amazarashiがニューシングル『空に歌えば』をリリースした。
テレビアニメ『僕のヒーローアカデミア』の主題歌に起用された本作は、絶望と希望の両方を内包しながら「だからこそ足掻け」と、生きることや未来への肯定感を強く打ち出した作品に仕上がった。カップリングにはポエトリーの要素が強い『月光、街を焼く』と、秋田ひろむ自身の感情を率直に表現した『たられば』を収録。シングル一枚でamazarashiの全体像が見渡せるような、集大成的な内容になった。
ミーティアではamazarashiの中心人物である秋田ひろむにメールインタビューを実施。新曲に関すること、これからの活動のこと、そしてファンへの思いなど、幅広く話を聞いた。
Interview_Sotaro Yamada、Hiroyuki Ozawa
(amazarashi『空に歌えば』MV。まずはこちらをチェック)
いい時期も悪い時期も繰り返す。だからこそ「足掻け」
――『空に歌えば』はアメリカの有名なミュージカル映画『雨に唄えば』のタイトルと掛けているのだと思います。そうだとすれば、「空」と「雨」は秋田さんにとって対照的なものなのでしょうか、それとも近い関係にあるものなのでしょうか? また、これまでamazarashiにとって「空」は、「空っぽの空に潰される」や「青い青空が青すぎてもはや黒で」(『タクシードライバー』)と歌われていたように、必ずしもポジティブなイメージではなかったように思います。『空に歌えば』における「空」には、どのようなイメージを込めたのでしょう?
秋田ひろむ : amazarashiというバンド名自体が日常降りかかる悲しみや苦しみの比喩なので、今回の「空」という言葉はその対比であるというのは意識してました。イメージの中では雨が過ぎ去った後の青空です。今の気分を反映してできた曲なのは間違いないですが、この曲でamazarashiがハッピーエンドというふうにはならないです。いい時期も悪い時期も繰り返すことはもう分かってますから。だからこそ「足掻け」と歌ってます。この歌でやりたかったのはアマチュアから今の状況まで、色々ありながらもやってきた僕らのストーリーに一区切りつけることでした。毎回一区切りしてる気もしますけど。その上での答えとして空に歌えばっていう言葉が一番ぴったりきたんだと思います。
――『空に歌えば』のコーラスでは、豊川真奈美さん(Key.)の歌声が、過去の作品にないほどはっきり聞き取れます。豊川さんの歌に関して、秋田さんが感じていることを教えてください。
秋田ひろむ : 普段ライブでは豊川が全てコーラスをやってます。コーラスワーク的に男の声でハモったりするのが自然だとは思うんですけど、そこは二人でamazarashiなので、ライブでは豊川が歌うべきだと考えています。なので音源でも豊川が歌うのが自然かなと最近思ってます。ただ男の声と女性の声をまぜるのは難しいので、例えば音源ではハモリは僕自身がやってるんですけど、今回みたいな掛け合いとかなら豊川の声を生かせるなと思ってます。
――『空に歌えば』はそのポジティブなメッセージ性やメロディと、MVの内容が強い印象を与えます。ここ最近、amazarashiの曲にはポジティブなものが多くなってきました。しかし、MVの内容が示唆するように、観客のいない場所で一人で歌っていた頃から今に至るまで、秋田さんご自身の本質的な部分は変わっていないように思いました。あくまでも「変わってくのは いつも風景」(『無題』)。もしそうだとすれば、なぜ秋田さんは変わらないでいられるのでしょうか?物事がものすごいスピードで進むこの時代に、変わらないでいることはとても難しいことだと思います。
秋田ひろむ : 変わったところは思いますけど、変えたくても変えられないところって誰もが持ってるじゃないですか。多分そういう人間としての本当に根元の根本、人間性とかと呼ばれるような部分から世界を見れば、考え方とか気分とかも風景でしかありません。物事がものすごいスピードで進む時代になったからといって、僕はスポーツ選手にはなれないし、深夜ラジオのパーソナリティーにもなれませんでした。
――「僕らは雨曝しだが、それでも」というコンセプトの元に誕生したamazarashiが青空の曲を作ったことは、とても感慨深く、ファンとして嬉しく思いました。と同時に、ひとつの達成を迎えてしまったという寂しさのような複雑な気持ちがあります。今後、amazarashiはどんな道を歩んでいくのでしょうか?
秋田ひろむ : 先のことはあまり分かりませんが、そんなに変わらないと思います。僕とリスナーとの間にはどうしても乖離があって、僕の意図どおりに伝わらないことはどうしてもあります。「変わった変わらない」も「ポジティブ、ネガティブ」も僕が歌ってることと真逆にとらえられることが多々あります。なのでいらぬ心配をされてしまうことも多いですが、それに関しては心配は無用です。この音楽活動は僕の人生なので、今までどおりやりたいことをやっていこうと思っています。
――今の質問と矛盾するかもしれませんが、秋田さんは「希望を描くためには絶望も描く必要がある」と常々おっしゃっていました。今回、これほど明確に希望を描いたということは、逆に言えば、ある部分では絶望が大きくなってきたということでもありますか?
秋田ひろむ : そもそもこの歌は完全なるポジティブソングではないと思ってます。いずれ死ぬという諦観に立って、残り時間は少ないからもっと足掻くべきだというメッセージです。この曲のなかに絶望も希望も同じように内包されています。
――カップリングの『月光、街を焼く』は、『ポエジー』や『ワンルーム叙事詩』のように、強烈な歌詞が印象的でした。特に最後の「あまだれ 逃げ出せ 逃げ出せ 逃げ出せ」が強く耳に残ります。この言葉にはどんな思いを込めたんでしょうか?
秋田ひろむ : 僕の歌は結構世界と真面目に向き合ったりしてて、自分で何をこんなものに真面目になっちゃって、って思う瞬間もあります。無責任に、全てから逃げ出したって別にいいや、っていう気持ちはどこかにあって、そういうところからできた歌詞だと思います。
――近年、日本ではヒップホップが再び注目を集めています。AbemaTVは今年1月に「HIPHOPチャンネル」を開設しましたし、『ユリイカ』は2016年6月号で「日本語ラップ」特集を組みました。以前、秋田さんは日本の歌詞では「ヒップホップが最前線」とおっしゃっていましたが、今回の『月光、街を焼く』でも非常に印象的な韻を踏んでいらっしゃいます。最近のヒップホップの流行については、どうお思いですか?また、フリースタイルバトルのようなものにも関心があったりするでしょうか?
秋田ひろむ : フリースタイルダンジョンは好きですし、日本語ヒップホップからは作詞について多くのことを学びましたが、それだけです。またかっこいいアーティストに出会いたいので注目してますが、僕らの活動とは遠い趣味の範疇だと思ってます。
――amazarashiの楽曲には、『無題』や『冷凍睡眠』のような、一つの物語として構築された歌がある一方で、今回の『たられば』のような、おそらく秋田さん自身の感情を率直に表現したと思える歌もあります。どちらのほうが作りやすい、または歌いやすい、といったことはあるでしょうか?
秋田ひろむ : 物語の方が難しいですね。自分の感情を吐露する楽曲の方が楽に作れます。歌うことに関してはどちらも同じです。amazarashiの曲ということで考えると、物語を作ったうえで自分の気持ちも込めなければいけないと考えてしまうので、余計に物語が難しいのかもしれません。
amazarashiの音楽を必要としている人のために
――amazarashiはこれまでTVアニメ『東京喰種√A』、『乱歩奇譚Game of Laplace』、『僕のヒーローアカデミア』とタイアップしてきました。『東京喰種√A』と『僕のヒーローアカデミア』は人気漫画が原作です。秋田さんは漫画やアニメをよくご覧になりますか? amazarashiの歌詞はよく「文学的」といわれるので、あえてこの質問をしてみました。
秋田ひろむ : 話題になった作品や、おすすめされた作品は見ますが、それ以外はあまり見てないです。エヴァやまどかマギカやジブリとか、そのくらいです。
――新曲『フィロソフィー』もテレビCMに起用されることが決定しました。こうしたタイアップは、amazarashiの知名度を飛躍的に高めてくれると思います。ファン層が急激に拡大することについて、秋田さんはどのようにお考えでしょうか?
秋田ひろむ : 嬉しいです。その為にメジャーでやっているわけですから。でも急激という感じはしません。わりとコツコツやってるほうだと思うんですが。
(amazarashiの新曲『フィロソフィー』が起用されたダイドーブレンドTVCM『明日へのTRY篇』は9月11日より放映開始。『明日へのTEAM篇』は10月2日から)
――ファン層の拡大という点からもう一つ。amazarashiは近年、海外のファンも着実に増やしています。世界中のファン有志によって作られたこちらの動画はご覧になりましたか?こんなにも様々な文化的背景を持つ人々の心に秋田さんの言葉が刺さっていることを、どう感じていますか?また、なぜこれほど自分の言葉が響くのか、その理由を、ご自身ではどう分析されていますか?
(世界中のamazarashiファンが自主的に製作した『amazarashi Fan Tribute 2017』)
秋田ひろむ : 嬉しいです。ありがたいです。amazarashiの歌は全ての人に受け入れられる音楽じゃないけど、必要としている人は世界に数パーセントいる、って言われたことがあります。その通りだと思いましたし、海外でライブやったり、海外からの手紙をもらったりして肌で実感します。今僕らのしている活動は、分母を増やすための活動です。あと歌詞については、最悪を想定していることが大きいかもしれません。最悪な状況に今いる人が聴いたときにどう思うだろうか、っていうのはよく考えます。
――12/7に初の弾き語りライブを開催することが発表されました。このタイミングで弾き語りツアーをやろうと思ったのはなぜでしょうか(個人的に、秋田さんの弾き語りが大好きなので、これはすごく嬉しいです)。また、秋田さんにとって、バンドと弾き語りの違いは何ですか?それぞれどんな良いところがありますか?
秋田ひろむ : 弾き語りライブは昔からやりたかったので、ようやく念願叶った形です。僕らの音楽は細かい音を積み上げて、正確に演奏するからこそ感動を生むバンドだと思ってます。弾き語りは逆で、より自由に、僕個人の感性で演奏するので、一人のミュージシャンとしての挑戦でもあります。しくじったときのリスクも大きいですし。普段多くの人が関わってamazarashiを作り上げてる中で、僕自身の力はどれほどだろう、という気持ちが常々ありました。
――現在の日本の音楽シーンで、意識するアーティストはいますか?たとえば昨年『君の名は。』とタイアップしてファン層を爆発的に拡張させたRADWIMPSはどうでしょう?RADWIMPSの『週刊少年ジャンプ』という曲は、amazarashiの音楽のコンセプトに近い気がします。今回主題歌を担当することになったアニメ『僕のヒーローアカデミア』は、まさに週刊少年ジャンプで連載されている漫画です。
秋田ひろむ : 僕は影響を受けやすいタイプの人間なので、デビューしてからは近い年代の音楽はあまり聴かないようにしてます。海外の売れてる音楽も聴いたりはしますが、amazarashiがやれること、僕自身がやれることは限られているので、古いアーティストを手本にするほうがあってるのかなと最近は思ったりします。音楽的な話です。
――「あまざらし」時代も含め、これまでのamazarashiは、あたかも最終列車をホームから見送るときのような「悔しさ」や「失意」といった気持ちを多く歌ってきたように思います。ところが、そのような音楽活動を経て、いつの間にかamazarashiは見送る側から見送られる側へと立場が変わってきたような気がします。この点について、秋田さんはどうお考えでしょうか? 心境に変化などあったりするでしょうか。
秋田ひろむ : リスナーがそういうところを重要視するのは分かりますし、誤解も多分にあるけど、それでamazarashiから心が離れてしまう人がいるのは重々承知でやってます。僕は音楽を一生続けるので、長い目で見れば、状況が良くなることも、これから売れなくなることも、新しいファンと出会うことも、離れるファンがいることも想定しながらやってます。そんな中で、10年後20年後、amazarashiってまだやってたんだ、ライブ行ってみよう、みたいな再会が訪れるだろうとも想定してます。寂しさとか申し訳なさとか当然あります。でも自分の人生のことなので、しょうがないです。僕しか責任はとれないですし。
リリース情報
『空に歌えば』
初回生産限定盤 A(All For One盤)
CD+DVD/三方背スリーブケース+ラバーバンド(All For One ver.)/¥1,900+税/AICL-3405~AICL-3407
収録曲:
1. 空に歌えば
2. 月光、街を焼く
3. たられば
4. たられば -acoustic ver.-
5. 空に歌えば -instrumental-
初回生産限定盤 A(All For One盤)DISC 2
ヨクト(amazarashi Live Tour 2017「メッセージボトル」at Nakano Sunplaza 6.23)
少年少女(amazarashi Live Tour 2017「メッセージボトル」at Nakano Sunplaza 6.23)
命にふさわしい(amazarashi Live Tour 2017「メッセージボトル」at Nakano Sunplaza 6.23)
「僕のヒーローアカデミア」ノンクレジットオープニングムービー
初回生産限定盤B(One For All盤)
三方背スリーブケース+ラバーバンド(One For All ver.)+<『僕のヒーローアカデミア』TCGスペシャルカードamazarashi / 空に歌えばEDITION>/¥1,580+税/AICL-3408~AICL-3409
収録曲:
1. 空に歌えば
2. 月光、街を焼く
3. たられば
4. たられば -acoustic ver.-
5. 空に歌えば -TV edit.-
通常盤
¥1,200+税/AICL-3410
収録曲:
1. 空に歌えば
2. 月光、街を焼く
3. たられば
4. たられば -acoustic ver.-
5. 空に歌えば -instrumental-
amazarashiオフィシャルサイト
amazarashiオフィシャルTwitter
amazarashiオフィシャルFacebook
amazarashi『空に歌えば』特設サイト
SHARE
Written by