chayが初のベストアルバム『Heart Box』をリリースする。彼女の存在が広く知られるきっかけとなった「あなたに恋をしてみました」はもちろん、路上ライブ時代から歌い続けてきた「Together」の初CD音源化や、「Twinkle Days」「それでしあわせ」の最新アレンジバージョン、さらには「花束」「永遠の針」という2曲の新曲も収録された、chayらしいカラフルな16曲が並ぶベストアルバムだ。
「いろんなハートを詰め込んだアルバムにしようと思った」という心温まる本作。この1枚が生まれる背景には、コロナ禍によって抱いた強い使命感があったという。誰も予想していなかった時代が訪れた今、いちアーティストとして何を歌うべきか、その答えがこの『Heart Box』なのである。いわば表現者としての覚悟と愛情の両方が詰まった音楽作品だ。そんな『Heart Box』に込めた想い、結婚後初の新曲で見せた新たな歌唱、そしてこれから歩むべきキャリアについて、「今しかない感情を歌い続ける」というchayに話を聞いた。
Photography_Kiruke
Text_Ryutaro Kuroda
Edit:Miwo Tsuji
いろんなハートを詰め込んだ『Heart Box』
――初のベスト盤がリリースされますね。まずは選曲の意図から聞かせていただけますか。
chay : 今回のアルバムは、いろんなハートを詰め込んだアルバムにしようと思いました。恋心とか愛情とか、あったかい気持ちを届ける1枚にしたいと思って選曲と制作をしていきましたね。
――そのコンセプトはどういう発想から生まれたものですか?
chay : ベストアルバムを出そうと思った時点では、そんなにコンセプチュアルには考えはなくて、もっとシングル曲をふんだんに入れたものにしようと思っていたんですけど。コロナ禍の状況を考えた時、こんな時だからこそハートフルな気持ちを呼び起こすようなアルバムにしたいと思いました。
――なるほど。新曲2曲(「花束」と「永遠の針」)は最近書かれたものですか?
chay : そうですね。コロナ禍中に制作した曲です。作詞家のヤマモトショウさんが今の私の想いを汲んで書いてくださって、曲調も今までありそうでなかったものになっていますね。
――chayさん自身も、新しさを感じている曲になっていると。
chay : 今までは結構、“歌い上げる”ことが多かったし、テクニカルなことに気を付けてレコーディングしていたんですけど。今回はプロデューサーの方に「ビブラートも必要ない」って言われていて、それは私にとって凄く新鮮なことでした。これまでの楽曲よりも、真っ直ぐピュアに歌った曲になっていると思います。
――曲調が正反対な2曲ですが、どちらも日常のなんでもない風景の大切さを歌っていますね。
chay : 日常の大切さを改めて実感した時期でもあったんですよね。今年の5月に結婚を発表したんですけど、今の旦那さんと結婚しようと思ったのは、「花束」の歌詞にあるような<どんな綺麗な花束よりも何気ない毎日こそが大切>なんだって思えたからなんです。「花束」はそういうことを伝えたくて出来上がった曲ですね。
――なるほど。
chay : 今までは仕事一本でやってきて、性格的にもプライベートを充実させることに謎の罪悪感があったんですけど、結婚したことも歌に活きてくると思いますし、これからはもっと広い視野で曲作りができる気がしています。
――どちらも今のありのままの感情が反映されているんですね。
chay : そうですね。でも、今しか感じられない感覚を大事にしようという気持ちは、これまでもずっとありました。“あったかいな”とか、“美味しいな”とか、そういうなんてことのない幸せに気付ける人でありたいと思うし、私はそういう風景を曲にしたい。たとえば今回ピアノバージョンで収録している「それでしあわせ」も、幸せは自分の心の中で決めるものなんだっていうことを書いていて。何気ない日常にある幸せにフォーカスを当てるような曲を、ずっと書いてきたんだなって改めて思います。
インスタライブをきっかけに聴き始めた曲も
――ベスト盤を聴いていると、音楽的にはchayさんが影響を受けた70年代、80年代の音楽からの影響を感じますが、キャリアを経る中でリスナーとしての好みが変わってきたところはありますか?
chay : まさに最近変わってきたんです。今までは70年代、80年代の古い音楽が好きだったんですけど、ここに来て今流行っているJ-POPをよく聴くようになりました。自粛期間中にインスタライブで弾き語りをしていたんですけど、リスナーの方達から「これを歌ってください」っていうコメントを沢山もらえて。それがOfficial髭男dismさんだったり、King Gnuさんだったり、あいみょんさんだったりしたんです。
――それがきっかけで聴いてみたんですね。
chay : はい。インスタライブはこんな状況の中で、少しでも楽しんでもらえたらと思って始めたので、どんどんリクエストに応えていこうと思って歌ってみたんですよね。私はカバーする時に、めちゃくちゃ分析するタイプなので、譜面を書いて聴き込んだりするんですけど、展開に関しても勉強になることだらけだったんですよね。
――たとえばどんな発見がありました?
chay : 皆さん言葉数が凄く多くて、譜割も自分だったらこんなに詰めないなと思います。ただ、それでいて全然違和感はないし、伝えたいことがしっかり詰まっている作り方をされていて新鮮でした。
――なるほど。
chay : あと、私の曲は低いところからサビのトップの高いところまで、音域が広くて自分でも歌うのが難しいメロディが多いんですけど。カバーした曲は音域が狭くても耳に残るしキャッチーな曲になっていて、ヒットしている理由がいろんなところに隠れてあったんですよね。いろんな楽曲をカバーしたことで、曲ってもっと自由でいいんだなって思いました。
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