ナツ・サマーが初のフルアルバム『Hello, future day』をリリースした。クニモンド瀧口(流線形)全面プロデュースのもと、2016年夏に『夏・NATSU・夏』でデビューし、シティポップとレゲエを組み合わせた「シティポップレゲエ」シンガーとして注目されているナツ・サマー。今回のアルバム『Hello, future day』は、エレクトロファンクや歌謡曲の要素を込めるなど、さらなる進化を見せている。
ミーティア編集部は、ナツ・サマーが音源だけでなく、ライフスタイルやパーソナリティもきわめてシティカルチャー的であるとの情報をキャッチ。そこで、下北沢にオープンしたばかりのカルチャースポット『nu-STAND』に、ナツ・サマーと一緒に行ってみた。音楽レーベルが運営するというまったく新しいタイプのコンビニ&デリ『nu-STAND』を体験しつつ、シティガールのナツ・サマーに、新譜のこと、好きな音楽のこと、お酒のことなどを聞いてきた。良く晴れた午後に、キンキンに冷えた生ビールを飲み、肉厚なパストラミサンドを食べながら……。
『nu-STAND』体験ルポに、半分飲み会と化したインタビューを織り交ぜながらお送りします。
Photograpy_Takuma Toyonaga
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_司馬ゆいか
ナツ・サマー『Hello, future day』アルバムダイジェスト。まずはこちらを再生しながら読んでください!
nu-STANDとは?
『nu-STAND』とは、音楽レーベルP-VINEが始めたオルタナティブなコンビニのこと。
P-VINEは1975年設立。国内外の多種多様な音楽とその文化を、レコードやCD・DVD、雑誌、書籍などを通して紹介してきた。2012年からはメディア『ele-king』部門も擁している。主な所属アーティストは、柴田聡子、寺尾紗穂、トクマルシューゴ、Tempalay、Special Favorite Music、MONO NO AWARE、IOなどなど多数。
nu-STANDの特徴は、「日常の新たな”STAND”ARD」をモットーにしたコンビニ&デリ。生活雑貨、インスタント製品、飲料類を揃えるコンビエンス・ストア業態に、店内調理にこだわった弁当・惣菜類や生ビールも提供するデリ業態をドッキング。12品目のサラダバーと、量り売りの約20品目の温製冷製惣菜や揚げ物をご飯とのワンプレートやパンに挟んでなど、自由に組み合わせて楽しむことができる。現在のイチオシ商品はパストラミサンド。目の前でさばいた肉を、カリカリに焼いたパンに挟んでくれる。
店舗は約50平方メートルのショップエリアとイートエリアに分かれている。イートエリアは、チェア&テーブル、カウンター、テラスなど計20席。買い物客の目線を気にせず飲食できるのが嬉しい。モーニング、ランチ、カフェ、夕食、さらにはちょい飲み、夜遊び前のゼロ次会やハシゴ酒時の一時休憩など、時間帯に合わせたイート・スタイルが可能。今後はトークイベント等の開催も予定しているとのこと。
颯爽と現れるシティガール、ナツ・サマー
この日、ミーティア編集部とナツ・サマーはお店の前で待ち合わせ。良く晴れた暑い日で、汗を拭き拭き待っていると、こっちに向かって来る綺麗なお姉さん発見。あっ、あれはもしやナツ・サマーさん?
汗だくの男臭い編集部とは違い、一滴の汗もかかずに颯爽と現れたナツ・サマー。おお、これが噂のシティガールか……。
ナツ・サマー : オープン前からこのお店のことはずっと気になってたけど、取材のために今日まで来るのガマンしてたんです。早く中を見てみたい〜!
とノリノリのご様子。早速店内にお邪魔してみることに。まずはコンビニ&デリ部分を見学。扉を開けると……
ご覧の通り、コンビニとデリがしっかり融合。商品はお菓子や缶ビール、ジュース、カップ麺などの食料品から生活雑貨まで、コンビニらしいものが一通り揃えてある。同じスペースに惣菜スペースやサラダバーがあり、サラダはなんと495円(largeサイズ。regularサイズは295円)で詰め放題!「フタが閉まればオッケー」とのこと。好きな野菜を選んでオリジナルサラダを作れる。惣菜は好きなものを3種類選ぶと弁当にしてくれる。その名も「BENTO」、645円。身体にも財布にも優しい。
「サラダバーもあるんだ!すごい!」
選べる野菜とドレッシング。ドレッシングは「クリーミーたまご」「自家製ごま」「レモン」の3種類。
こちらの冷蔵庫には惣菜が並ぶ。
店内のBGMはP-VINEからリリースした楽曲たち。この日はもちろんナツ・サマーの『Hello, future day』が。レジにはポップもありました。
ナツ・サマー : えー!これは嬉しい……。手書きで書いてくれたんですね。ありがとうございます!
奥のキッチンはガラス張りで、調理している様子を見ることもできる。看板もいちいちカワイイし、なんだか、めっちゃおしゃれ。
イチオシはパストラミサンドとのことなので、注文してみることに。
目の前で肉をさばいてくれる。
ナツ・サマー : 肉、でかっ!ビールに合いそ〜。ビール飲んでもいいですか?
実はナツ・サマーさん、実家が酒屋で、かなりのお酒好きなんだとか。ちなみにnu-STANDに入っている生ビールはアサヒのスーパードライ。
店内のサーバーで注いでくれる。
ナツ・サマー : やっぱ今日みたいに暑い日はドライなビールがおいしいですよね。一杯目はいつもビールを飲みます。二杯目以降は、もう、なんでも(笑)。
というわけで、イートエリアに移動して、ビール片手にパストラミサンドをつまみながらのインタビューへ。
カンパーイ!
イチオシのパストラミサンド、お味の方は……?
ナツ・サマー : 贅沢……(うっとり)。おいしいです。結構カラシが入ってるように見えるのに食べやすいです。お肉はすごく厚くて、でも柔らかい。カリカリに焼いたパンの薄さがちょうど良いです。この薄さのおかげで、ちゃんと肉を食べてる感がある。これはビールに最高に合いますね……。
インタビューwithナツ・サマー
――じゃあ、飲食しながらインタビューを始めていきますね。まず「ナツ・サマー」っていう名前に関してなんですが、これは自分でつけたわけではないんですよね?
ナツ・サマー : プロデューサマー(クニモンド瀧口。「サマー」に絡めてこのように呼んでいた。)がノリでつけてくれました。本名がナツキで、夏生まれだし、ドナ・サマーさんが亡くなった時だったので、じゃあナツ・サマーねって。ちょうど下北沢の『八峰』っていう焼き鳥屋で飲んでる時でしたね。吉田類さんの酒場放浪記にも出てきた老舗のお店なんですけど、今は閉店しちゃったんですよね。
――ということは、下北沢はナツ・サマー生誕の地ですね。
ナツ・サマー : あっ、そうですね!すごい仰々しいけど(笑)。
――初めて下北沢に来たのがいつ頃だったか覚えてますか?
ナツ・サマー : 初めて来たのは二回目の上京の時だったと思います。その時に入った事務所が下北沢にあったんです。それまでは下北沢がどんな街かも知らなかったし、来たこともなかった。一回目の上京の時は神奈川だったので、東京の地理もよくわかってなかったし。
――一回目っていうのは?
ナツ・サマー : 一度就職したんです。そのあと、家庭の事情で地元に帰りました。その時に、やりたいことをやっとかなきゃって思ったんです。人って、いつどうなるかわからないじゃないですか。それを目の当たりにして考えたんですよね。音楽はずっと好きで、学生時代からバンドとかユニット組んだりしてたんですけど、それは趣味程度だったんです。でも、チャンスがあればとことんやってみたいと思うようになって。普段生活してる時って、日々の生活に追われて、自分の人生についてゆっくり考えられることってあんまりないじゃないですか。でも実家に帰って、色々なことと向き合う時間ができたら、やっぱり自分は音楽がやりたいんだなと強く思いました。その後にたまたま入ったのが下北沢の事務所だった。ジャズ系の事務所で、今は別の場所に移転して、私も半年で辞めちゃったんですけど。ナツ・サマーをやる前は、ジャズとかボサノヴァとか歌ってました。
ナツ・サマーとオジサマー
――その頃はレゲエじゃなかったんですね。
ナツ・サマー : 大学時代はクラブでレゲエを歌ってたんですけど、ナツ・サマーの直前は、ギターの方と、ユニットでやってて。それも下北沢のBARFOUT!っていう音楽雑誌の編集室がやっていたイベントに参加してて。今のプロデューサマー(クニモンド瀧口)もそこで出会ったんです。
――なんかオジサマーと縁が深いですね(笑)。
ナツ・サマー : (笑)。そこは間違いないかも。先輩たちに可愛がっていただいてます。
――インスタを見ても、結構年配の方と写ってる写真が多いですよね?オジサマーキラー感ある。
ナツ・サマー : たぶん横の繋がりが少ないんだと思います。同期はMGF(3MCによるラップクルー。曽我部恵一のROSE RECORDより2016年デビュー)くらいしかいないんです。
――でも、同世代のミュージシャンはたくさんいますよね。その中で意識する人はいますか?
ナツ・サマー : やっぱり素敵だなって思う人を頭に思い浮かべると先輩が多いですね。たとえばキョンキョン(小泉今日子)とか。ここ2年くらいで和モノ(※「和モノ」の定義は様々あるが、ざっくり言えば、日本で作られた音楽のこと。近年、過去の歌謡曲などをDJが再発見してクラブでかけることが一種のブームになっている)をたくさん聴くようになったんですけど、キョンキョンって他の女性シンガーと違うところがあるんですよね。
――意識するミュージシャンで最初にキョンキョンの名前があがるのはちょっと意外な気がしますけど、でも今回のアルバム『Hello, future day』を聴くと、納得感もありますね。
ナツ・サマー : そう、今回思ったんです。去年まではそんなにキョンキョンを意識してなかったんですけど自分の曲がこういう曲調になっていくにつれて。『Fade Out』の世界観とかも好きです。
――これまでの作品と比べると歌謡曲っぽさが増してますよね。ユーミン(松任谷由実)っぽさもあると思いました。
ナツ・サマー : 今年の5月に初めてユーミンのライブを観に行ったんですけど、もう、本当に素晴らしくて……。大好きな曲はいくつかあったんですけど、だからといってこれまでは特にユーミンを掘り下げて聴いていたわけではないんですね。でも、一生に一度くらいはライブに言ってみたいと思ってたんです。それで観に行ったら、ライブが終わる頃にはもう、大ファンになってて。その後すぐにレコードを全部集めようと決めました。
――今年の5月ということは、かなり最近の話ですね。今回のアルバム『Hello, future day』はもうすでに完成していたのでは?
ナツ・サマー : ちょうど完成したか、その少し前くらいだったと思います。
――としたら、今回のアルバムにはユーミンの影響はあまりないですか?
ナツ・サマー : いえ、あります!実は自分で歌詞を書いた曲があるんです。その曲を作ってる時にユーミンの過去の作品をかなり聴き直して、歌詞カードも読みまくって参考にしたんです。それは、すごく歌謡曲っぽくなりました。最終的には他の曲とのバランスを考えて今回のアルバムには入れませんでした。
――今回のアルバムの最後の曲『ふたりが隣にいること』は、特に歌い出しがユーミンっぽいと思ったんですが、あまり意識はしていない?
ナツ・サマー : それは意識してないですね。でもこの曲は、ストレートに歌うことを心がけました。あとは、変に感情を込めすぎないこと。もちろん気持ちを込めて歌うんですけど、私、普通に感情を込めて歌うとちょっと演歌っぽくなっちゃうんです。そういう込め方じゃなくて、あくまでストレートに曲を歌った上で感情を込める。難しいけど、そんなことを意識しました。
――少し抑え気味で歌ってるような気はしました。でも抑えてるからこそ、センチメンタルな感じが際立っているようにも思います。ナツ・サマーさんの曲からは、「夏は過ぎ去ってしまうもの」という切なさがほのかに感じられるんですよね。たとえば、リリックビデオも出ている『恋のタイミング』の歌い出しの歌詞は、「いくつもの季節が通り過ぎて行く」です。季節は過ぎ去ってしまうものだという、少し引いた感じで歌が始まってる。
(ナツ・サマー『恋のタイミング』リリックビデオ)
ナツ・サマー : ああ〜。嬉しい。良いことを言ってくださいますね。歌詞を作る時は、日々の打ち合わせ……という名の飲み(笑)の中で、瀧口さんが色々キーワードを拾ってくれてて、それを詰め込んでるんですね。だから私の性格にすごいハマってる歌詞ばかりなんです。季節に限らず、すべては繰り返して過ぎ去って行くものだ、ということは常に感じてますね。
――いつ頃からそういうことを感じるようになったんですか?
ナツ・サマー : どうだろう……。結構寂しがり屋だからなあ。すごい楽しい時間があったとしても「でもこれはずっとは続かないよね」って思っちゃう。だからこういう歌詞になったのかもしれないです。
――5曲目の『街あかり』という曲が、実はナツ・サマーさんの本質なんじゃないかなと思ったんです。この曲、アルバムの中ではちょっと異質な歌詞ですよね。だってこの曲の主人公は、部屋の中から街のあかりを見てるんですよ。ナツ・サマーさんにはシティや海といったイメージがあるので、そもそも「部屋の中」という設定が少し驚きでした。そして部屋から外の都会を、少し羨望の気持ちで見ている。自分はそこ(街)から離れている。
ナツ・サマー : 私自身にそういう部分があるんですね。さっき歌謡曲の歌詞を書いたって言いましたけど、まさにそういう歌詞になりました。
――その歌詞かなり読みたいですね。
ナツ・サマー : 恋愛をすることの心の不安定さを歌詞にしてみました。今までも女性の嫉妬を歌ったものがあるんですが、これは特に女性は共感してくれる人が多いんじゃないかなと思ってるんです。ユーミンもそういう歌詞が多いですよね。不幸な女性や報われない女性が「それでも信じたいの」って思う気持ち。きっと女性って、そういう少女漫画的でセンチメンタルなストーリーに惹かれるんでしょうね。
――今回のアルバムは、夏の夕方から夜に聴きたいと思いました。気持ち良い夜風を感じます。ジャケットも素敵ですね。
ナツ・サマー : 全体的に、夏の夜にドライブしながら聴きたくなるようなものになったと思います。ジャケットは、背景の色に関しては、シングルはピンク、アルバムはブルーにすることだけ先に決めてました。写真はいろんな表情や仕草で何枚も撮ってもらって、最終的にプロデューサマーと二人で選びましたね。1stEP『夏・NATSU・夏』の時みたいに、髪が風に揺れてる写真になりました。あんまり顔をガッツリ出して強いイメージを与えるより、むしろそこはふわっとさせて、想像の余地を多くした方が楽しんでもらえるんじゃないかなと思うんです。もちろんこういう取材の時は良いんですけど、作品のジャケットの時はそういうことを意識してます。
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