ソロデビュー15周年を迎えたヒップホップアーティストのKREVA。これに合わせ今年1月から9ヶ月連続リリースを行っていたが、そのトリを飾るアルバム『AFTERMIXTAPE』がリリースされた。ここでは、KREVA流“ミックステープ”と銘打たれた本作に込められた意味や、ヒップホップとJポップシーンを俯瞰しながら活動してきたキャリアを紐解く。
ヒップホップソロアーティスト初のオリコン1位を獲得
まず、KREVAというアーティストのキャリアをおさらいしておこう。もともとヒップホップグループKICK THE CAN CREWのメンバーとしてMC、トラックメイキングを担当し、2002年にはグループでNHK紅白歌合戦にも出場。その後、2004年からはソロ活動に専念。2004年9月8日(09/08で「クレバの日」)にはシングル『音色』で、KREVAとしてメジャーデビューを果たした。
音色 / KREVA
2006年にはセカンドアルバム『愛・自分博』で邦楽ヒップホップソロアーティスト初となるオリコンウィークリーチャート1位を獲得、その後にリリースされる作品も常にチャート上位に送り込んできた。「ヒップホップはあまり知らない」という人でも、KREVAの存在は知っているという人は多いだろう。それは彼がセールス的に成功を収めてきた証ともいえる。
くればいいのにfeat.草野マサムネ from SPITZ
加えて、そうしてチャートを賑わせることで日本の音楽シーンにヒップホップを根付かせることにも多大な貢献を果たしてきた。また、スピッツの草野マサムネをフューチャリングアーティストとして迎えたり、布袋寅泰、亀田誠治と結成した期間限定グループThe THREEとして活動したりするなど、Jポップシーンの重要人物とも積極的なコラボを展開。これらの活動によってヒップホップの枠組みを拡張し、ヒップホップとJポップ、両方のリスナーからの信頼を勝ち得る存在となった。その後も現在まで精力的な活動を続けており、日本の音楽シーンにおける超重要人物と言っても過言ではないだろう。
トップを走り続けるKREVAの「3つの魅力」
第一線を走り続けるKREVAの魅力はどこにあるのか。ここでは「①ラップスキルの高さ」「②トラックメイキングの巧みさ」「③ヒップホップカルチャーへの造詣の深さ」の3点を挙げて考えてみたい。
まずはなんといってもラップスキルの高さだろう。KREVAはラッパーたちのフリースタイルMCバトルの殿堂『B-BOY PARK MC BATTLE』で3連覇という偉業を成し遂げた経歴を持ち、自信に満ちた態度、キレのあるラップは彼のパフォーマンスを唯一無二の存在にしている。
続いて、トラックメイキングの巧みさ。KREVAはKICK THE CAN CREW時代からほぼすべての楽曲のトラックを自ら手がけており、本人も過去のインタビューで「音楽の中でトラックを作っているときが一番好き」と語っている。新たな機材からインスピレーションを受けることも多いそうで、その時代にフィットした先進的なトラックを、偏愛的なこだわりで作り上げているのだ。そうして生まれたトラックは、音楽が感情そのものになっているかのような豊かな情感があり、何度聞き返しても発見がある内容になっている。
3つ目が、ヒップホップカルチャーへの造詣の深さ。KREVAはいわば「ヒップホップをJポップシーンにどう位置付けるか」を考え、戦略的に行動し続けてきたアーティストだ。そのためには当然ヒップホップへの理解も安易なものではなく、「本質を掴み、それをシーンにフィットするように読み替える」という作業が必要になる。それはただ楽曲を聞いただけではわからない部分もあるが、彼の作品やリリースを見ていると、裏に隠された思いが見えてくる。
今年、KREVAは1月から9ヶ月連続リリースを行っている。ここからは、このリリースを例にKREVAのこの3つの魅力について紐解いてみよう。
9ヶ月連続リリース前半にみる、フォーマットへのこだわり
KREVA 「音色 ~2019 Ver.~」Music Video short ver.
第一弾となったのは、ソロデビューシングル「音色」をバンドスタイルで録り直した「音色〜2019 Ver.〜」。これを皮切りに、リリース第5弾「王者の休日〜2019 Ver.〜」まで、既存の楽曲をバンドで再レコーディングしたもののリリースが続いた。
だが、単に楽曲をコンスタントに発表していたわけではなく、ここにもKREVAなりのアプローチがみられる。たとえば、第1弾の「音色〜2019 Ver.〜」はデジタルシングルだが、第2弾の「基準~2019 Ver.~/ストロングスタイル~2019 Ver.~」はカセットテープだ。
さらに、第3弾「スタート〜2019 Ver.〜」「アグレッシ部〜2019 Ver.〜」「KILA KILA〜2019 Ver.〜」はそれぞれ配信限定、第4弾「C’mon, Let’s go~2019 Ver.~/パーティーはIZUKO?~2019 Ver.~」はアナログ盤7インチ。第5弾「王者の休日〜2019 Ver.〜」にいたっては、楽曲DLコード付きのボクサーパンツとして発売している。KREVAが歩んできたキャリアの中で登場してきた発売形態を網羅するように、多彩なフォーマットでリリースを展開しているのだ。そこには遊び心と、変化し続ける音楽というものに対する批評的な目線が浮かび上がる。
第6弾には、これらの音源と新録(というか、新再録)を加えた17曲入りのベストアルバム『成長の記録〜全曲バンドで録り直し〜』がリリースされた。ベストアルバムとしてキャリアを代表する曲を中心に収録されているが、コンセプト通り全楽曲がバンドサウンドで録り直されている。既存の音源ではなく録り直しを行ったところにも、ストリーミング主流で、プレイリストを作れば自分なりのベスト盤が出せる現在の音楽シーンの中でどうやって驚きを提供するか、という姿勢が見え隠れする。
また、KREVAはこれまでバンド編成でライブを行ってきたアーティストだ。そう考えれば、バンドによる再レコーディングには必然性もある。繰り返しパフォーマンスするうちに、ラップのフローが進化することもあるだろう。このアルバムは原曲と聞き比べることで、まさにその「成長の記録」を観察できる内容となっている。
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