『耳をすませば』実写版の天沢聖司はバイオリンを作っているか?
2020年1月14日、『耳をすませば』が、清野菜名と松坂桃李のW主演で実写映画化されることが発表された。公開予定は2020年9月18日だという。
『耳をすませば』は、平成元年(1989年)8月号から11月号の『りぼん』に連載された、柊あおいの同名漫画。もっとも、1995年にスタジオジブリが近藤喜文監督のもとでアニメーション化した同名映画のほうが、世間的な認知度は高いだろう。
今回の実写映画でも、報道を見る限り、ジブリ版『耳をすませば』の設定がまずは活かされているようだ。ただし、原作にはない「10年後」も描かれるという。中学3年生の月島雫と天沢聖司は、お互いの夢を叶えることを誓い合う。それから10年後、小説家になるという自分の夢を諦めて、出版社で児童小説の編集者となった雫と、自分の夢のために海外で暮らす聖司との間には、距離が生まれていた…。
このように、実写版は、ジブリ版を忠実に再現したものではないらしい。そうすると、実写版とジブリ版との隙間に、漫画版の設定が入りこんでいる可能性も出てくる。それどころか、実写版はジブリ版と漫画版のハイブリッドにさえなっているかもしれない。そこで、本記事では、ジブリ版と漫画版の『耳をすませば』の内容を比べながら、実写版の内容を楽しく予想してみたい。特に、聖司の追う夢について検討してみる。最後に、柊あおいの関連漫画についても触れておこう。
天沢聖司は絵描きの夢を見るか
最初に断っておくが、筆者はジブリ版『耳をすませば』が大好きである。アニメーション、実写映画、漫画、小説、戯曲、すべてのジャンルにおいて、人生最高の作品である。映画は何度も観返し、原作漫画も読み返し、関連資料は何年もかけて探し、買い、読み漁った。本記事で、その資料の一端をお見せするので、ご興味のあるファンは、ぜひ探してみてほしい。
さて、報道では、雫の夢が小説家であることは明かされているが、聖司の夢が何であるかは、はっきりしていない。ここにポイントがある、と筆者は見た。というのも、ジブリ版と漫画版とでは、聖司の追う夢が異なるからだ。
大方の人たちはご存知だと思うが、ジブリ版では、聖司はバイオリン作りの職人を目指している。中学を卒業したら、イタリアのクレモーナ(バイオリン作りで有名な町だ)に渡り、10年間そこで修行するという。アニメーション映画は、立派なバイオリン作りの職人になったら結婚しよう、と彼が雫に告げる場面で終わる。実写版の「10年後」というのは、この修業期間を指しているはずだ。
一方、漫画版では、聖司は絵を描いている。絵描きになるのが夢、とまでは言われていないものの、実写版での聖司の夢が、バイオリン作りの職人から絵描きに変更されている可能性はないだろうか? もしそうだとすれば、ジブリ版のファンだけではなく、漫画版のファンにも目配りを効かせた設定変更ということになるだろう。ちなみに、雫は漫画版でもジブリ版でも物語を書いている。
天沢聖司は写真家の夢を見るか
まったく別の夢を聖司が見ている可能性もある。写真家になる夢だ。
実は、漫画版とジブリ版とには、決定的な違いが二つある。一つ目は、聖司が絵を描いているか、バイオリン作りの職人を目指しているか、という違い。二つ目は、聖司に兄がいるか、いないか、という違い。漫画版には、航司という兄がいるのである。この航司は写真を撮るのが好きで、漫画版で重要な役割を果たしている。仮に、実写版でもジブリ版と同様、航司が登場しないなら(漫画の中で生きつづけたまえ)、彼の趣味が聖司に受け継がれている可能性もなくはない。
以上のように、現時点で、実写版の聖司の夢は3つの可能性を秘めている。バイオリン作りの職人になること、絵描きになること、写真家になること。とはいえ、ここまで書いておいてナンだが、最も実写映えするのは、バイオリン作りの職人だという気がするので、やはりこれが夢の最有力候補なのは間違いない。
柊あおいの漫画について
最初に書いた通り、『耳をすませば』はいまやジブリ版のほうが有名だ。アニメーション映画は観ていても、漫画版は読んでいない、という人は多いだろう。しかし、そもそも漫画に魅力があるからこそ、スタジオジブリはアニメーション化したのである。読まないで済ますのはもったいない。
作者の柊あおいは、『耳をすませば』に関連する漫画を実はほかにも書いている。最も有名なのは『猫の恩返し』(2002年にジブリがアニメーション映画化)だが、それ以外にも、『耳をすませば 幸せな時間』(1995年)と『ユメノ街 猫の男爵』(2002年)という2つの作品がある。前者は、『耳をすませば』の2年後の物語で、後者は、『耳をすませば』に登場する猫の男爵が活躍する、だが『耳をすませば』とはまったく別の物語だ。
ちなみに、漫画版『耳をすませば』では、雫と聖司は中学1年生に設定されているので、『耳をすませば 幸せな時間』に出てくる中学3年生の雫と聖司のほうが、ジブリ版と同じ年齢ということになる。
もう一つちなみに言えば、りぼんマスコットコミックスの『耳をすませば 幸せな時間』には、『桔梗の咲く頃』という作品が併載されている。併載とはいえ、分量的には『桔梗の咲く頃』のほうが上だ。それと、どうでもいい話かもしれないが、筆者の「誕生日花」は桔梗で(本当にどうでもいい話だった)、そのせいもあってか、実はこちらのほうに思い入れがある。
↑に挙げた作品のほとんどは、少女と少年の恋を真正面から描いている。いくつかの作品をまたいで登場するサブキャラクターもおり、『耳をすませば』または『猫の恩返し』の世界観がお好きな方は、ぜひ読んでみてほしい。
実写映画の発表に胸をざわつかせたファンの皆様へ。
筆者もその1人なのだが、よくよく考えてみれば、すでに『耳をすませば』には、このように多くの関連作品がある。大きな世界がある。そこに実写映画が加わり、世界を拡張するのだ。楽しみに待ってみようではないか。
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・『耳をすませば』まとめ情報
原作:柊あおい『耳をすませば』(集英社)
連載:『りぼん』1989年8月号~11月号
ジブリ版
監督:近藤喜文
脚本・絵コンテ:宮崎駿
制作:スタジオジブリ
劇場公開:1995年7月15日(土)
実写版
監督:平川雄一朗
主演:清野菜名、松坂桃李
劇場公開:2020年9月18日(金)全国ロードショー
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