幼少期からジャズピアニストとして活動し、近年は役者としての活動もめざましい「まっぴー」こと甲田まひるが、このたびシンガーソングライターとしてデビューする。そう聞くと、ジャズピアノに歌声を乗せた楽曲を想像するかもしれないが、『California』と題された表題曲は、そうしたイメージとはかけ離れた作品に仕上がった。初めての歌唱、初めての作詞、そして初めてのラップ……。ロックとヒップホップを融合させたこのドープな作品はいかにしてできあがったのか。この楽曲に至った経緯や背景を聞いた。
Photography_Sakura Nakayama
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Miwo Tsuji
音楽をやめる選択肢はなかった
――音楽を始めた頃の話から聞かせてください。5歳からヤマハの音楽教室に通い始めたそうですね。
甲田まひる(以下、甲田) : 幼稚園に入ったら、まわりがみんな習い事をやっていたんです。バレエとか、水泳とか、英会話とか。それに無意識で影響されてなのか、「わたしもピアノがいい!」とお母さんにお願いして。それが偶然好きなものとしてハマって、たまたま今日まで続いている感じです。当時は家にピアノもなかったし、親が音楽をやっていたわけでもありませんでした。
――その頃は、ピアノのどんなところが楽しかったんですか?
甲田 : 右手と左手が同じ動きをしないところが楽しすぎて。練習という気持ちが一切なかったんです。毎週レッスンが楽しみでした。
――音楽に出会う前はイラストレーターになりたかったそうですが、5歳より前にその職業を知っているのがすごいですね。
甲田 : なんで知ってたんだろう......大人としゃべるのが好きな子どもだったんです。大人の言葉を使ったり、子どもが普通言わない変なことを言ったりして年上の人たちが笑ってくれるのが嬉しくて。9歳上のお兄ちゃんがサッカーをやっていて、その親睦会や打ち上げがあるとよく親が連れて行ってくれたんですよね。そういう時に友達のお母さんとか近所の人たちに面白がられていました。絵が好きだったので、喜んでもらいたくて似顔絵を書いて渡したりもしていました。
あとは、雑誌に載っている小さいイラストが好きで、そういう絵を提供できたらいいなって思ってたんです。ファッションもその頃好きになったので、だんだんデザイン画を描きたくなって、自分で雑誌をつくってみたりしました。
――いちばん古い記憶って何ですか?
甲田 : 覚えているのは幼稚園の頃で、『オシャレ魔女ラブ and ベリー』というカードゲームが好きだったんです。服がジャンル分けされていて、それを組み合わせてダンスバトルさせるんですけど、超楽しくて、それがきっかけでファッションを好きになりました。幼稚園のあとに公園に遊びに行く時も、スニーカーじゃなくてかかとの高いサンダルじゃないと絶対に嫌な子だったんです。おしゃれが好きすぎて、かわいい格好をしたい気持ちがものすごく強かったので、それがいちばん記憶に残っていますね。
――それから8歳でジャズに出会い、ジャズピアニストになると決めて音楽を続け、一方ではファッションにも興味を持ち続け、ファッショニスタとしても知られているまっぴーさん。15年以上同じことを続ける、好きでい続けるのは、簡単ではないと思うのですが、ひとつのことを⻑く続けるための秘訣ってあるんでしょうか?
甲田 : えっ......わたし、続けてるって言えますか?夢中になっていて、気づいたら時間が経っていた感じですかね。
――やめたいと思ったことはないですか?
甲田 : ないです。5歳でピアノを始めて、8歳でバド・パウエルやセロニアス・モンクに出会ってからはジャズピアニストになると決めていたので。なれたらいいな、ではなく、なると決めたので、やめる選択肢はなかったです。他にできることも好きなこともなかったし、これしかなかったので。音楽がなかったら、ファッション関係の仕事に就いていたのかなあ……。
「Qティップ(ATCQ)になりたかった!」
――今回の『California』ではシンガーソングライターとしてデビューします。なぜ歌おうと思ったのでしょうか。
甲田 : ずっとジャズピアニストを目指していたから他のジャンルに興味はなかったけど、2018年に出したアルバム『PLANKTON』の制作を始める少し前にヒップホップに出会って、それで自分の音楽観がガラッと変わったんです。
甲田まひる(Mahiru Coda) – California
――どういうきっかけでヒップホップに出会ったんですか?
甲田 : お母さんが持っていたローリン・ヒルのアルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』を家でたまたま聴いたんです。それにほんとに食らっちゃって。ビートの感じがめちゃくちゃかっこよかった。それに歌が乗ってきた時に「これやりたい!」って思ったんです。もうその時には、いずれ歌うことを決めていました。
同じ頃、ア・トライブ・コールド・クエストにも出会って。SNSで知り合いが「ATCQの新譜ヤバイ」と言っていたので調べてみたら、『We Got It from Here... Thank you 4 Your Service』が出た頃で。もうそこからはほんとにヒップホップにのめり込んでいきましたね。さらに、ア・トライブ・コールド・クエストの作品を最初から聴いていったら、90年代のヒップホップがヤバイことにも気づいて、ローリン・ヒルもその年代の人だったと。
――好きなものが繋がったわけですね。
甲田 : そこからグラスパーなども聴くようになり、あの人たちもその時代のJ・ディラなどに影響を受けてそれを生楽器でやろうとしているんだと知り、だったらわたしもそれをピアノでやればいいんだと思ったんです。それで、ヒップホップをどうにか自分の音楽に落とし込めないか考えるようになりました。だから『PLANKTON』ではずっとやってきたビバップを中心に、ヒップホップの要素も取り入れて。それと同時に、レコーディングしながら「次は絶対に歌を出したい」と思っていました。
――ということは、2018年の時点で歌うこと、ヒップホップをやることは決めていたんですね。だから今回ラップを入れたのも必然だったと。
甲田 : そうなんです。Qティップ(ATCQ)になりたかった!
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