「狂えない人の方が辛くて、狂ってしまえた方が楽だってずっと思ってきたから、その普通である苦しさを書きたい」このハルカの言葉こそが、彼女たちが表現したいことの根幹だと思う。6月28日にリリースされたハルカトミユキの3rdアルバム『溜息の断面図』は心の琴線に容赦なく触れてくる、そんな傑作だ。生きるとは何だろう? 希望とは何だろう? 自分は何者なんだろう?そんな自問自答がこのインタビューではさらけ出されている。人は遅かれ早かれいつか死ぬ……間違いなく。だったら、生きている内にこんな音楽があることを知ってほしい。もしかしたら、あなたの探していた光が見つかるかもしれない。
Photography_DOZONO HIROYUKI
text_真貝聡
Edit_司馬ゆいか
わかってたまるか、ということを歌い続ける
――今年でインディーズデビュー5周年を迎えましたが、ここまでバンドが続くと思ってました?
ハルカ : 思っていたといえば思ってましたけど……何も考えずに始めちゃったので、予想外のことはたくさんありました。
――ハルカさんは『LIFE』の制作中に過労で倒れたことがあったじゃないですか。それに、『そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。』でも、歌うのがしんどい時期があったり。
ハルカ : はい。
――ハルカトミユキの音楽は自然に曲を生み出すというよりも、自分の命を消耗しながら生み出していく音楽なので、改めてここまで続いていることは凄いことだと思うんですよね。
ハルカ : その言葉だけで、だいぶ救われます。
ハルカ(Vo/Gt)
――今までの活動を振り返っていかがですか?
ハルカ : 仰って頂いた通り、特に私は不器用なやり方しか出来ないタイプの人間で。嘘をつけないというか、それが良くも悪くも作品に反映されてきたアーティストだと思っています。だから、予想外のことがたくさんあった5年間ではありました。今考えれば、悩んで止まっていた時期もあったからこそ、今の形があるのかなって。デビューした当時の気持ちと今回の作品では近いものを感じています。
――「デビュー当時の近いもの」というのは?
ハルカ : あの……「わかってたまるか」、みたいな感じですかね。歌を書き始めた時って、その気持ちが凄くあって。「わかってたまるか」、と言いながらそれを歌にすること自体が私にとっての意思表示だったし、希望であったし、それが歌だと思っていました。「わかってたまるか」、ということを人前で歌い続けること自体、矛盾していると思いつつ、私の表現だったなって。今は表現の仕方がちゃんと音楽にできてますけど、そもそもの根本にあるのはそこだなって。
――『虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。』の時、ミユキさんは「ハルカの言いたいことは凄く分かるけど、まだ音楽として人に伝わらないんじゃないか」って話してました。だけど、このアルバムでは何に対して戦っているのか、何に対して自問自答しているのか凄く明確になっていると思います。
ハルカ : 簡単に言うと、以前に比べて丸くなっている部分とか、大人にならざるを得ない部分が絶対にあって。それが作品にも出てしまったり、そのせいで書けなくなっていたことがたくさんあったんです。今作は、そこを一旦吹っ切ってみたら、感情がその言葉にどんどん引きずり出されてきて。もっともっと言いたいことがあったなと思い出したんですよね。それは大きかったです。
人の言葉というものが全て怖くなってしまって
――改めて『溜息の断面図』はどんな作品になっていますか?
ハルカ : ずっと言葉や歌詞を大事にしてきたんですけど……いろいろとやっていく中、どこかで曲に頼っている部分があったなと思って。今回はそれを一切なくしたんです。とにかく歌詞だと思って。当然、曲として今までも良いものを作ってきたつもりなんですけど、今作はより一層に歌詞しかないと思って作った。私の中ではもう一度、自分の作詞とかメッセージというものと改めて向き合えた一枚になったと思います。
――ハルカさんにとって、作詞ってなんですか?
ハルカ : やっぱり、1人で歌詞を書くのはすごく孤独な作業だし、ハルカトミユキの歌詞というのは告白だったり打明け話だったりという、すごく人に見られたくない部分であって……。でも、そんなことを言ってたら、この仕事はできないし、段々と慣れていかなければいけない。慣れながら、苦しみながらもやってきた。そういう風にミユキとやっていく中で、自分で書きたいことと、書かなければいけないことと、表現のバランスを取るのがすごく難しくて。その葛藤は5年間ずっとありました。
――先ほどの「曲に頼っている」というのは、どういうことでしょうか?
ハルカ : 曲に頼るってある意味、私の逃げだったと思うんですよね。今までは曲がこうだから、歌詞はこれでいっかとか、これで許せるかとか言っていたけど、そこに甘えるのは、やっぱり嫌だと思ったんです。「詞は曲を助けるけど、曲は詞を助けない」ってよく言われていますけど、きっとそうなんですよね。どんな曲が来ても詞で100%以上に持っていくのが私の仕事で、絶対にそうしたいけど、どこかにこんな詞でも曲が助けてくれると思っちゃっている自分が5年間の中で知らず知らずにいたなと思いましたね。
――ハルカさんは凄く突き詰めて歌詞を書いている印象があったので、僕としては意外です。むしろ、妥協をして音楽をやっている感じが一切しない。
ハルカ : そうなんですけどね。あまりにも不器用で、バランスが取れなくて、やり過ぎて大変な時もありました。本当に一番大変だった時期はメールもできないし、電話にもでれない状態にまでなって。
――どうして、そこまで追い詰められたんですか?
ハルカ : 人の言葉というものが全て怖くなってしまって。その時に防衛本能じゃないけど、自分の感情を麻痺させた部分があったのかもしれないですね。そういう意味で今回は一切、その感じはなく、結構言いたい放題言えたと思います。
――ミユキさんにとって、このアルバムはどんな作品でしょうか?
ミユキ : 8年前、バンドに憧れてハルカと大学で出会ったんだけど、やっぱりお互い不器用なので結局2人組のままでした(笑)。8年間の中で本当に波があった。特にハルカが苦しんでいる時もあったし、私も私で自分が何なのかわからなくなった時期があったりしました。その時間がなければ、もっと上手くやれていたと思う時もあったけど、それがあったからこそ本当にやりたかったことを形にできたとも思っています。
前作はライブで盛り上がるために曲を書いた部分が強かったんですけど、今回はそうじゃなくて、強い言葉を引き出して、怒りを表現できるような曲を作ろうと意識しました。前回よりも言葉と音のハマりがカチッとハマって。そこに爆発力ができたなと思います。
ミユキ(Key/Cho)
――大変な時期を乗り越えられた理由は何だったんでしょう?
ミユキ : デビュー当初は、聴いてくれる人だけが聴いてくれれば良いってカッコつけていました。本来の自分はそういう人間じゃないし。どちらかといったら能天気な方なのに、そういう部分をひた隠しにして、あたかも「私は暗いです」って見せていたんです。ライブ中に無理して暴れてみたり、変な人を気取ってみたり……そうすると本当の私とハルカトミユキの私に矛盾が生まれて、全然ライブが楽しくなくなちゃって。
――一時はモヒカンなど奇抜な雰囲気を出してましたよね。
ミユキ : そうですね。だけど、一昨年に47都道府県ツアーをやったことで「待っていた」とか「ハルカトミユキの音楽に救われている」とか、そういう言葉を直接聞けて、ようやく壁が取れたんだと思います。あとは自分らしさを発見する上で、「音楽のなにが好きなんだっけ?」と振り返って。私は中学生、高校生の学生生活って本当に一人だったんです。だけどORANGE RANGEのライブへ行くと、辛いことがあっても明日も頑張ろうって元気をすごくもらえたんです。その当時のことを思い出して、じゃあ、私もそういうことを伝えたいって気持ちが芽生えました。
そういうことを音楽でどう表現しようって考えた時に、2016年に12か月連続で新曲配信というのをやっていて、その間で80年代の音楽に出会ったことやクイーンのライブ映像を観たことに大きく影響を受けました。
――どんな影響がありました?
ミユキ : 凄くコミカルな曲調なんだけど、歌詞は暗いことを言っていたりするところが、ハルカトミユキの音楽に通じるかもしれないと思いました。そこから自分たちの音楽の幅が広がったなと思います。それで、ライブでも盛り上がるシーンと曲を聴かせるシーンの2つを用意するということがようやく成立して。そこがきっかけです。
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