真夜中。Lossapardo(ロサパルド)との出会い
Lossapardo(ロサパルド)との出会いは唐突だった。去年の11月のこと、日頃から世界中の音楽をwebサイトでチェックするのが癖になっている私は、とあるサイトで彼の作品を見つけた。ベッドの上にぽつんと佇む黒人男性(これは彼自身)のジャケットに、「Sleep (3A.M.)」とタイトルがついた一曲。世界がとても静かになった夜の深い時間に自分だけが起きている。ちょっと孤独だけどなぜかそれが心地いい。そんな感覚を思い起こさせてくれるその曲に、ちょうど深夜に起きていた自分が重なり、一瞬にして心を鷲掴みにされた。
Instagramを調べてみると、パリで絵と音楽と映像を作っているアーティストだった。そしてストーリーズをのぞいてみると、彼は偶然にも日本にいたのだ。彼の作品を見た勢いのまま、私はコンタクトを取り、2日後には東京で彼と会うことになる。
それからは彼とマメに連絡を取り合い、「3月22日に新しい作品が出るからなにか東京でできないか」という相談を受けた。偶然なのか必然なのか、さらにそのタイミングで、信頼しているカメラマンの友人が、「パリに行くからLossapardoを撮りたい」との連絡が! もうすべてがこのためにあったかのような流れだった。
Photograph_Shono Inoue
Special Thanks_Rikuto Kaneko
Edit_Fumika Ogura
Lossapardo(ロサパルド)とは
Lossapardo(ロサパルド)はパリの郊外に住むアーティスト。絵、音楽、映像をすべて独学で学び、Instagramや自身のサイトで作品を発表している。絵と音楽と映像がひとつとなった彼の作品は、まるで長編映画のワンシーンに迷い込んだような感覚に陥り、一度見たら頭から離れない。そんな彼の作品がいま、アートや音楽好きの間でじわじわと人気を集めている。まだまだ謎多き彼に、自身のこと、表現をすること、そして東京という街について話を聞いた。
自分が心から好きだと思うことをすべてやりたかったんです。
――まずはあなたのことを教えてくれますか?
画家、ミュージシャン、そしてアニメーターとしてパリをベースに活動をしています。自分の描いた絵に音楽をつけたり、それをアニメとして動かしたり。それぞれの作品を組み合わせてひとつのものを作っています。
――絵、音、映像を組み合わせた表現に行き着いたきっかけは?
自分が心から好きだと思うことをすべて合わせたかったんです。僕の表現のスタートは絵なんですが、最初は果物とスニーカーを組み合わせた抽象的な絵を描いて発表していました。音楽は6歳の頃からピアノを習っていて、そこからギターも始めた。3年前ぐらいにそれらすべてを合わせて作品を残していきたいと思ったのです。その方がもっと自分自身を表現できると感じたんです。いまは絵、音、映像の3つすべてが成り立っている状態が “僕の作品”だと思います。
――抽象的なものから、現在のようなストーリー性のあるテイストに変わったのはなぜ?
果物とスニーカーを組み合わせた作品は数年前のプロジェクトで、そこから変わったとすれば、絵と音楽と映像を組み合わせて表現をしようと思ったことくらい。特にそれについてなにかを意識したわけではありません。僕がその頃から成長したのか、はたまた作品が変わっていったのかは自分でも曖昧です。でもこの数年前のプロジェクトが、いまの自分を作り上げるための土台になったと思います。
――インスピレーションはどこから?
視覚的なものとしては、写真です。写真がとらえるその瞬間の光や影からいつもひらめきをもらっています。僕の絵を見た人は、Edward Hooperの作品を思い出してくれるのだけど、実はそう言われるまで彼のことを知らなくて。調べてみたら、彼の作品が本当に素晴らしくて感動したんです。彼の作品を僕の絵で思い出してくれるということがとても嬉しかったし、光栄でした。聴覚的なものとしては、もちろん音楽から。人生で初めて聞いたアルバム、Henri Salvadorの『Chambre avec veu』はいつも僕にインスピレーションを与えてくれる一枚ですね。ジャズやソウルはいつも聴いています。日本のアーティストだとnujabesが大好き。
――いつもどのようにして作品を作っていますか?
絵に関しては、いままで描いてきたスケッチやデッサンがたくさんあるので、それをもとに作品を作っていきます。大事にしている色や光、影は写真から参考になるものを見つけていますね。音楽はピアノやギターを弾きながら、自然に思いつくことが多いです。絵を描かない時は音楽を作ったり、音楽を作らないときは絵を描いたり。両方のことが互いに作用して作品が生まれているなと思います。
――ひとつの作品を作るのにどのくらいの時間をかけますか?
時と場合によるけれど、絵は1時間の時もあれば、何週間もかかる時もあります。音楽は数分ってことも。iPhoneで録音しているから、絵よりクイックかもしれません。もちろん、ひとつのものを作り上げるのに何ヶ月もかかる場合もあります。
頭のなかにふと舞いおりてきたものに息を吹き込みました。
――3月22日に新たな作品「Pause」をリリースしましたが、作品が生まれたきっかけは?
自分でも全く予期せぬタイミングでできたものでした。まずギターのコードを見つけて、その音から自分自身がイメージしたものが絵として思い浮かんで、この作品が完成したんです。作品を作るというよりは、自分の頭のなかに舞い下りてきたものに、どんどん息を吹き込んでいったという感覚が近いですね。
新たにリリースされた「Pause」は、Lossapardoのwebサイトにて「音楽と絵を並列に並べる」ことで楽曲の世界観を構築している。これまでの作品とは異なる切り口で発表された。
――「Pause」は椅子が象徴的ですね。
まず、光が優しく照りつけていて雰囲気のいい場所にいるところを想像してみてください。その瞬間にその場所で、椅子を出して、そこに座って自分の周りや自分のことを立ち止まって考えてみてください。椅子をシンボルとしたのは、そういったひとつの場所で“Pause(立ち止まる)”することを表したかったんです。毎日止まらずに過ごしているけれど、そういった瞬間って生きていくなかで、必要なものでしょう?
まだ20代。成し遂げなければならないゴールがたくさんある。
――パリにはあなたと同世代で表現する人は多いですか?
僕がこういうことをしているからかもしれないけど、周りにはカメラマンや服のデザイナー、音楽を作っている友人が多くいます。パリはたくさんのチャンスに満ち溢れていて、ファッション、アート、音楽と常になにかが動いているから、人に会ったり、イベントを開いたりするのにはとってもいい場所ですね。僕が音楽を作るきっかけのひとつとなったのも、パリの若手ミュージックレーベルRoche musiqueでプロデューサーのcrayonと出会って一緒に曲を作ったから。そこでFKJとも出会ったんです。若いからとか関係なく、好きなことややりたいことに対して、いつも真摯に取り組む周りの彼らからは、常に刺激をもらっています。
――私たちが初めてコンタクトを取ったとき、偶然にも日本にいましたよね。日本や東京はどうでしたか?
東京という街は本当に刺激的で、作品にも大きく影響を受けています。ジブリの映画やサムライチャンプルーなどのアニメ、nujabesの音楽は自分を語る上で欠かせないものです。去年の11月に初めて日本に行きましたが、いますぐにでも戻りたいくらい! 次に行くときは、展示やライブなどをして、自分の作品や音楽を日本の人たちに観てもらいたいです。あと、日本人のアーティストと一緒になにかできたらいいなと思っています。
――東京にはあなたのように若くして自分を表現する人がとても多いです。そんな彼らにメッセージは?
なにかひとつ伝えるとしたら、色々なところに行って、色々なものを見て、色々な人に会って、たくさんのインスピレーションを得ることが大切だなと思います。そうすれば自分自身のことをもっと知ることができるし、なによりも自分の心を動かすことができるから。自分にとってのモチベーション、ゴール、野心を見つけることが大事だと思います。
――これからどうなっていきたいと思いますか?
仕事を一緒にしてみたい人は何人かいるけれど、その前に自分の力でできることをたくさん増やしていきたいですね。自分の年齢はまだまだ若いと思っていて、成し遂げなければならないゴールがたくさんあります。僕はそれをひとつひとつクリアにしていくために、日々を無駄にせず、一日一日を噛み締めて頑張りたいと思っています。
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