MCバトル日本一のラッパーR-指定と凄腕ターンテーブリスト&トラックメイカーDJ 松永によるヒップホップユニット、Creepy Nuts。今回のインタビューでは、2人にあらためて今の状況について、自分たちの音楽について、そして見据えるこの先について語ってもらった。
「童貞」というキーワードで結びついた2人のメンタリティ、『フリースタイルダンジョン』が注目を集める中、MCバトルに対しての率直な心境、アイドルやロックなどアウェイのフィールドにも意欲的に越境を果たす覚悟――。なぜ1MC+1DJの「たりないふたり」が新星となっているのかが伝わるインタビューになったのではないかと思う。
インタビュー・文=柴 那典
宇多丸さんと童貞について語り合うことができたのが最高のご褒美
——Creepy Nutsは、こないだ、RHYMESTER主催の「人間交差点2016」に出演してましたよね。どうでした?
R-指定(以下、R):めっちゃ盛り上がりましたね。俺らも楽しかった。
DJ松永(以下、松永):最高でしたね。幸せな空間でした。
ーーお二人はRHYMESTERからかなり影響を受けているんですよね。だからこそ、あのフェスの一部を担ったというのは感慨深いことなんじゃないかと。
R:感慨深いですよ、本当に。
松永:あとRHYMESTERが選ぶだけあって、全員がめちゃくちゃ格好よかった。ヒップホップのアクトが多かったけれど、みんなロックフェスでもブチかますようなライブでしたね。
ーー改めて伺いたいんですけれど、自分たちがRHYMESTERから受け継いだもの、憧れた部分を再確認したような感じもありましたか?
R:そうですね。ヒップホップの格好いい部分と、それを普通のあんちゃん達がやってるみたいな部分で。しかも、いい空気を放ってる人たちなんですよ。バックステージもすごくいい雰囲気で。仕事上の関係ってわけじゃなく、それを超えたようなハッピーな空気があったのがよかったですね。みんなでモニター観ながら、キャッキャ言い合うみたいな。
松永:そうそう。
R:RHYMESTERって、表現の源はひねくれてたり、こじれてたりするんですけど、それを表現に昇華したことによって、幸せになれてる人らやと思うんです。「こういう空気、こういうアーティストが好きなんやな」っていうのは改めて思いましたね。
松永:イベントが終わった後の会場打ち上げも最高だったね。
R:そうそう。僕とか松永さんみたいな人間としては念願なんですけど、宇多丸さんと童貞について語り合うことができた(笑)。
松永:そう! 最高のご褒美!(笑)
ーーははははは!
松永:しかもそこで熱く語り合ってたら、METEORさんとかロベルト吉野さんとか、ヒップホップ界のヤバいやつらが何も言わないのにぞろぞろ集まってきて。
R:「俺だって」みたいな自分の情けない話とかクズなエピソードを語り合ったという。最高でしたね。
ーーRHYMESTERはデビューして20年以上だし、宇多丸さんだって40代なのに、結局話してることが変わってないっていう。
R:そうですね。好きですね、そういうところも。俺らの与太話に同じテンションで付き合ってくれる。こういうのが楽しいんですよ。格好いい大人だと思います。ある意味、少年のまんまというか。
松永:格好いいよね。俺らもその歳になっても、同じレベルの話したいもんね。
音楽があったから、自分を笑えるようになった
ーーこの話って、Creepy Nutsがそもそもこの二人でやってる理由のひとつでもあると思うんですよ。童貞の話だったり、そういうモテないやつらの与太話に、なんで惹かれているのか。
松永:深刻だからじゃないですかね? 人生にまつわる話だから。
R:やっぱり自意識ってところでしょうね。結局人間の自意識の話をしてるので。何歳になってもそれがあるからこそ、アーティストをやってたり、自分を表現するようなことをしているわけだし。やっぱり、アーティストの人で童貞嫌いな人って、なかなかいない。
松永:いないよね。
R:いろんな土地でライヴをさしてもらう時も、そこのオーガナイザーさんにわざわざ「童貞なんです」って言ったら、すぐ仲良くなるし。
松永:でかい刺青入れてるような人が「お前ホンマか! 最高や」って(笑)。
R:ホンマにかわいがられるんですよね。
ーーでも、お二人が作った中には「トレンチコートマフィア」という曲もあるわけじゃないですか。
R:はいはい。
ーーあれは本当にルサンチマンの塊のような曲ですよね。スクールカーストの下層にいる側の思いを純度高く表現している。でも、実際に会ってみると、とてもオープンな二人だと思うんです。そのあたりは?
R:昔はマジで不良の人は苦手やったし、嫌いやったんですよ。かといって自分と似たような人にも「なんやこいつら」と思ってたし。ホンマに八方塞がりやったんです。アメリカで、実際に大学に車で突っ込んで学生を射殺したみたいなヤツがいて。そいつが遺書で「俺がモテないのは金が無いせいだ」とか、「女は俺を惨めな気分にする。女たちは全員まず殺すべき」とか「オタクみたいなやつらは気持ち悪いから殺せ」とか、すごい身勝手な遺書を書いてるんです。
ーーまさにトレンチコートマフィアだ。
R:俺、音楽が無かったらそいつと同じだったかもしれないです。
松永:うん。無かったらゾッとするよね。病んでると思う。
R:ただ俺は音楽を通して仲間ができたり、自分に自信を持てたからこうなった。自分を笑えるようになったのも、音楽があったからなんですよ。自分に自信が持てたから「俺らダメなんです。しょうもないとこあるんですよ」って言える。
松永:そう。だからこそ、自分の情けない部分とかをおおっぴらにしゃべれるようになったんですよね。
R:これを好きっていう情熱とか、情熱を捧げられるものがあるから、やっと言えるようになったんだと思います。
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