「JKラッパー」としてシーンに登場し、瞬く間にメジャーデビュー、若い世代から特に強い支持を得ているちゃんみな。本記事ではちゃんみな楽曲の特徴を、音楽面と歌詞面の両方から分析してみる。
結論を先に述べると、ちゃんみなの楽曲にはヒップホップ系の楽曲と歌モノの2種類がある。ざっくりわけるとするならば、ヒップホップ系の楽曲は最新のUSヒップホップのトレンドを汲んだもので、歌モノはR&B系。実際にはその両者の組み合わせが多く、BIG BANGからはじまるK-POP的な要素が色濃く反映されている。
歌詞はシンプルでキャッチーだが、随所にダブルミーニングを仕込んでおり、多様な解釈が可能で、しかもそれらは単なる言葉遊びではなく、常に楽曲のコンセプトと一致している。
こうしたちゃんみなの楽曲を、本記事では「JK-POP」と名付けてみた。
音楽的特徴1 ヒップホップ
ちゃんみながその名を世間に知らしめたのは『Bazooka!!!高校生ラップ選手権』。Rei©︎hiとの女の子対決を制し「JKラッパー」としてキャリアをスタートさせた。そういった経緯もあり、ちゃんみなのことをヒップホップ系のアーティストだと思っている人も多いだろう。実際に、ヒップホップ系の楽曲は多く、おもにインディーズ時代の楽曲『未成年』『Princess』『You can’t win me』などはヒップホップの文脈で聴かれている。
注目したいのは、メジャーデビュー以降の作品。なかでも2018年9月にリリースされた『Doctor』は、ちゃんみなのヒップホップ楽曲群のなかでもとりわけクオリティの高い作品だ。
ちゃんみな『Doctor』MV
『Doctor』は、KOHHなどの楽曲を手がけるJIGGが制作にかかわっている。JIGGといえば、SALU、KOWICHI、SIMON、RIKEY、Young Hastle、Y’s、AKLOなどなど、USヒップホップ寄りのラッパーたちに楽曲を提供し、トレンドをいちはやく取り入れたドープな音作りに定評がある。
この曲は、いわゆる「トラップ」に分類される。トラップの代表的なアーティストとしては、Travis ScottやMIGOSなどの楽曲をあげればわかりやすいだろう。
MIGOS『Bad and Boujee feat. Lil Uzi Vert』MV
痙攣するようなハイハット、ゆったりとしたリズム、力の抜けた超シンプルなフロウ。これらは現在、アメリカのポップ・ミュージックの主流のひとつになっているわけだが、日本では本格的なトラップはまだ多くない。正確にいえば、若いラッパーの多くがトラップ系の楽曲に挑戦しており、KOHHやBAD HOPなどコアな支持を得ているアーティストもいるが、ポップ・ミュージックの舞台にまで乗ったトラップはまだ少ない。ちゃんみなの『Doctor』は、日本でヒットした最初のトラップのひとつだと言える。
『Doctor』は、ほとんどノリで一気に作られた楽曲だという。名作とは、時にマジックのようにあっという間にできあがってしまうものだ。まるでずっと前からそこに存在していて、誰かに見つけられるのを待っていたかのように。
音楽的特徴2 歌モノ
ちゃんみな『PAIN IS BEAUTY』
ちゃんみなには「練馬のビヨンセ」という愛称もあるが、これ、あながち冗談とも言い切れない。というのも、ちゃんみなの音楽的な背景はラップというよりもむしろ「歌」にあるからだ。
彼女が20歳になる直前に描きあげたという『PAIN IS BEAUTY』を聴いて、ちゃんみなに対する見方を改めた人も多いのではないか。この曲で、彼女はたしかにラップもしているが、おもにフォーカスされているのは歌だ。特に、サビの力強く伸びやかな歌声は一聴に値する。これを聴いたら彼女には「シンガー」という肩書きの方がふさわしいと思うだろう。
実はちゃんみなは、3歳から小学校低学年まではピアノとバレエを習い、おもにクラシックを聴いていたのだという。最初の音楽体験がクラシックだったのだ。ラップの前にクラシックがあったことは、ちゃんみなというアーティストを構成している重要な要素だろう。現在も、曲づくりのベースにはピアノを使用しているという。
1と2の混合
さて、ちゃんみなの楽曲にはヒップホップ(ラップ)とクラシック(歌)が軸としてあるわけだが、実際には、その両者があわさってほとんどの楽曲ができている。歌唱方法としてのラップはおさえつつも、ドープになりすぎず、あくまでポップでシンプルでキャッチーなサビで聴かせる。
その原点にあるのはBIG BANGだ。
たとえば『HARU HARU』のようなシンプルなラップと悲しげなメロディ、美しいサビの組み合わせ。『HARU HARU』は2008年に発表された曲だが、いま聴いてみると、現在のちゃんみなと重なる部分が少なくないように思う。特に『PAIN IS BEAUTY』には音色的にその傾向が強い。
BIG BANG『HARU HARU』MV
いくつかのインタビューで語っている通り、幼い頃に『HARU HARU』のMVをたまたま観たことからちゃんみなのアーティストとしての人生が始まった。自身のワンマンライブでは『HARU HARU』をアコースティックver.でカバーしたこともある。その際には、日本語、英語、韓国語の3ヶ国語をミックスして歌っていた。
また、直近の例でいえば、BTS『FAKE LOVE』なども、ちゃんみなが志向する音楽性にかなり近そうだ。
BTS『FAKE LOVE』MV
BTSはアメリカのビルボードで1位を獲得し、K-POPはいまや世界を席巻、メインストリームのひとつとなりつつあるが、遅ればせながら日本でもようやくK-POPについての論考が増えてきた。K-POP的な要素を持った日本の音楽として、ちゃんみなの楽曲が参照されることはこれから増えるだろう。
シンプルだが、多様な解釈ができる歌詞
ちゃんみな『FXXKER』MV
次に歌詞について。ちゃんみなの楽曲には、難しい言葉は基本的に使われていない。誰でもわかる日本語と簡単な英語の組み合わせで構成され、込み入った比喩や詩的な表現もなく、日常会話に近いストレートな言葉が選ばれている。
しかしそのなかでも、キーとなる言葉には多様な解釈ができるものが選ばれることが多い。
たとえばメジャーデビュー曲『FXXKER』などは、タイトルからしてそうだ。
表面的には「メジャーになろうと自分は変わらない」という意思表示の曲であり、中指を突き立てながらFワードを声高に叫んでいる曲だが、「FUCK」という言葉は文脈によって意味が変わる言葉でもある。「FUCK」にはFワードの真逆の「最高」という意味もあるのだ。
そういう観点で歌詞を最後まで読んでいくと、本物の登場を祝福する喜びの歌だと解釈することもできる。『FXXKER』は、中指と親指を同時に立てている曲なのだ。
あるいは、『OVER』という曲。
この曲では恋の終わりが描かれ、悲しみと後悔が歌われている。しかし「OVER」には「打ち勝つ」という意味もある。楽曲中で「OVER」という言葉はループされ、「we are over」という言葉が繰り返されるのはなぜか? この「私たちは終わり」というフレーズには、「私たちは打ち勝つ」という意味が隠されているのではないだろうか?
悲しみに打ち勝つためには、それを自分のなかで反復し、咀嚼し、自分なりに悲しみをしっかり悲しむことが必要だ――そう伝えているのではないだろうか。だからこそ「OVER」という言葉は、この曲のなかでループされる必要があったのだ。
このように、ちゃんみなの歌詞には多様な解釈ができる言葉が使われている。そしてそれらの言葉は常にシンプルであり、キャッチーであり、なおかつ楽曲のコンセプトと一致している。こうした言葉は、「伝える」ということに意識的でなくては出てこないだろう。
なぜこのような言葉選びがなされるか。
ひとつの仮説として、ちゃんみなの生い立ちが影響を与えているということは考えられる。
ちゃんみなは韓国で生まれ、小学生の頃に日本に移った。幼少期を韓国、アメリカ、日本の3カ国で過ごし、常に外国人であるような状況で育ってきたわけだ。ということは、「言葉が伝わらない」という前提で他人とコミュニケーションを取ることになる。だからこそ、意識的に伝えようという姿勢がうまれる。日本うまれ日本育ちのアーティストとはここが決定的に違う。
JK-POPの誕生
音楽的にはK-POP寄り、歌詞的には日本語で簡単に口ずさめるシンプルでキャッチーな言葉を使いながら、多様な解釈ができる。このようなちゃんみなの音楽には、どんな言葉がふさわしいだろう?
常々ちゃんみなは、「ちゃんみなというジャンルを作りたい」と発言しているが、すでに彼女の音楽は既存のジャンルが当てはまらないところまで来ている。ヒップホップ、J-POP、R&B、あるいはK-POP。どれもある面では正しいが、ある面では足りない。必ず何かが漏れてしまう。
そこで、JK-POPという造語を提案したい。
JK-POPとは「Japanese Korean Pop」の略。非常にシンプルな言葉ではある。しかしJ-POPとK-POPの要素を同時に持ち合わせたアーティストという意味でこの言葉はふさわしいだろうし、さらには、『BAZOOKA!!!高校生ラップ選手権』を経て「JKラッパー」というフレーズとともにシーンに登場したという彼女の出自とも相性が良いのではないか。
じじつ、最新作『I’m a Pop』では、日本語、韓国語、英語の3ヶ国語を歌詞に盛り込み、楽曲的には最前線のヒップホップトラックを使用しつつ、歌唱力を活かすパートも取り入れるなど、あたらしいポップ・ミュージックの形を提示している。
なによりも『I’m a Pop』というタイトルが彼女のスタイルを象徴している。
ちゃんみな『I’m a Pop』MV
MVでちゃんみなは、「Pop」「Rock」「Hiphop」の3パターンにわけて衣装やメイクを変えている。
もちろんこれは、3つのジャンルと言語を自由に行き来できることを視覚的に明示した素晴らしい表現なのだが、ちゃんみなの後方に、銃を持った2人組が控えていることにも注目したい。
テロリストのような2人組は、それぞれ「I’m a pop」「I’m a rock」「and I’m a hiphop」というフレーズの直後に発砲している。この銃弾は、いったい誰に向けられているのだろうか?
いろいろな解釈ができるだろうが、そのひとつとして、銃弾が向かう先は「Pop」「Rock」「Hiphop」などとジャンル分けをする行為自体なのだ、という仮説を提示したい。
『I’m a Pop』[通常版]
つまりちゃんみなは、『I’m a Pop』という楽曲をつくることで、既存の枠組みやジャンル自体を破壊し、「私だけの本当のメロディーと歌詞(『I’m a Pop』歌詞より)」を奏でる続けることを高らかに宣言しているのだ。
それを彼女は「Pop」と呼んだ。
そして本記事では、彼女が「Pop」と呼ぶものを、従来のPopが持つイメージとの違いが浮き彫りになるように「JK-POP」と呼んだ。
JKを卒業し、20歳になったちゃんみなは、JK-POPの担い手として新たな道を歩みはじめるだろう。
ちゃんみな 最新リリース情報
1st CDシングル 「I’m a Pop」
2019年2月27日(水)発売
・初回限定盤:2,300円+税
・通常盤:1,300円+税
[初回限定盤(CD+DVD)]
<CD>
M1. I’m a Pop
M2. Never
M3. Sober
M4. Doctor (English Version)
<DVD>
M1. GREEN LIGHT
M2. BEST BOY FRIEND
M3. TO HATERS
M4. Princess
M5. FRIEND ZONE
M6. MY NAME
M7. ダイキライ
M8. LADY
[通常盤CD)]
<CD>
M1. I’m a Pop
M2. Never
M3. Sober
M4. Doctor (English Version)
>>詳細はコチラ
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