純文学は自分の複雑な感情を観察する文学とも言えるため、感情と向き合うきっかけづくりにも効果的!
読みにくいと疎まれる文学ジャンル、純文学。
その実、大衆小説と明確な垣根はほとんどなく、そのハードルは思っているよりも低く、読むべき小説が近代作品、現代作品問わず多数存在しています。今回は純文学の代表作品を10本に絞り、あらすじとポイントを交えて紹介します。
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純文学とは?
純文学は、SFやサスペンスなどの大衆小説に対して娯楽性よりも芸術性に重きを置いた小説を総称するもの。ざっくりと言うならば、起承転結の有無とリズム感に違いがあります。
エンターテインメント小説は起承転結がしっかり付いており、「泣ける」「笑える」など帯に書かれているコピーに近い感情になることが約束されている、読者を置いてきぼりにしないことに対し、純文学は起承転結が絶対条件ではなく、感情の共感よりも、出会ったことがない新しい感情と向き合わせてくれる物語が多いです。しかし、時に読者を置いていってしまう側面もあります。
また、声に出して読んだ時に心地よいリズム感があるのも純文学の特徴。リズム感に加えて感情にフォーカスされている部分は歌詞に近いものがあり、音楽的で実は親しみやすいジャンルでもあります。
芥川賞として広く知れ渡っている芥川龍之介賞 は純文学作品として扱われている新人を選出するもの。純文学に関するアワードには他に三島由紀夫賞、野間文芸新人賞などが存在しています。
おすすめの純文学作品
尾崎世界観『母影』
あらすじ
主人公は小学校に通う少女。
学校に上手く馴染めず、居場所のない少女は母親の勤めるマッサージ店の片隅に身を寄せていました。マッサージしてもらいに来る客は何故か「ある?」と母に尋ね、いつも何かを探しています。それが見つかると嫌な音がして客の苦しそうな声が聞こえてきました。客の壊れたところを治している母は、少しずつ”変”になっていきます。
ポイント
コロナの影響によって10周年のアニバーサリーツアーが中止になってしまった尾崎世界観率いるバンド、クリープハイプ。
「この悔しさを音楽で晴らそうとすると、つくる曲自体がコロナに感染するような気がして、ひたすら小説を書いていました」という想いを背負い、文芸誌『新潮』に載せることを目標にして書き下ろされました。
この小説の魅力はその表現方法にあります。
全編が子ども目線で描かれているため、習っていないような難しい漢字は全てひらがなに開かれており、それが視覚的にも返って新鮮で、どんな言葉で例えるのが適切か分類できないような子ども目線の表現方法に圧倒されます。
ただの言い換えだけでなく、ダブルミーニングやブラックジョークが感じられたりと、歌詞さながらのパンチ力を持った名文が堪りません。
町屋良平『1R1分34秒』
あらすじ
デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。
試合が終わった後に、当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習など、ついつい考えすぎてしまう悪癖を持つ21歳プロボクサーの”ぼく”は自分の弱さに、嫌気がさしていました。
長年のトレーナーに見捨てられてしまい、変わり者の男、ウメキチが新たなパートナーとなります。不満を感じ反発しながらも”ぼく”の世界は少しずつ変わっていき、ボクシングに明け暮れていきます。
ポイント
第160回芥川賞を受賞した作品。題材はボクシングですが、スポーツに慣れていない人にも分かりやすく読みやすいです。
一文一文のリズム、テンポが絶妙で、ボクシングさながらのスリリングなスピード感を味わうことが出来ます。
主人公の抱えている物理的痛みと心理的な痛みを追体験するような流れになっており、物語の世界にすんなりとトリップできますよ。
又吉直樹『劇場』
あらすじ
小劇団の脚本家である永田は、高校の同級生の野原とともに劇団”おろか”を立ち上げます。しかしその前衛的な公演は酷評され、認められることはありません。そんなある日、女優を目指して上京してきた沙希に出会います。永田は沙希にしつこく話しかけ、しばらくしてから沙希をデートに誘い、さらに永田は自らが脚本を書いた演劇に、沙希を出演させます。
そのまま沙希と交際を始め、彼女のアパートに転がりこみました。やがて、沙希は専門学校を卒業し、洋服屋と居酒屋で働き始めますが、永田はヒモ同然の暮らしを続けます。
ポイント
又吉が芥川賞作品である「火花」よりも先に着手していた小説。本作は2020年に山﨑賢人主演で映画化もされています。不器用にぶつかりながら惹かれていく2人にほろ苦い感情になりますよ。だからこそ、そこに立ちはだかる現実の壁に何とも言えない苦しさに襲われます。
読後に爽快感がある作品ではありませんが、胸痛くなり、時に温かい恋愛小説です。
要所要所に入っているブラックユーモアもかなりクスッときて、そこも見所になっていますよ。
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