鮮烈な1曲だ。妖艶なトラックと怒気や痛みを含んだ声色で、「美」とは何かを問いかける。先日公開されたMVは4日で100万再生を超えるなど、彼女が感じた“違和感”は、確かな勢いを持ってリスナーの中に波及していっている。美しさとは他者から定義されるものではなく、各個人が自身の内面に見出すものなのだろう。「初めて人を救いたいと思って作った曲」というこの歌には、社会の中で感じる呪縛を解きほぐすようなエネルギーがある。
安らぎを感じさせるスローなナンバー「Needy」と、恋人と過ごす朝のひと時を綴ったラブソング「Morning mood」。一転、地獄の業火の中で叫ぶような熱気を感じる「ダリア」まで、彼女の豊かな表現力が詰め込まれたシングル。作品毎にスケールを増していくちゃんみなに、新曲に込めた想いと現在のモードについて聞いた。
Photography_Sakura Nakayama
Text_Ryutaro Kuroda
Edit:Miwo Tsuji
「美」に対する違和感
――昨年『Angel』をリリースした頃は、特に音楽をインプットすることもなく走っていると言われていましたね。
ちゃんみな : そうですね(笑)。
――『美人』の制作はどのように始まっていったんですか?
ちゃんみな : 走ると痩せていくじゃないですか? それをきっかけにダイエットもしてみたんですけど、インスタに写真を載せたりすると「最近痩せたね」とか、「綺麗だね」ってコメントを沢山もらうようになって。でも、私はそれに対して凄く違和感を感じたんですよね。4年前にデビューした頃の私のコメント欄って、8、9割が見た目への批判だったんですよ。私はその頃のことを忘れてないし、それなのに世間からの声が変わってきていることに、ん? って感じで。
ちゃんみな – 美人 (Official Music Video) –
――それが「美人」を制作する動機になったと。
ちゃんみな : いつかこういうテーマで書こうとは思ってたんですけど、今だなってなりましたね。それで去年の9月くらいから作り始めて、10曲くらい作ってみても全然できなくて。やっと完成したのが今回の作品です。
――口語調の歌詞は、当時言われたことをそのまま書いているということですね。
ちゃんみな : そうですね。なので凄く個人的なことを言っています。<ちゃんみな最近まじかわいい>とか、自分の名前を歌詞に入れるのも4年ぶりで、サウンド感も4年前を思わせるヒップホップチューンですね。
――声色は挑発的で、ミステリアスで攻撃的な感じを受けますね。
ちゃんみな : 入り込んで曲を作るので細かいことは分析出来ていないんですけど、私的にはわざとスキルを落として歌った曲ですね。綺麗に正しく歌うより、声を張って喉を閉めて歌ったらぴったりな曲だなと思って。敢えて技術的には落とした歌い方をしました。
――歌い方や言葉から、アイロニー(皮肉)も感じました。
ちゃんみな : 「美人」は自分の経験を嫌味ったらしく言っているというか、<もう少し肌に艶を頂戴>も、本当にそうなったらいいとは思っていないんですよね。ちょっと言葉遊びっぽくしていたり、世間が定義する美を追求していくことをバカバカしく歌っています。
――ビジュアルのトーンを黒で染めたのは、何か理由があったんですか?
ちゃんみな : 私はヴィジュアルイメージがパッと出てくるタイプで、今回は墨汁、白黒、習字っていうのが私の中にありました。後ろに習字で「美人」って書いているんですけど、それも自分で書いているんです。自分の手で「美人」と書く、自分の手で「美人」を表現するっていうのがキーワードとしてありました。
――「美」は他人が決めるものではなく、自分で決めるものであるというメッセージにも繋がりますね。
ちゃんみな : この曲は初めて人を救いたいと思って作った曲です。当時の私のような気持ちを味わっている人も、自分を認めてあげて欲しい。あなたが何を美しいと思い、何を美しくないと思うかが大事なんだってことを言いたかった曲です。
――つまり、「美」を歌った曲であると同時に、植え付けられている価値観を超えていく歌であると。
ちゃんみな : 本当にそうなってほしいですね。これは個人的な話なんですけど、以前モデルの子たちがいる現場で、「この子たちはちゃんみなより綺麗でスタイルも良いのに、なんでちゃんみなの方が色気があるの?」って聞かれたことがあって。それは私にも失礼だし、モデルの方達にも失礼ですよね。それが凄く気持ち悪かったんですけど、問題意識を持てたことは逆にありがたいなと思って。
――考えるきっかけになったと。
ちゃんみな : 確かに人生で「色気ある」って言われることは多くて、それはなんでだろうなって。私自身が色気を感じる人とそうでない人との違いはなんだろうなって考えてみたら、「知識があるか・ないか」だったんですよね。ある一点で知識が豊富な人って、変態って言われるじゃないですか。それと通ずるところがあって、知性が色気に直結するんじゃないかって思ったんですよね。なので美しさって、本当に見た目だけじゃないと思います。
二面性どころか百面性欲しい
――『Angel』には4曲を通してうっすらと繋がるストーリーがありましたが、今作にもそうした仕掛けはありますか。
ちゃんみな : なんとなくありますね。私は「美人」で死んだイメージなんです。「死」って私にとってはパッと起きるイメージがあって、2曲目からは死後の世界にいるというか。ドリーミーで信じられないくらい幸せを感じていて、最後に「ダリア」でまた復活するイメージです。
――「美人」に死のイメージがあるということは、ネガティブな記憶を終わらせることの暗喩でもあるように思います。
ちゃんみな : このテーマについては終わらせるってことですね。4年前に傷ついていた私にお返しが出来たと言うか、ここでケジメをつけれた。ちゃんと作品に残せたなって思いますね。
――「Needy」はとろけるようなスウィートな音色で、「Morning mood」と併せてラブソングと言ってもいい楽曲なのかなと思います。
ちゃんみな : シンプルにラブソングですね。私は自分の恋愛をそのまま曲にするタイプなので、書いていることそのままですね(笑)。
――「美人」と「Needy」の二面性があってこそ、本作の魅力に繋がっている気がします。
ちゃんみな : 二面性どころか、私は百面性くらい欲しいですね。恋愛ひとつとっても、感情って数えきれないほどあると思うんです。
――好きと言っても、愛憎入り乱れた好きもあれば。
ちゃんみな : 控えめな好きもあるし、2、300の感情があるんじゃないかなって思います。私は“この感覚私になかったな”って感じたものを曲にするんですけど、たとえば「Needy」は凄く完璧な人が現れた曲なんですよね。本当に信じられない、そんな良い話があるわけがないって思うようなことが起こった曲で、「Morning mood」では完全にその世界から抜け出せなくなっている。そのど真ん中にいる曲ですね。
――「美人」とは変わって、盲目的ですよね。
ちゃんみな : そうそうそう。これまでは客観視して曲を書いていたんですけど、この曲では珍しくそうなっていない。でも、幸せな恋愛みたいなものって今までなかったんですよ。そういうものを楽曲にするまでじゃなかった。
――つまり、自身にとって新しい感覚だったと。
ちゃんみな : そうですね。人生にはきっと何個も感情があって、それをできるだけ経験してみたいんですよね。人間として生まれたからこそ感情を持っているわけで、なら私はその感情を使っていろんなものを読み取りたいし、いろんなことを感じたい。ファーストアルバム(『未成年』)にはそれまでの人生で感じてきたことが詰まっているんですけど、『CHOCOLATE』や『Never Grow Up』には新鮮な感情を込めていて、これからはどんどん私の新しい面が出てくるんじゃないかなと思います。
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