだけでなくSSW的側面や、自作のイラストによるアートワークなどトータルな表現力
さて、肝心のクボタカイについてプロフィールをおさらいしよう。1999年生まれ宮崎出身の彼は2017年に拠点を福岡に移し、フリースタイルラップと楽曲制作を開始。2019年3月に自主制作EP盤『305』をリリースし即完売。リスナーであった石川陸監督のオファーを受け『moosiclab2019』にて映画主題歌に抜擢される。フリースタイルラップでも頭角を現し、NHKの番組『#ジューダイ』のラップ企画でラップ歴3ヶ月にもかかわらず優勝し、国内最大級のMCバトル『king of kings』西日本選抜など数々の大会で好成績を残した。
“春に微熱” (Official Lyric Video)
そして2019年12月、満を持してデビューEP『明星』をリリース。福岡と東京で開催したリリースパーティは即時完売し、話題を呼んだ。翌年2月には前述のシングル『パジャマ記念日feat. kojikoji』を、3月には『春に微熱』をリリースし、リリックビデオYouTube再生回数が速攻で200万回を超えた。
MENOU (Official Music Video)
そして8月にはみゆなのシングル『あのねこの話』にフィーチャリングで参加。2020年12月には新章突入を印象づける新曲『MENOU』の配信リリースと、この1年少々での飛躍ぶりがよくわかる。フリースタイルラップ全盛時代にテレビ番組を見て育った世代として、ラップスキルの高さはデフォルトで追求したであろうことに加え、トラックメーカーでもあり、シンガーソングライター的な資質も備える彼。アコースティックギターを弾きながら歌い、トラックに生音をふんだんに用いる有機的で聴感のあるナンバー。たとえば『せいかつ』に顕著だが、ラッパーに括りきれない表現スタイルもクボタカイの魅力だ。
また、イラストが得意でマーチャンダイズのアートワークを手掛けたり、Instagramに定期的に新しいイラストを投稿している。描かれている女性のタッチは少し古風な漫画調。そうしたセンスと楽曲が相まって、ヒップホップ ・ファン以外のJ-ポップ・バンドのリスナーにも親しみやすい入り口になっているのではないだろうか。
文学や映画、ロックの歌詞にも影響を受けた言語化感覚鋭いリリック
日本語、英語、韓国語など多言語のラップに耳が馴染んでいる若いリスナーにとって、ラップのうまさや心地よいフロウ、硬い押韻などはヒットの要因だ。その上で、クボタカイのリリックが支持を集めている理由は恋愛など10〜20代前半の日常生活の関心事を鋭い言語感覚で落とし込んでいるところだろう。
『明星』収録の『ベッドタイムキャンディー2号』には中原中也の引用が見られたりして、時代を超えてイノセントでありたい気持ちと相反する気持ちのせめぎ合いが見事な筆致で描かれている。また、思春期にクリープハイプを好んで聴いていたとインタビューで語っているように、恋愛や生き方を赤裸々に表現するロックミュージックがバックグラウンドの一つになっていることも自明だ。
柔らかく透明な声質で、人肌の温度感や、楽しい時間を過ごした情景が浮かぶようなディティールを解像度高く描く力。同時にふとひとりになった時、決して一つになれない諦観やノスタルジーが去来するあたりもクボタカイのラップを聴き逃せない理由だろう。彼の音楽にCharaや七尾旅人ら上の世代も注目しているのも納得できる。
2021年最初のシングルはポジティブかつリアルなダンスチューン
1stEP『明星』のリリースから1年で飛躍的に存在感を増してきたクボタカイ。昨年12月には約9ヶ月ぶりとなる新曲『MENOU』をリリース。エレクトロニックなサウンド使いや低音の充実、ボイスサンプルの効果的な使い方でトラックの進化は顕著。作詞面では瑪瑙(めのう)という宝石をテーマに恋愛の価値観や、ある局面での決断を描いたリリックも少し大人になった印象だ。
そして新章第2弾となる新曲『MIDNIGHT DANCING』が1月13日に、配信リリースされた。
MIDNIGHT DANCING(Official Music Video)
これまでで最もアッパーなダンスチューンで、ピアノリフが効いたレアグルーヴ〜ハウス、スクラッチが炸裂するスリリングな展開が痛快。リリックもアッパーな曲調にマッチしつつ、冒頭から
歌詞書けねえなら ワンバースとりあえずキックして
と、内情をぶっちゃけつつ捻りも見せる。これまで終わってしまったり、終わりそうな恋を描いてきた彼が、ほぼ初めて“君は君のままでいい”と、ポジティブな側面を見せるのも新鮮。もちろんそこに至るディティールはさすがクボタカイ。自分の弱さをダンスで蹴り飛ばす、そしてまた恋が始まるのかもしれないーー。ほとんどの人が自分の内側に向わざるを得なかった2020年を経て、新年はよりタフになれればいいな、そんな思いも伝わるナンバーだ。また、MusicVideoにはSNSや大企業CMの振り付け&出演で話題のダンサーyurinasia主宰のダンスクルー”jABBKLAB”の10代のダンサー達が出演している。
あらゆるジャンルや世代を巻き込んでいくクボタカイというアーティスト。彼の“第二章”は、まだ始まったばかりで、春には新たな動きもあるようだ。今は『MIDNIGHT DANCING』を聴きながら、その知らせを楽しみに待とう。
『MIDNIGHT DANCING』
2021.01.13リリース!
クボタカイ
公式サイト
https://www.kubotakai.com/
Twitter
https://twitter.com/_kubotakai_
Instagram
https://www.instagram.com/_kubotakai_/
YouTube
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