『あの頃。 男子かしまし物語』が、松坂桃李主演で映画化!
――ここからは、2月に映画化される『あの頃。 男子かしまし物語』のお話も伺えたらと思います。こちらも中盤からの展開が凄いですよね。
劔 : こっちは最初に構想があったわけではなくて、ブログ記事に、友人との思い出のエピソードを一つ一つ描いていたんです。でも、何回か描いたら早々に本にしないかって話があって。本にするんだったら物語にしないとなって思って、こういった展開になりました。
――そうだったんですね!
劔 : 昔あった面白い話を思い出してみようかなって感じで始めてみたのですが、当時は絵も下手くそだし、普通にマネジメントの仕事もしていていたので、いかに早く描き上げるか、いかに楽するかって考えていましたね(笑)。
――映画化の話を聞いた時どう思いましたか?
劔 : 実は話自体は本が出てすぐにあったんですよね。2015年くらいだったと思います。
――そんなに早くからあったんですね。
劔 : 大根仁監督も、当初から「これはいいと思うよ」って言ってくれてて。でも自分でやるとは言ってくれなかったんですけど(笑)。
――(笑)。
劔 : ウェブで描いている時点で好きだって言ってくれているインフルエンサーは結構いたんです。でも、その人達からは全然広がらないんですよね。それが僕の弱みなんですけど……。きっと、ウケる層が限られているんでしょうね(笑)。
――なるほど。
劔 : でも、凄くピンポイントで刺さる人はいて、そういう人達が映画にしたいと思ってくれたんですね。うちの妻(犬山紙子)は「『あの頃』って凄く良い話だから、映像になるんだったらあんまり安売りしないほうがいいんじゃないか」ってずっと言ってました。でも、実際には安売りどころか、思いもしない大きな規模になっちゃって。
――今泉監督に、松坂桃李さん主演ですもんね。ご自身の役を松坂さんが演じると聞いてどう思いましたか?
劔 : 笑っちゃいますよね?(笑)。僕は告知に関して、「内緒の仕事をやってきました〜」みたいな“匂わせ”はしない方なんですけど、その情報が出る前日だけは、「明日の朝、僕に関する情報が出ますけど笑わないでくださいね」ってツイートして。で、翌日起きたらみんな大笑いですよね。
――(笑)。映画化が決まって周囲の反応で面白かったものや、気づきになったことってありました?
劔 : 映画に出てくる亡くなった友達の同級生だという方と、ばったり会ったんですよ。そうしたら「ありがとうございます」って言われました。あと、その友達が最後に勤めてた会社の人からも連絡があって、「いつもみんなで墓参りに行ってるんですけど、今年はコロナで行けなかったから、来年みんなで映画を見に行きます」って言ってくれて。それは良かったなって思います。
“変わらない一人”であるよりかは、“変わる一人”でありたい
――ちなみに、今泉監督とは元々親交があったんですか?
劔 : 10年前に割と映画の人とのやりとりが多かった時期があって、その頃に今泉さんとも現場で会ったりしてました。そんなに仲良く食事したりってことはないんですけど、映画館にいると今泉さんがにゅっと入ってくるとか。今泉さんの映画はよく観てましたね。
――書籍のあとがきでは、「辛い時思い出すのはこの頃のことだ」っていうことを書かれていますね。
劔 : そうですね。ただ、基本的に「あの頃が良かった」と思って生きてるわけではないんです。それは作品の中にも伝えたかったことでもあるんですけど、やっぱり今を生きることが大切だと思うので。あの頃に戻りたいわけではないけど、あの時ああだったから、素晴らしい今があるんだ、という感じです。
――好きなものがあればその人の人生は素晴らしいっていうメッセージも、劔さんの作品にはある気がしました。
劔 : そうですね。たとえば、家庭を持ってお金も持っていることが人生のゴールかって言ったら、そうじゃない。僕はそれが全ての人にとって正しい生き方だとは思わないんです。『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』に出てくる“てっつん”っていうキャラクターは、冴えないアイドルオタクなんですけど、別の世界では出世した人間になっていて。でも、そうした生き方の違いがあったとしても、彼にとってそこに優劣があったのかって思うんですよね。それはあの本にあるメッセージというか、そういうことを描いてきているつもりではありますね。
――今が幸せなんだって書かれていますよね。時代の価値観に対して、何か提案するような気持ちはありますか。
劔 : そこまでの気持ちはないですね。僕は自分が先頭に立って、世の中を変えられるとはとても思えないです。でも、世の中が変わるには一人ひとりが変わっていくしかないので。“変わらない一人”であるよりかは、“変わる一人”でありたいとは思っています。
――凄く良い言葉ですね。
劔 : オタクとかも今でこそ変わってきましたが、虐げられてきた人種ではあるんですよね。15年前は偏見もあったから。ただ、そういうものが決して悪いものではないというか、社会的に劣ったものではないっていう感覚は、多少自虐的になってしまうところはありつつも、作品の中では伝えていることではあるのかなと。
――なるほど。
劔 : ただ、最初に言った通り、僕の場合あまり言葉で説明しないので、伝わっているのかはわからないですね(笑)。なので映画では脚本の富永さんが1本の映像としてまとめてくれたのは大きくて。松坂さんや仲野太賀さんのお芝居の力も凄いんですよね。僕が漫画で伝えたかったけど伝えきらなかったものが、映画を通して伝わるところがあると思います。
――奥さまのツイートだと、「本当にあの頃の夫がいた」というようなことを言われていましたね。
劔 : 当時の僕のことは知らないじゃないかって思いましたけどね(笑)。
――確かに(笑)。
劔 : でも、まあ“そのような感じがする”ってことですね。
――それだけ芝居が凄いと。ご自身では似てるって思いました?
劔 : 似てるんですよ。なので早くみんなに観てほしいです。特に当時の僕を知る人に見て欲しい。みんな笑ったけどさって。それは役者さんの力ですよね。
――そして音楽は長谷川白紙さんですね。
劔 : これも素晴らしいキャスティングですね。長谷川白紙さんはジャズの人で、当時の僕のモードからしたらぴったりくるというか。アイドルに傾倒してましたけど、めちゃくちゃアンダーグラウンドな人間だったので。あのフリージャズの要素が入るのはいいですよね。長谷川白紙さんの表現はぴったりくる感じがありました。
――今日お話しいただいたこととは別に、何か新しいところで来年以降既に決まっている活動はありますか?
劔 : 来年また1冊本がまとまる予定です。そっちは双葉社の雑誌でやってたやつで、バンドマンの話ですね。
――やっぱり音楽にまつわることを書かれるんですね。
劔 : どうしても、自分の経験で描くものが一番リアリティがあるので。小説家さんは綿密な取材の上でものを書くわけですけど、今の僕がそういうことをできる状況にあるかと言ったら、そうではないので。自分が描くことで意味があることにしたいとは思うので、自分が生きてきた中で出会った人とか、経験してきたことのリアリティで書いていくと、“オタク”と“バンド”になってしまうんですよ。
――なるほど。
劔 : なのでもう出しきっちゃってしまったんですけど(笑)。僕は専業漫画家ってわけでもないので、これからも描けるテーマがある時に描いていこうかなと思っています。
書籍『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』
著者:劔樹人
発売日:2020年12月16日発売
価格;(本体1.100円+税)
仕様;A5並168ページ
発売元;イースト・プレス
▼ミーティアでの連載はこちら
映画『あの頃。』
<出演>
松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、山﨑夢羽(BEYOOOOONDS)、西田尚美ほか。
監督:今泉力哉
脚本:冨永昌敬
音楽:長谷川白紙
劔樹人
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