トータル・フットボールから受け継いだバンドのDNA
――クアイフというバンド名は、オランダのサッカー選手ヨハン・クライフに由来するそうですね。ヨハン・クライフのどんなところが好きなんですか?
森 : これは内田にしか答えられないね(笑)。
内田 : ……。
森 : えっ!? あるでしょ!? クライフ・ターンとかあるじゃん。
内田 : いや、あるんだけど……。当時のグランパスって、オランダサッカーをモデルにしてたんですね。それは、ヨハン・クライフが提唱した「トータル・フットボール」というスタイルで。Jリーグが開幕したのはぼくが3歳の頃だったんですけど、それ以来ずっとグランパスが好きで。グランパスといえばオランダ。オランダといえばヨハン・クライフ。なので、ヨハン・クライフのどこが好きかって言われると、あまりちゃんと答えられないですね……。
――でもいまの話を聞くと、ヨハン・クライフは内田さんのルーツの象徴だという気がするので、バンド名としてはピッタリですね。メンバーそれぞれが多感な時期をどう過ごしたか、これはいまの音楽にも影響を与えていると思います。森さんはクラシック、三輪さんはラウドロックとふたりとも違うジャンルの音楽体験がベースにあるなかで、内田さんは音楽ですらない。そのことに対して、何かコンプレックスのようなものは感じますか?
内田 : あると言えば、あるかもしれないですね。森は幼少期からピアノを弾いているし、そういう人たちに比べるとスタートラインに立つのが遅かったとは思います。でも、そういう気持ちがあった方が自分は頑張れるんです。だから、あまりネガティブには捉えていないですね。
内田はロボット?
森 : でも、普段から内田のアスリート精神をすごく感じるんですよ。サッカーで精神が鍛えられてるから、そこは本当に尊敬しますね。ミュージシャンというよりアスリートじゃん!って思うことがよくあります。
内田 : それ、自分ではあんまピンと来ないんだよなぁ。
森 : いや明らかアスリートでしょ。めっちゃタフだし。
三輪 : (頷く)
――寝ないで制作するって聞きましたが……。
内田 : 寝なくていいモードに入ることがあるんです。最近は2〜3時間しか眠らない日々が続いているんですけど、それでも元気ですし。でも、そのモードが途切れるとずっと寝てたくなっちゃうんですよね。
――それ完全に『いぬやしき』ですよね。
森 : あはは! 内田はロボだったんだ(笑)。
内田 : ふたりがなぜぼくのことをアスリートだと感じるのか考えたんですけど、そういうモードというか、ゾーンに入ることがあるからだと思いました。ゾーンに入ったときの自分には自信があるので、そこへの持って行き方を常に考えています。
森 : ゾーンに入った内田に引っ張られて、うちらはかなり助けられてます。あと喋りとかアクションもサッカー選手なんですよ。怒ったときなんて、まさにファールをアピールするサッカー選手(笑)。毎回「出た!」と思う。
――確かに内田さんの話し方は、試合後のスポーツ選手みたいな感じがします。締めには「次に向けていい準備したいと思います」って言いそう。
内田 : ああ! 自分でも言いそうだと思います(笑)。
感情爆発系ボーカル森
――こうしてお話を聞いていて、内田さんと三輪さんはおふたりとも経歴も発言も主役になれる人だと感じました。でも、クアイフでは森さんを前に押し出しますよね。内田さんと三輪さんから見て、森さんのすごいところって何ですか?
内田 : ぼくも(三輪)幸宏も、目立つのがあまり得意ではないタイプなんです。でも森は心から「目立ちたい!」と思ってる人間で、それには本当に助けられてます。そういう森の明るさがあればこそ、子どもから年配の方にまでクアイフを愛してもらえる。この人懐っこいキャラクターのおかげでぼくらの音楽が届く範囲が広がっていると思います。
三輪 : でも、感情の起伏がすごいんですよ。森は“感情爆発系ボーカル”です。上下どちらにも振れるんですけど、上に振れてるときは本当に助けられますね。
――2人の意見を聞いて、森さんどう感じましたか?
森 : 「明るい」って言われましたけど……明るい?
内田 : いや、明るいよ(即答)。
森 : そう? 自分で思ってる自分と人から見た自分ってちょっと違うなと感じました。自分が好きになるものは、どちらかと言えば暗いものが多いんです。でもそれって裏返しなのかな。昔「ロックバンドやろう!」って思ったときは、好きなバンドに憧れてちょっと暗めの音楽をやってたんですけど、それって自分がやるものとは違うんじゃないかなって最近思うようになってきて。「このバンドのボーカルである森彩乃とはどういう人間なんだろう?」って客観的に見ることができるようになってきた気がします。感情の起伏は、あんまり低い方に振れないようにしていきたいと思います……。
――でも、低い方にも振れるから、深いところへ一度潜って浮上してきたような曲になるのかもしれないですよね。
森 : 確かに、高いばっかりだと単なるハッピー野郎になっちゃいますもんね(笑)。
三輪 : その幅を自分で出せるのがすごいと思うんですよね。ぼくは感情の起伏が上にも下にも少ないので。
森 : それは強さでもあり弱さでもありますよね。出さない強さもあると思うんだけど、わたしは出しちゃうんだよなあ。すぐ感情移入しちゃって、自分と全然関係ないことでも泣いちゃうし。
メジャーデビューの喜びをもっとも伝えたい相手
――では最後に、メジャーデビューの喜びを誰に一番伝えたいですか?
三輪 : 地元で応援してくれている友だちや家族はもちろんですけど、ぼくはドラムの先生に伝えたいです。小学校6年生のときにドラムを始めたんですけど、その先生にスティックの持ち方からビートの刻み方まで全部教えてもらったので、すごく感謝してるんです。
――先生は、三輪さんがそれからずっと音楽を続けていることを知ってるんでしょうか?
三輪 : 知ってくれています。いまでも時々会うのですでに伝わっているんですけど、誰に一番かと聞かれたら、その先生に伝えたいですね。
森 : わたしは音大のピアノ科出身でクラシックをずっとやってたんですけど、大学生のときに「ロックバンドやりたい!」って衝動に駆られて、ギターボーカルを始めたんです。でも在学中はずっと、バンドをやってることを隠してたんです。「バンドやってるくらいだったら練習しなさい」って怒られると思って。やっぱりクラシックの世界では、同じ音楽とはいえ別物という意識があるんです。卒業してからも、お世話になったピアノの先生にバンドのことは言えませんでした。それが1年くらい前にメールが来て、「森さん、見ましたよ。すごいじゃない! いまこんなことやってるんだ!」って。ずっとバンドのことを言えずにいて、自分の中ではやましい気持ちがあったんですよね。自分から胸張って言えるタイミングっていつだろう?ってずっと悩んでたので、先生の方からそういうメールが来て感動してしまいました。電車の中でメールを見たんですけど、泣くのを必死にこらえました。だから一番伝えたいのはその先生だし、今後もっとステップアップして、大きな舞台に先生を招待できたらいいなと思ってます。
内田 : ぼくは15年間サッカーをやっていて、名古屋グランパスのユースに6年間所属していたんです。バンドをやりたくてユースを辞めたんですけど、そんな理由で辞める人はほとんどいない。やっぱり県外から来て寮に入って、プロになるために頑張っている人がほとんどなので。そんななか、みんながユニフォームに寄せ書きをしてくれて。
ぼくの同期や一個下の世代って優秀な選手が多くて、いまでもプロで活躍してる選手がいっぱいいるんです。たとえば、日本代表の吉田麻也選手。麻也も音楽が好きでギターをやってたので、遠征でバス移動が多いときなんかはよく一緒に音楽や楽器の話をしてました。だからこうやって書いてくれたんだと思うんですけど。
ここから約10年経って、自分としてはやっとスタートラインに立てました。だからあのとき一緒に頑張ってた選手たちに改めて伝えたいですね。
――熱い話ですね……。このユニフォーム、10年経ってるのに新品みたいにキレイなので、大切にされてきたことが伝わってきます。
内田 : 一回も洗ってないし、袖も通したことないですからね。タグも付いたままだし。一生大事にする宝物です。
――この寄せ書きをしてくれた何人かには、すでにメジャーデビューのことを伝えましたか?
内田 : 伝えた選手もいます。たとえば酒井隆介選手はグランパス所属なので、試合会場で会うと「メジャーデビュー、すごいやん」って言ってくれたりします。でも全員には伝えてないですね。これはぼくのプライドのせいかもしれないんですけど、「気づいてほしいな」という気持ちもあるんですよね。とくに、麻也には向こうから気づいてほしい。
「これ、めちゃくちゃかわいくないですか?」(三輪)
――三輪さんと森さんも、今日は自分の大切なものを持って来ていただいたんですよね。
三輪 : ぼくはこれです。最近飼い始めた犬の服です。
森 : 三輪はほんとに犬が大好きで、SNSにも度々写真をアップしてるんですけど、たぶん一番女子力が高いですね。動物大好き、甘いもの大好き。
三輪 : これを着てるコロンちゃんの写真があるんですけど……これ、めちゃくちゃかわいくないですか?
――おお! 似合いますね!
三輪 : そうなんですよね〜!
森 : 「めちゃくちゃかわいくないですか?」って、女子か(笑)。
三輪 : みんな見た? かわいいでしょ?
森 : かわいい、かわいい(棒読み)。
森 : わたしは、マジメな方はコンクールで獲った賞のトロフィーや楯です。もうひとつは、激辛グッズを持ってきました。わたし激辛が大好きなんです。
今日持ってきたのは、ほとんどファンの方からいただいたものです。好きすぎて、あらゆる食べ物に激辛グッズを使い分けて楽しんでいます。でも幸宏が甘党で、辛いもの苦手なんですよ。打ち上げのときは、流れで「これ辛くないから大丈夫!」って食べさせるんですけど。
三輪 : それに毎回騙されるんですよね……。
――なんか、ダチョウ倶楽部みたいですね(笑)。
3人 : あはは!!
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