今こそ聴き直したい 大塚 愛 まとめ あえてこの6選
シンガーソングライターの大塚 愛が2019年1月1日、オールタイムベストアルバム『愛 am BEST, too』をリリースした。本作は、大塚 愛みずからが選んだ31曲で構成され、大ブレイクのきっかけとなった『さくらんぼ』(’03)やフジテレビ『FNS歌謡祭2018』でも話題となった『プラネタリウム』(’05)など誰でも知っている曲から、最新曲『ドラセナ』(’18)まで、約15年のキャリアを統括するようなアルバムになっている。
大塚 愛といえば、かつて国民的とも言える大ヒット曲を連発して一世風靡したJ-POPの代表格。キュートなルックスもあいまって、当時はアイドル的な扱いを受けることもあった。近年では、10年前とまったく変わらない、いや、それどころかさらに進化した美貌でふたたび注目を集めている。
しかし彼女は、デビュー当時から様々な音楽スタイルを自在に取り込んでポップスに落とし込むことが得意なシンガーソングライターでもあった。今聴いてみると、J-POPという一言でまとめるのがちょっと難しいと思えるほど、幅広いすぐれた楽曲をリリースしていることがわかる。
そこで本記事では、今だからこそ聴き直したい大塚 愛の隠れた名曲を厳選して6曲紹介します(「隠れた」というのは失礼かもしれないが、『さくらんぼ』や『プラネタリウム』ほどの代表曲ではない、という意味で)。
この6曲を聴けば、大塚 愛というアーティストの楽曲の幅広さや先見性がよくわかります。大塚 愛を最近知ったという人も、かつて青春時代を大塚 愛の名曲とともに過ごしていた人も、挑戦的な音楽家としての大塚 愛に注目してみてください。
『LUCKY☆STAR』(’10)
(大塚 愛『LUCKY☆STAR』MV)
まずは2010年にリリースされた両A面シングル『ゾッ婚ディション/LUCKY☆STAR』から、後者の『LUCKY☆STAR』を。
印象的なカッティングギターから始まり、サビではエレクトロの要素が重なっていく。メロディの秀逸さは他の楽曲と同じくこの曲でも目立っているが、まだこの時点では本格的にエレクトロ的な楽曲をリリースしていなかったので、それまでポップ/ロックの文脈で楽曲をリリースしてきた大塚 愛とは少し印象が異なる。
サビの「love! so family, sea, 空」という歌詞は「ラソファミレシソラ」と聴こえるが、実際にその音階通りのメロディになっている。仕事が細かい。
バンクーバーオリンピック中継テーマソングという事情もあったのか、何かが始まるという予感に満ちた1曲。そして今振り返ってみると、実際に、この楽曲から大塚 愛の第2章が始まりかけていたではないかという気がする。
ピアノやギターを基調とした楽曲からエレクトロへ。それを『ゾッ婚ディション』といういかにも大塚 愛らしい楽曲とあわせてリリースするところに、それまでのファンもしっかり満足させる彼女のバランス感覚を見てとることもできる。
『タイムマシーン』(’15)
『LUCKY☆STAR』を聴いたあとは、ダンス・エレクトロチューン『タイムマシーン』を。『LUCKY☆STAR』に見えた新機軸は、この作品でひとつの結実を見たと言っても良さそうだ。
キャリア初期にはJ-POPの王道を行くような楽曲が多かった大塚 愛だが、その一方でこうした楽曲もあたためていたという。エレクトロに自分の声がどう乗るのか模索し、有名プロデューサーなどで構成されたバンド「rabbit」の経験を経て、構想約12年。ようやく完成したのが『タイムマシーン』から始まる7thアルバム『LOVE TRiCKEY』だった。
タイムマシーンというモチーフを使うならば過去のある時期に戻ることを考えそうなものだが、大塚 愛のタイムマシーンは未来へと向かう。「未来へワープ」というサビは、大塚 愛が常に未来の音楽を模索していたと解釈することもできる。
ちなみにこの楽曲はシングルではない。アルバム『LOVE TRiCKEY』はシングル曲を含まないオリジナルアルバムで、全編エレクトロを基調としている。2015年4月にリリースされるとTunesではエレクトリックチャートの1位を獲得した。
大塚 愛は当時、自身の楽曲を「歌う楽曲と聴く楽曲」の二種類にわけ、「歌う楽曲」をシングルとして選び「聴く楽曲」をアルバム曲としていたという。『LOVE TRiCKEY』は「聴く楽曲について掘り下げた」アルバム。これ1枚聴くと、大塚 愛というアーティストに対する見方が変わるだろう。
楽曲同士のつなぎも見事で、DJとしてのセンスも良さそうだ。
(大塚 愛『LOVE TRiCKEY』MUSIC CLIPS)
『Re:NAME』(’13)
(大塚 愛『Re:NAME』MV)
王道J-POPとエレクトロの他にも、「ナチュラル路線」とでも呼びたくなるような楽曲もある。デビューシングル『桃ノ花ビラ』がそうだったわけだが、大塚 愛名義で出産後第1リリースとなった約3年ぶりのシングル『Re:NAME』を推したい。
ハッピーでアッパーな曲でもなく、泣きのバラードでもなく、その中間の楽曲。湖の底から水面に浮かび上がってくる泡のように、しみじみと幸福が浮遊するような雰囲気がある。大塚 愛のディスコグラフィーのなかでも異色の作品であるかもしれない。
大塚 愛本人も過去のインタビューで、「こんなに喜びに満ちた曲を作れるとは思わなかった」と語っている。
『さくらんぼーカクテルー』(’13)
(大塚 愛『さくらんぼーカクテルー』from AIO PUCH)
代名詞『さくらんぼ』は、あえてのセルフカバーバージョンで。
『さくらんぼーカクテルー』は「セクシー仕様」と形容されることが多いが、この作品にジャズやボサノヴァの影響を見ることができるだろう。
この曲が収録されたミニアルバム『AIO PUNCH』は、すべての楽曲にサブタイトルが付けられている。たとえば『甘えんぼ』は「レモンティ」、『PEACH』は「ウォッカ」というように。王道J-POPがラグジュアリーな雰囲気に生まれ変わり、これを聴くとかなりうまい酒が飲める。
一時期は大ヒットした『さくらんぼ』のイメージから脱却を試みていたようだが、近年はむしろ積極的にライブでこの曲を演奏する。その際のアレンジは幅が広く、こうした大人っぽいしっとりしたヴァージョンもあれば、EDM風に弾けたアレンジで披露することもある。
『夏空』(’05)
『ネコに風船』のカップリングとして収録された『夏空』。テーマは「儚さ」。
夏の終わりと恋の終わりを重ねた切ない曲だが、心に染み込む気持ち良さのある曲でもある。重くなりすぎないところに、やはり彼女のバランス感覚を見ることができるだろう。
『夏空』だけでなく、ピアノでの弾き語りは大塚 愛の持ち味のひとつ。2018年にリリースされた『aio piano』というピアノ弾き語りミニアルバムも人気だ。
彼女のルーツにはクラシックがある。習い始めた当時はピアノが嫌いだったらしいが、それがもっとも大きな武器のひとつになった。
『ドラセナ』(’18)
(大塚 愛『ドラセナ』MV)
最新曲『ドラセナ』。歌詞を読みながら聴くべし。それ以上の解説は野暮。
大塚 愛は振り幅のアーティスト
さて、これらの楽曲の他にも、『トイレットペーパーブルース』『女子シェルター』など大胆で遊び心ある楽曲をカップリングに入れたり、ファンキーな『シヤチハタ』のような「贅沢なくだらなさ」を追求した楽曲もある。
あるいはデビューシングルに『さくらんぼ』ではなく、あえて『桃ノ花ビラ』を選択したというエピソード(どちらの曲もデビュー前に完成していたが、いきなり『さくらんぼ』をリリースすると”そういう人なんだと思われちゃう。それは狙いではないから”と、一番ナチュラルな『桃ノ花ビラ』から出した)に象徴されるように、大塚 愛はデビュー当時から振り幅のアーティストだったのだ。
その振り幅がどれほどのものか、『愛 am BEST, too』を聴いて改めて体感したい。
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