どうやって生きていければ良いのか迷ってしまって
――このアルバムは“大人”ってワードが多く散りばめられてますけど、どういう意図があったのでしょう?
ハルカ : 「大人と子供」って言葉とか、そのモチーフとしても『わらべうた』があったり、「もういいかい、まあだだよ」ってかくれんぼで使うフレーズが出てきたりとかしますね。なぜか子供の頃のことがモチーフになっている曲が多いなって、完成してから気づきました。
――どうして、子供をモチーフにした歌詞を書いたんですか?
ハルカ : 今、27歳になって、アーティストとしても人間としても迷いに差し掛かっているというか、今をどうやって生きていければ良いのか迷ってしまって。当然、子供ではないんだけど、全部わかっているかと言うと全然そんなことはないし。じゃあ表現者としては何を言いたいんだろうって、分からなくなって歌詞が書けなくなったんですよね。そんな迷いのままスタートしたのが今回の制作だったので、必然的に今の自分の素直な迷い、悩みがどの曲にも表れたんだなと思います。
ハルカトミユキ 『わらべうた』 (from 3rd AL『溜息の断面図』)
――『宝物』の「子供にも大人にも もうなれない」って言葉にグッときました。10代の人が反社会やフラストレーションを歌にすると若気の至りに感じるし、逆に50代の人が歌うと悟りや説得みたいな感じになると思うんですよ。その中間だからこそ生々しいなって。
ハルカ : そうなんですよね。10代後半よりも、20代後半の方が全然苦しい。10代後半ってその苦しい様を見せても良いし、それで当然みたいなところはあると思うんですよ。でも、今は「27歳にもなって何を甘えているんだ」っていう違う苦しさが凄くある。歌詞は年齢に縛られずに、10代の頃に感じていた葛藤を27歳の私が書いても良いと思うんですけど、それでも昔のことを昔の感覚では書けないし……。じゃあ、今の私が書けることはなんだろうと思っていて。まさに『宝物』はそれを素直に書いた曲で、「青いままの春」も認めてしまった方が楽だし、それで良いやと思って書いた曲です。
――「宝物」は凄く……泣けるんですよね。ハルカさんが歩んできた27年間の人生を歌ってて。『終わりの始まり』や『WILL』を聴いていても、憤りを歌っているんだけど、その敵は誰なのかってよく見たら自分っていう。そこをハッキリと突き詰めた作品に感じました。
ハルカ : 常にそれは思ってて。何かに怒っているんだけど、それって鏡みたいに自分に返ってくるし、自分への怒りとか罪悪感とか、そういうものに一番怒ってる。その矛盾を書きたいと思いました。一方的な攻撃はしたくないというか、どんなに怒っていたり、激しい言葉を使っていてもそれは絶対自分にも言うようにしたいです。
ハルカトミユキ 『終わりの始まり』 (from 3rd AL『溜息の断面図』)
――『Stand Up,Baby』の「逃げてしまえ 戦わないで」っていう歌詞に救われる人は多いと思います。
ハルカ : そうですね。「希望の歌を歌いたい」って言いながら、今回も本当に怒ってて、攻撃的なことを書いてるんですけど、表現することで誰かを傷つけたいわけじゃない。聴いてくれた人が同じように思っていたこと、でも、言葉に出来なかったことを聴いた時、絶対に救われて欲しいし、そこに希望があって欲しい。それが私の表現としては「頑張れ」でもなかったし、「大丈夫だよ」でもなかった。言えなかったことを、全部言葉にして言ってあげることが私の方法だった……だから絶対、このアルバムは最後に光があって、希望があって欲しいと思ってます。
――ちなみに人前で歌うことで、フラストレーションや溜まっている気持ちは満たされていきますか?
ハルカ : 私は満たされてます。書くこともそうだし、それを歌うことも全部私の救いというか。だから、逆に何も思わずに生きていける人だったら歌を歌ってないだろうなって感じです。
「もう、やってらんねぇ」と思った
――今作でキーになっている曲は何でしょうか?
ミユキ : 『WILL』は私たちの新しい一面を見せられたと思ってます。楽曲自体はダーク・エレクトロだったり、ちょっとトリップ・ポップな感じで凄く好きで。ハルカの強い言葉に支えられて、出すべくして出せる音楽に昇華したと思います。こうやって色んな苦しみを経て、ハルカの言葉が復活したことで、私ももっと色んな挑戦がしたいってこの曲が出来た時に思えて。そういう意味で一番聴いてほしい曲です。
ハルカトミユキ 『WILL(Ending Note)』 (from 3rd AL『溜息の断面図』)
――ミユキさんにとって、ハルカさんらしさを感じる歌詞ってなんでしょうか?
ミユキ : 凄く抽象的だけど、根底としては何かに怒っていたり、当たり前の出来事に対する違和感みたいな、言葉にできないことをちゃんと言葉にしてハッとさせるっていうのがハルカの言葉だと思ってます。何を歌っても哀愁があるというか、どんなに明るい楽曲を作っても毒のある言葉をぶつけて、それは決して明るい曲にはならない。怒りとかフラストレーションを的確な言葉にしてくれるのがハルカの言葉であり、ハルカトミユキの一番大事なことだと思ってます。
――ハルカさんはいかがですか?
ハルカ : 『近眼のゾンビ』ですね。曲のサウンドと歌詞の振り切り方は今までで一番じゃないかな。歌詞を書いた時に「言ってやったし、やってやった」感じが凄くあったんですよ。アルバムのメインかと言われたら違うかもしれないけど、このアルバムの中にこの曲がいて良かった。自分がずっと思っていたのに、自分自身が言葉にしてあげないままにしていたことに改めて気がつきました。
――書けるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
ハルカ : それまで何か制御がかかっていたものが、どうでも良くなって……「もう、やってらんねぇ」と思った瞬間があったんですよ。そう思えたことで、これは制御せずに言っちゃおうって。
――「もう、やってらんねぇ」っていうのは何に対して?
ハルカ : えっと……まあ、私の周りにいるすべての人間です(笑)。言ってしまえばそうなんですけど、作詞なんて孤独な作業であって、孤独な叫びなのに「うるせぇ! 口出しするな」みたいな。そこが良い意味でどうでも良くなったんですよね。そのどうでも良くなって振り切ることが、私の作品を作る経緯になるというか、誠意になるというか……だなって思えたことですね。
――キャリアを重ねていくと技術が身について、打算的というか上手くやろうとするじゃないですか。だから、「どうでも良いわ」って踏み出す一歩が重くなると思うんです。そこの怖さはなかったですか?
ハルカ : ある意味、二の足を踏む感じでいたんですけど……それすらもどうでも良くなって。多分、行き着くところまで行ったんだと思います。そう思ったら凄く楽になったというか、「なんだ、これで良いじゃん」って。しかも、そっちの方が求められてたじゃん、みたいな感覚になれました。
狂えない人の方が辛くて、狂ってしまえた方が楽
――先ほど年齢の話が出ましたけど、27歳ってどう捉えてますか?
ハルカ : アーティストってみんな27歳で死んじゃうじゃないですか(*注: 60年後半~70年代初頭に早逝するアーティストが軒並み27歳だったことに加えて、90年代にカート・コバーンが27歳で死んだのを機に“THE 27 CLUB”と呼ばれ定説で定説化した)。私は死のうとは思わないけど、凄くその気持ちが分かるんですよ。本質を見られるっていうか培ってきたものとか、若さとか、一切通用しなくなって、本当に内面だけを見られる境目なのかなと思って。だからこそ怖くなったんですよね。全てを削ぎ落とした後で、私が勝負できるものってなんだろうって。もしかしたら空っぽで、何にも出来ないんじゃないか、と。だからこそ、しっかり自分と向き合わなきゃって思ったし、今の自分の武器を確認して、そこで勝負しなきゃと覚悟ができた。改めて歌詞を今までの以上に向き合って書こうと思えた、そういう年齢ですね。
――27歳ってアーティストに置き換えると、節目な感じしますよね。
ハルカ : 数字にすると中途半端なんですけど、実際になってみると分かるんですよね。25歳とは違う何かがあって。多分、覚悟なんだと思います。一人の人間としてのなにか……。
――ミユキさんは?
ミユキ : 大学の同級生や地元の友達を見ていると、「みんな大人になってるなぁ」って感じますね。
――周りを見て焦ります?
ミユキ : 焦りは何もないです。自分の思っている不満をステージでぶちまけられて、共感してもらえるっていう、こんな良いことをやっていて、そこに何も卑屈になることはない。私も27歳で死んじゃうミュージシャンがいるのは知ってて、自分がその年齢になったら変わったりするのかなって思ったら、私は何にも変わらなかったので、多分この先も楽天的に好きな音楽に救われ続けていくんだろうなって。ある意味、ハルカと真逆なんです。このミスマッチな感じが音楽にも反映してると思ってます。
――話を聞いていると、ミユキさんは人間として非常に強くて、ハルカさんは凄く人間臭さがあるなって思いました。
ハルカ : そうですね。私は至って普通のことを言いたいと思い続けてる。普通の人が普通のことを普通に言いたい。初期の作品に『Vanilla』という曲があって、そこで「狂えない」ってことを書いて、そこからずっと繋がってるんです。私は変人でもないし、奇人でもないし、狂人でもない。そういう人が大多数であって。狂えない人の方が辛くて、狂ってしまえた方が楽だってずっと思ってきたから、その普通である苦しさを書きたい。それは明るいことでも暗いことでもない、至って普通のこと。だから、音楽にした時に絶対にポップスであって欲しいんですよ。
――歌詞と曲の絶妙なギャップが、ハルカトミユキの強みですよね。
ハルカ : だと思います。ただただ暗いとかじゃなくて、そこにはさらっと強い言葉を、さらっとポップなサウンドに乗せて言うとか、そこのバランスを自分でとってきたつもりでいて。それが合わさっているのかなって思います。
【ハルカトミユキ リリース情報】
溜息の断面図
発売日:2017年6月28日(水)
【初回特典盤2CD】AICL-3354/3355 3,990円(税込)
【通常盤CD】AICL-3356 2,800円(税込)
(CD収録内容)
1.わらべうた
2.Stand Up, Baby
3.Sunny, Cloudy
4.終わりの始まり
5.Fairy Trash Tale
6.WILL(Ending Note)
7.宝物
8.近眼のゾンビ
9.インスタントラブ
10.僕は街を出てゆく
11.嵐の舟
12.種を蒔く人
(初回特典盤CD 収録内容)
LIVE at日比谷野外大音楽堂 [2016年9月24日]
1.世界
2.バッドエンドの続きを
3.Hate you
4.Pain
5.奇跡を祈ることはもうしない
6.夜明けの月
7.Are you ready?
8.見る前に踊れ
9.DRAG&HUG
10.振り出しに戻る
11.ニュートンの林檎
12.光れ
13.LIFE 2
14.ドライアイス
【ハルカトミユキ ライブ 概要】
「+5th Anniversary SPECIAL(ワンマン)」
日時:2017年9月2日(土)/日比谷野外大音楽堂/開場17:15 開演18:00
info:DISK GARAGE 050-5533-0888
■チケット
発売中
メモリアルチケット限定指定席(特典付) 3,500円(税込)
自由席 3,000円(税込) *小学生以下入場無料。(指定席はチケットが必要となります)
詳しくはオフィシャルHPをチェック
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