酒井亮輔(Ba.)のルーツミュージック
「僕も1枚目はB’zです。音楽を聴くことは小さい頃から好きで、レンタルCD屋に通ってたんですけど、中学生の頃、よく行ってたレンタルCD屋でB’zの『Calling』(1997)という曲のMVを見たんですよ。その時「うわ、めちゃくちゃカッコ良い……」と思ったんです。それでCDがどうしても欲しくなって、『Calling』が収録されたこの『Pleasure』(1997)というベストアルバムを即予約しました。しかもこの時にCDを買うだけじゃなくて、自分も音楽をやりたい、やらなきゃいけないと思ったんです。最初はギターを始めました。なぜかINORANさんモデルのギターを親に買ってもらって。B’zは音楽を始めるきっかけでしたね。
それからしばらくはギターの練習をしてたんですけど、友だちとバンドを組むとなった時にベースがいなかったんです。当時から(大山)聡一はかなりギターが上手かったんで、これは勝てそうにないなと思ったこともあり、ベースを始めました」(酒井)
大山と酒井は、小学生時代からの幼馴染。ともに中学生の頃から音楽にハマり、互いにカッコ良い音楽を見つけてはシェアしたり、2人で練習したりしていたのだとか。中学生の頃から一緒にギターを練習していた友だち同士がこうして一緒にメジャーデビューする。なんて夢のある話なんだ。
「ああベースってすごく良いなあって思わせてくれる」
「2枚目はMr.Bigの『BIG, BIGGER, BIGGEST!』(1996)。これもベストアルバムですね。ベースに転向してからいろんな音楽を聴いてたんですけど、このMr.Bigのベースを聴いた時は衝撃でした。聡一も言ってたように、その頃ってB’zを通してハードロックにハマってるなかで出会ったバンドです。
Mr.Bigのベースって超上級テクニックのど真ん中じゃないですか。いきなりそんな難しいバンドにハマってしまったので全然うまく弾けないんですけど、少しずつできるようになる感覚がすごい楽しくて。
3曲目の『Stay Together』(1996)っていう8ビートの曲があるんですけど、ベースがものすごく“歌ってる”曲なんですよね。ああベースってすごく良いなあって思わせてくれる。だからこれは、ベースとして音楽にハマった最初の1枚。CDが傷だらけになるくらい聴きました」(酒井)
(Mr.Big『Stay Together』MV)
やはり幼馴染ということもあり、大山と酒井の音楽的なバックグラウンドはかなり重なっているようだ。10代の頃は「お互いに聴いているすべての音楽を交換し合っているような感じ」(大山)だったとのこと。
「3枚目はMarvin Gaye(マービン・ゲイ)の『What’s Going On』(1971)です。18歳で東京の専門学校に入って、授業でこの曲をやったんですけど、本当に打ちのめされたというか……。譜面上で、この曲がどんな構成をしていてどういう曲なのか、どんな技術が盛り込まれていて、それがどれほど絶妙なバランスで成り立っているか教えられて。「いままで自分は何もわかってなかったんだな」と思わされたんです。それがきっかけでグルーヴ音楽がすごく好きになりました。この衝撃は大きかったですね。
その授業を担当していた先生がいなかったら、ここまでグルーヴ音楽にハマることはなかったと思います。その先生がまたファンキーで面白い先生だったんですよね。これがきっかけで昔知った曲を改めて聴き直して、そうした曲がいかにすごい曲だったか思い知らされたりもしました。音楽に対する好奇心がさらに増していった時期でした」(酒井)
(Marvin Gaye『What’s Going On』ライブ映像)
こうして話を聞いていると、BRADIOのメンバーは友だちや先生などその時々で周りにいた人たちの影響を素直に受け取ることで自身を育んできたことがわかる。と同時に、それは周囲の人々に恵まれてきた証拠でもある。
真行寺や酒井の先生のエピソード、大山と酒井が幼馴染であることなどは、羨ましくなるほど素敵な話だ。きっとBRADIOのメンバーには、そういう素晴らしい人たちを惹きつける魅力があるのだろう。こうして話をしていると、彼らのポジティブなグルーヴが伝わって来て元気になる。初めて会うのに、昔から知っている友だちのような感覚で話をしてくれる。
田邉有希(Dr.)のルーツミュージック
「僕の1枚目はGlen Miller(グレン・ミラー)の『Moonlight Serenade』(1939)です。僕はちょっとみんなとルーツが違っていて、典型的な音楽一家に育ったんです。僕が生まれた頃は父がプロのトランペット奏者で、母はピアノとエレクトーンの先生をしていました。そういう環境のせいもあって、2歳の頃にはエレクトーンを弾いてました。いまでも、2歳の僕が『Moonlight Serenade』を弾いてるカセットテープが家にあります。そのカセットテープには僕の喋りも入ってるんですけど、エレクトーンより言葉の方が下手なくらいでしたね。昔の写真を見ると、楽器に触れてる写真がすごく多いんです。きっと、おもちゃ代わりだったんだと思います。
親が家でやっていた音楽教室にも参加したりして。2歳だから記憶はほとんどないんですけど、めっちゃ怒られながら練習してたのは覚えてます。そのせいで音楽が嫌いになった時期もありました。僕が小学生の頃ってJリーグが発足して、みんなサッカーしたり野球したりしていている。それがすごく羨ましかったんです。みんな外で遊んでるのに、なんで僕は家でピアノの練習をしなきゃいけないんだろうって。いまとなっては、家族で音楽の話をするのがすごく楽しいし、ものすごく恵まれた環境だったんだって理解できますけどね」(田邉)
Glen Millerはアメリカの古典的なジャズミュージシャン。スイング・ジャズの大家であり、彼が作り出したビッグバンド『グレン・ミラー・オーケストラ』は、彼の死後も様々な音楽家が楽団を存続させ、世界中のファンを魅了し続けている。
ビートルズやLUNA SEA、B’zをルーツに持つファンクバンドというだけでも面白いのに、そこにジャズまで加わった。BRADIOに備わっている音楽性の幅は、実は田邉が持つ多様なバックグラウンドによる部分が大きいのかもしれない。田邉の2枚目のルーツミュージックは、その仮説をさらに補強するように思える。
「音を奏でるとは、こういうことなんだ……」
「2枚目は『エリーゼのために』(1810)です。小学校低学年の頃からピアノ教室に通い始めたんですけど、その頃の僕は強く弾くことや早く弾くことに対して美学を感じてたんです。そんな時、あるピアニストのコンサートに行ったら、その人がアンコールでベートーベンの『エリーゼのために』を弾いたんです。技術的には難しくない曲なんですけど、ものすごくゆっくり情感を込めて弾いている姿を目の当たりにして、「音を奏でるとはこういうことなんだ……」ということに気付かされました。
それでまで「気が付いた時にはすでに始めていたもの」でしかなかった音楽に自覚的に向き合うようになった瞬間です」(田邉)
ジャズ、クラシック。そして3枚目にはさらに意外な1枚が加わる。
「3枚目は、スピッツの『ハチミツ』(1995)というアルバムに入っている『涙がキラリ☆』(1995)です。中学生の頃、将来は音楽大学に進みたいと思って、親に車で送り迎えしてもらいながら、レッスンに通い始めたんです。でも、先生がすっげえ嫌な奴で(笑)。ある時、帰りの車のなかで「もう嫌なんだよね」って告白したんです。とても勇気のいることでしたし、きっと怒られるだろうなと思ってたら、「じゃあ辞めようか」とすんなり納得してくれたんです。
当時はバンドに興味を持ち始めていた頃だったので、一回クラシックをやめてバンドをやってみたいとも伝えました。そしたら「じゃあ、そうしなよ」と言ってくれて。そして、「もしやるんだったら、ラジオやテレビで流れるような曲をやらなくちゃダメだよ」という話をしてくれて、その時ちょうど車のラジオから流れて来たのが、スピッツの『涙がキラリ☆』だったんです」(田邉)
(スピッツ『涙がキラリ』MV)
なんてドラマチックな話……。しかし、田邊はそのままスピッツ路線には行かず、ピアニストにもならなかった。何になったかというと、ファンクロックバンドのドラマーになった。
「前後して、学校のブラスバンド部に入ってドラムも始めていました。クラシックを辞めたことをきっかけに、最初は断っていた先輩の誘いを受けてバンドに合流して本格的にドラムをやるようになったんです。まずはGLAYやL’Arc〜en〜Cielのドラムに興味を持ち始めて、それからHIGH-STANDARDを聴くようになりました。恒岡章さんのドラムには魅了されましたね。ツネさんのドラムってバスドラのフットワークが本当にすごくて、「これどうやってやってるんだろう?」って、どんどんのめり込んでいきました。
そうやってドラムが好きになっていって専門学校に進み、いまの仲間と出会ったんです。ピアノを弾いてる時にアイデアを閃いたりするので、いまでもたまに弾きますよ。そもそもピアノとドラムって、どちらも打楽器なので距離感が近いんですよ」(田邉)
「表現した形がたまたまファンクだった」
こうして話を聞いてみると、BRADIOはみなファンク以外の音楽にルーツを持ち、試行錯誤していくなかでファンクに行き着いたことがわかる。辿ってきたものが普通のファンクバンドのそれとはまったく違っており、それがBRADIOの面白さや武器になっているのだろう。
“ファンク”ということについて、田邊が語った「僕たちはファンクバンドがやりたいわけじゃなくて、表現した形がたまたまファンクだっただけなんです」という言葉も印象的だった。BRADIOにとって“ファンク”とは単なる音楽のジャンルなのではなく、考え方や精神、生き方のことなのだ。大山は次のように語る。
「究極的には、僕たちがファンクをやることって不可能なんじゃないかとも思うんですよね。歴史が全然違うから、形だけは真似することができても本当のところはわからない。でも、日本で生まれてこういう環境で育ったことを考えると、ファンク的なものを取り入れて新しいものを作ろうとすれば、それが自分たちのオリジナルになるんじゃないかとも思うんです。
言ってみれば、たまたまみんながいま目指しているところにファンクというものがあって、その頻度が高い、そういう感じですね。これからもいろんなことをやっていきたいので、もしかしたら変わっていくかもしれないです」(大山)
確かに、これまでにリリースされたBRADIOのアルバムを聴きくらべてみると、その時々でサウンドにかなり変化があったことに気付かされる。また、アルバム1枚の中にも、ファンクありバラードありと幅が広い。どうやら、BRADIOを一口にファンクバンドと呼ぶのは正確ではないようだ。
BRADIOとは、様々な音楽のハイブリッドなのだと考えた方が良いだろう。大山や田邉が言うように、その表現の形がたまたまファンクだったのだ。インタビューの最後を、大山がこんな言葉で締めてくれた。
「今日こうやって話を聞いてたら、みんな発想は昔と変わってないのかなという気がしました。『Mr.BigのCD買ったら超ヤバかったんだけど!』っていうこの感じをシェアして、共感したい。思えば昔から『これは良い音楽だけど、亮輔には理解してもらわなくてもいいや』っていう発想がなかったんですよね。
そうじゃなくて、『このギター超カッコ良いから、亮輔お前もこの良さわかれ!』だった。その延長線上に、いまのバンドもあるような気がします」(大山)
カッコ良い音楽をみんなとシェアしたい。そんな根底の部分が、こうしてメジャーデビューしたいまも変わらずにある。BRADIOの4人が音楽について語る時、彼らの瞳は思春期の少年たちと同じ輝きを放っていた。
音楽に目覚め、純粋に興奮していたあの頃。気持ちが抑えきれず、友だちにその興奮を伝えたくて仕方なかった――きっとそういう経験はミーティア読者ならば誰にでもあったのではないだろうか。
BRADIOの4人は、そんな「あの頃」と同じ熱意でそれぞれのルーツミュージックについて語ってくれた。その「純真さ」こそがBRADIOの芯なのではないか。インタビューを終えて、そんなことを思った。
以下は、BRADIOが「超カッコ良い」と思ってきたルーツミュージックのプレイリストである。一部、Spotifyにない曲もあるので、インタビュー内容を正確に反映したプレイリストとは言えないが、厳選して超カッコ良い曲ばかりを収録した。この記事の締めとしては、BRADIOの姿勢にならって彼らの超カッコ良いルーツミュージックをおすすめして終わるのがふさわしいだろう。大山聡一の言葉を借りて、本稿を閉じるとする。
「この曲全部超カッコ良いから、お前らもこの良さわかれ!」
プレイリスト:BRADIOのルーツミュージック『天国への階段』
(BRADIO『LA PA PARADISE』MV)
BRADIO(ぶらでぃお):
真行寺貴秋(Vo)、大山聡一(G)、酒井亮輔(B)、田邊有希(Dr)、4人組ロックバンド。
~Break the Rule And Do Image On~
日常の世界(Rule)に、素敵な時間・空間のイメージを加え(Do Image On)、良き変化(Break)を。
「日常に彩りを加えるエンターテインメント」をコンセプトに結成された4人組ロックバンド。
2013年10月に1st mini album”DIAMOND POPS”でCDを全国リリース。
2014年夏にはT.M.Revolution西川貴教主催イナズマロックフェス2014に出演。その後各地のサーキットイベントにも勢力的に活動を広げる。
2015年1月期アニメ「デス・パレード」オープニングテーマ、10月期アニメ「Peeping Life TVシーズン1 ??」オープニングテーマ、さらに”京都きもの友禅” 全国CMのイメージソングのタイアップの数々を担当。2015年夏には国内邦楽最大級フェスティバル”ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015”に初出場にしてステージのトリを努め、”COUNTDOWN JAPAN 15/16”では年明けのステージで会場を大いに沸かす。
2016年には夏フェスに数十カ所に出演。そして7都市で10回のワンマンライブを開催。年末にはキャリア最大規模のZepp DiverCity満員御礼のライブで注目度を増す。COUNTDOWN JAPAN 16/17では2年連続大晦日に出演。
2017年1月 週刊漫画ゴラク連載中の人気漫画「ミナミの帝王」を実写化したドラマ「新・ミナミの帝王」主題歌を担当。初のドラマ書き下ろしを担当。 楽曲ごとに異なるサウンドを鳴らすドラムンベースを軸に、さらに熱唱&ファルセットを使い分ける個性の強さが魅力のヴォーカリスト真行寺の歌声で見に来たFUNKY PARTY PEOPLEを虜にするエンターテイナー集団BRADIO。
作品情報
1st single 『LA PA PARADISE』
【収録曲】
M-1.LA PA PARADISE
M-2.Baddest
M-3.LA PA PARADISE (Hidden AFRO ver.)
M-4.Baddest (Hidden AFRO ver.)
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田邊 有希Twitter
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