ライターとしても働いていた人気の小説家原田マハ。2021年、3作の映像化が決定中。
昨年作家デビュー15周年を迎えた原田マハ。
美術館で働いていた経験から美術に関する物語を多く上梓しています。その一方で『カフーを待ちわびて』など、うっとりする恋愛小説も得意で、ジャンルに囚われない自由な作風が魅力です。今回はおすすめの本を小説以外も含んだ9作紹介します。
原田マハのプロフィール
幼い頃から絵が好きだった原田マハは関西学院大学卒業後、原宿のマリムラ美術館(現在は閉館)に行き当たりで飛び込み、就職。
その後、森ビルの社長と出会い、建設が予定されていた森美術館の構想策定に乗り出し、流れるように入社します。設立準備室に所属し、世界中の美術館を森社長夫妻と視察する機会に恵まれました。
提携関係を結んだニューヨーク近代美術館(MoMA)に人的交流の一環で派遣され、6ヶ月間ニューヨーク駐在し、美術館のしくみを学び、企画展、国際展についてリサーチを行いました。そして森美術館の館長をなることが決定します。
人生のターニングポイントで、度胸を買われ、見事に人生を渡り歩いていた原田マハ。ここでもその”思い切り力”は健在で、直観で退職。何の展望もありませんでしたが独立を果たします。
その後はカルチャーライターとしての仕事を始め、ある日、取材として沖縄に赴いた際、浜辺で遊ぶ男性とラブラドール犬に出会います。
原田マハは「カフー」、沖縄の言葉で幸福と名付けられた犬との出会いをきっかけに小説を書き上げました。そして出版されたのが『カフーを待ちわびて』。
作品は高く評価され、日本ラブストーリー大賞受賞します。新たに作家としてのスタートを切った原田マハは『さいはての彼女』、ケータイ小説『ランウェイ☆ビート』、『ナンバーナイン』『キネマの神様』など多数の小説を発表。
2009年に森ビル時代の同僚から、世界一周を果たした日本の国産機、ニッポン号の小説を書かないかと持ちかけられ『翼をください』を書き上げます。この作品が原田マハの代表的なスタイルである”史実をベースにしたフィクション”の第1作目となりました。
2012年、上記のスタイルで描かれたミステリー小説『楽園のカンヴァス』が山本周五郎賞受賞。その後もコンスタントに作品を発表し続け、2021年にはゴッホを題材にした小説『リボルバー』を上梓。アート好き、読書家の間で話題になっています。
おすすめの作品紹介
『楽園のカンヴァス』
あらすじ
ルソー研究者の早川織江と、MoMAアシスタントキュレーターのティム・ブラウンは、世界的に有名な絵画コレクター、バイラーの邸に招かれ、そこで1枚の絵を見せられます。
それは、ルソーの「夢」に酷似した絵「夢を見た」。真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、二人に手がかりとなる謎の古書を読ませます。答えを出すのに7日しかない中、様々な人間の関与が発覚し、事態はどんどん複雑化していきます。
おすすめポイント
山本周五郎賞受賞作。
読めば読むほど、表紙のルソー作「夢」に引き込まれていきます。
小説の中には”ある物語”が描かれており、登場人物と物語の感想を共有できる構造がかなり魅力的でページを捲る手が止まらなくなりますよ。”史実を基にしたフィクション”は紹介した以外にも俵屋宗達の『風神雷神』、ゴッホをベースにした『たゆたえども沈まず』、ジャクソン・ポロックを題材にした『アノニム』など、多数あります。
『リボルバー』
あらすじ
パリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴は、小さなオークション会社に勤務しており、いつか高額の絵画取引に携わりたいと願っていました。ある日持ち込まれたのは、錆びついた一丁のリボルバー。それはフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたものだといいます。ゴッホはゴーギャンと9ヶ月だけ生活を共にしていたことがありましたが、喧嘩が原因でゴーギャンが出て行ってしまいます。ゴッホはその後リボルバーで自ら命を経ったとされていますが、ゴッホはゴーギャンに殺されたのではないかとも噂も。アート史上最大の謎、ゴッホの死に迫るミステリーです。
おすすめポイント
今年5月に発売されたばかりの新刊です。リボルバーには繰り返し巻き込んでいくという意味もあり、拳銃を巡って運命的に人をまこんでいく物語にまさにぴったりなネーミング。原田マハの特徴である”史実に基づくミステリー”で、どこまでが現実でどこまでが虚構なのか、そのボーダーラインが曖昧に溶けていく不思議な面白さを感じられます。
7月からは本書をもとに自ら脚本を手がけた『リボルバー』の舞台公演が始まる予定です。
『暗幕のゲルニカ』
あらすじ
ピカソの「ゲルニカ」はドイツ軍がスペインの街ゲルニカに行った無差別空爆をモチーフ
に描かれました。そんな背景を持つ「ゲルニカ」のタペストリーが、イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から消えてしまいます。
MoMAのキュレーターである八神瑤子はピカソの名画を巡った巨大な陰謀に巻き込まれていきます。
ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去も描きながら、瑤子が生きる現代と交錯。スペイン内戦下に創造した衝撃作を基にしたアートサスペンスを2人の視点で描いています。
おすすめポイント
第155回直木賞候補。
原田マハは20歳の時に京都市美術館で行われていた大規模なピカソ展で心を打たれたそう。ピカソの作品を書こうと決めたのはその頃からだったそうです。
また「暗幕のゲルニカ事件」は実際に起きたもの。2003年、イラク空爆前夜に当時のアメリカ国務長官コリン・パウエルが記者会見を行った際、タペストリーが暗幕で隠されました。誰が行ったのかは分かっていませんが、作品の持つ強いメッセージを世界中に伝えることになりました。
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