「謎解きの時間をより長く共有出来るもの」にこそ、普遍性がある
――ハグレヤギの楽曲は「忘却」を思わせる一方で、歌詞に時代性を問わない言葉がたくさん登場すると思っています。皆さんは「普遍性」があるものと、そうでないものの違いとはどういったものだとお考えですか?
山脇:その答えのようなものはあいにく持ち合わせてはいないんですけど……。一つ言えるとすれば、時代に消費されるものと消費されないものの違いは、前者は「その瞬間に理解できる」、あるいは「気持ちが良くなる」というようなことではないでしょうか。
一方、普遍性があるものは何かというと、一口に「普遍性がある」とされているものにはその時代にはヒットしなかったものも含まれているわけですよね。もちろん、ヒットしたものも含まれますけど、ただそれは実はどうでも良いことです。
その瞬間には百ある内の、十か二十しか理解できない。もしくは理解したと思いこんでいる。そういうものを五十年、百年経ってからやっと「ああ、こういうものだったんだ」と聴く人、観る人たちが何となく断定するようになる。そういう謎解きの時間をより長く共有出来るものが、僕は普遍性のあるものだと思っています。
スピッツなんて正に良い例で、彼等の曲ってすごくメロディーも分かりやすいし、もちろん売れましたよね。ただ、その曲をいま聴くと(発売)当時は「分かった気になっていた」だけで全然意味が違うものに聞こえてくるわけです。『渚』は失恋の歌だったのか、とか『ロビンソン』のアレンジってこんなんだったけ……とか。未だに謎解きをしています。
ただ、メロディーの良さは初めて聴いた時もいまも変わらない。それが「普遍性」の一つの例だと思います。
小杉:人の感情って、どんな時にも存在するものですよね。山脇の曲は、(内容が)自分にいま起きていることと直結していることが多いからこそ、曲を持ってきてもらって聴いた時には「おっ」と思いますね。
山脇:でも流行りものも好きな方です。凄いバラード作ったと思ったら、次の日にはめっちゃクラブミュージックみたいなの持って行ったりします。チルウェイブが流行だときたらそっちに行って、R&Bっぽいの流行ってきたらそっち行って。流行りものっていっちゃうと俗っぽいですけど、いまこの時代の最先端でどんなことが起こっているのかをドキュメントするのが好きなんです。アートもそうだし、音楽もそうですし、自分もそこに加わっていきたいんです。
小杉:彼、『サンデー・ジャポン』大好きですよ(笑)
――だいぶ意外性ありますね。
山脇:よくいわれることですけど、良い作品や良い言葉、人を動かすものは「両極のもの」を含んでいるんです。物凄く下品そうに見える人が、一方でとても品のあることをしていたり。すごく時代に沿ったヒップなものを作っている人が、すごく古典的なものを愛していたり。アウトプットでもインプットでも、そういう両極に存在するものをきちんと一つに消化できる人が真の一流だと思っています。
村上春樹の言葉から考える、「日本」と「海外」のサウンド
――近年では日本人でありながらも海外のシーンを志向し、日本語ではなく英語で歌うグループが増加傾向にありますよね。こうした変化はどのように見ていますか?
山脇:そういうものは、正直あまり聴いていませんが、だからといって「日本人だからさ!」みたいな感じの曲もあまり好きじゃないです。
小杉:必ず(ハグレヤギの)歌詞は日本語なんですね。曲は洋楽好きだから、その感じが出ているけれど、歌詞とメロディーは「和メロ」だと思います。
山脇:村上春樹のエピソードに面白いものがあって。「なんでそんな洋書かぶれみたいな文体なんだ」と聞かれた時に、「別にかぶれているわけじゃなくて、僕は生まれた時からTシャツを着ているし、コカコーラを飲んでいる。だから、こうなるのは普通でしょう?逆にはかまを履いて、刀を差していたらおかしいじゃないか」ということを彼は言うわけです。
海外のシーンをそのまま志向したサウンドも、「日本人だからさ!!」というのもあまり好きじゃないというのはまさにこういうことです。
別に僕は、はかま履いてるわけでも、ちょんまげしてるわけでもないです。ただ、だからといって英語で歌って、本当にサウンドもそのまま海外のものを持ってくるというのは――単にコピーが上手いだけのようにも感じます。
最近の人達は、英語のニュアンスからサウンド、楽曲も含めて丸々持ってこれちゃうわけですよね。それは世代の特色でもあると思うんですけど。これがもう少し前の世代だと、同じように海外のサウンドを持ってくるにしてもHi-Standardみたいな感じになったりしてましたよね。
僕、Yogee New Wavesはめちゃくちゃ好きなんですよ。良い意味で不器用さと、自分のアイデンティティと、あこがれとが(胸の内で)「戦ってる」感じがするので。観てても、聴いてても良いなと思いますね。
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――宝田スタジオの本棚には村上春樹の本が多く並んでいますよね。
山脇:あれは全部僕のものです。家にあったのをとりあえず全部持ってきました。
――ちなみに、一番好きな作品はなんですか?
山脇:ベタなんですけど『海辺のカフカ』が一番好きです。メタファーの使い方も、分からない人には分からないかもしれないですけど好きですし、プログレッシブな感じと彼が元々持ってるアンニュイな感じとが良い意味で合わさっていて。
――主人公の男の子が、Radioheadを聴いてるシーンがありますよね。
山脇:村上春樹、Radiohead、ゲルハルト・リヒター、あと『イレイザーヘッド』のデイビッド・リンチ。この四者は近い存在だと思うんです。何が近いかと言うと、アンダーグラウンドにあるものをオーヴァーグラウンドに「包み込む」のではなく、同じ土俵に乗せてしまえるセンスで。
普通の人なら、アンダーグラウンドなものを世に出す時はオーヴァーグラウンドな形にお化粧し直して発表するわけです。でも、彼等はアンダーグラウンドなものをそのままぽんっと出してしまう。でも、そこにはふりかけ程度にオーヴァーグラウンドなエッセンスがかかっていて、それが小学生にも何か気になる、というような。
ちなみに、僕がRadioheadに出会ったのは中学生で、それまでL’Arc~en~cielしか知らなかったんですけどね……。L’Arc~en~cielしか聴いてない中学生でも、Radioheadには何か気になるものがあったんですよ。
小杉:「このボーカルの人、ラルク好きだったんだ~」っていう耳で、ぜひ曲を聴いて欲しいです。
山脇:僕、ラルク大好きだったんですよ。
小杉:ところどころにラルク節が効いていて、それっぽい歌い方してると、ドラム叩きながら「あ~きたきた!」って思ったりします。
――小杉さんはどういったミュージシャンから影響を受けてきましたか?
小杉:私は本当、最初はJUDY AND MARYが好きでした。他は山脇の影響も大きいですね。The 1975とかも、影響を受けて好きになりました。
山脇:え、俺、The 1975好きって言ったっけ?そんな好きじゃないけど……。
小杉:あれ!好きじゃなかったっけ?そうだっけ。山脇と関係なかったです……。
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