水曜日のカンパネラ 3人が語る、これまでとこれから。
2018年5月某日、水曜日のカンパネラは新作EP『ガラパゴス』のリリースに向け、メディア向けに公開取材を行った。場所は、所属レーベルであるワーナーミュージック・ジャパンの社内。音楽媒体に限らず、広くメディア関係者を集め、サンドイッチやフルーツ、お酒やコーヒーなどの飲み物、そして“ガラパゴス”な食べものである駄菓子などがふるまわれた。
前半には、水曜日のカンパネラ“3人目のメンバー”であるDir.F(ディレクター・エフ)による「これまでの振り返り」プレゼンコーナーが、後半にはコムアイとケンモチヒデフミによる新作『ガラパゴス』解説とトークセッション、そして質問コーナーが設けられた。
楽曲制作を手がけるケンモチヒデフミによると、『ガラパゴス』のテーマは「チルアウト、スピリチュアル、オーガニックサウンド」の3つ。これまでの水曜日のカンパネラの楽曲と比べると、BPMは遅めの曲が多く、歌詞にも明確な変化が見られる。アートワークも、これまでの作品のなかでもっともシンプル。日本武道館公演を成功させた2017年と比べると、その情報量の差は歴然としている。
このユニットが次のフェーズに移行しつつあることがよくわかる作品なわけだが、ここで「新作EP『ガラパゴス』最高っす! 特にこの部分が!」などとお伝えする前に、ひとつ問題提起をしたい。それは「水曜日のカンパネラ 名前は知っているけど そこまで詳しいわけではないんだよね問題」である。
水曜日のカンパネラ 知っているようで知らない人多い説
公開取材のなかでコムアイが「私たちは業界ウケはいいほうかなと思っているのですが」と冗談交じりに語っていたとおり、常に新しい領域に踏み込んでいるユニットなだけに、メディアでとりあげられる頻度は多い。そのことで「名前は知っている」「コムアイかわいい」「きっびっだ〜ん♪のやつたのしい」等のイメージは広く知られているが「そもそもどんなユニットなのか」を知らない方も多くいるのではないだろうか。
そこで今回ミーティアでは、公開取材に加えて、「水曜日のカンパネラ」発起人でありプロデュース&マネジメントを担当するDir.Fへのインタビューを敢行。3人の出会いから、最新作にいたるまでの歩みとこれからの展望を語ってもらった。
Text_Sotaro Yamada
Edit_Kenta Baba
水曜日のカンパネラとは?
水曜日のカンパネラは、コムアイ(主演、歌唱)、ケンモチヒデフミ(作曲、編曲)、Dir.F(それ以外すべて)の3人から構成されるユニット。
発起人はDir.F。まずはDir.Fとケンモチヒデフミが出会うわけだが、ふたりの出会いはまったくの偶然だった。ある日、Dir.Fがレコードショップでたまたま見つけたケンモチヒデフミのCD『Falliccia』などを視聴して気に入り購入。その後しばらくして、デザインフェスタというアート系のイベントにて、偶然ケンモチヒデフミと遭遇する。
「デザフェスにケンモチさんがいることは知らなかったんです。たまたま時間が空いて、行ったら、出展していた。それで声をかけました」(Dir.F)
Dir.Fがケンモチヒデフミと「一緒になにか面白いことをしたい」と思い、水曜日のカンパネラを結成。ふたりに加えて、さらに女性ボーカル3名を加えたユニットをはじめに構想していた。2人のボーカルが決まり、最後に決まった1人がコムアイだった。
「コムアイとは、とある映像作家のホームパーティーで知り合ったんです。参加者のうち、コムアイが唯一の学生だったこともあって目立ってはいました。面白かったのが、川崎から目黒までマウンテンバイクでやって来るという(笑)。しかもロングスカートで。その時点で興味を持っていろいろ話を聞いていったら、ピースボートに参加したり、地雷の撤去活動といった運動をしていたりと、世の中に何かを投げかけたいタイプの子なんだなとわかった。そういうパーソナリティーのボーカルを探していたし、見た目の雰囲気もイメージしていた女の子にぴったりだったので、“この子だ”と思いました。歌声はまったく聞いていなかったけど、声質に嫌な感じはなかったし、歌は練習すればうまくなるので」(Dir.F)
こうして水曜日のカンパネラはスタートした。今では東京でもっとも重要なカルチャーアイコンのひとつになったわけだが、メンバーでありながら半歩引いた立場であるDir.Fによると、水曜日のカンパネラには、これまでに大きく3つの転機があったという。
転機1:ボーカルが1人(コムアイ)になる
まずひとつは、3人ボーカルでスタートしながら、開始早々にコムアイ1人になってしまったこと。
「最初はもう少し2次元っぽい感じをイメージしていたんです。ライブをやらなくても売れれば良いかなあ、くらいの感覚で。さよならポニーテール、Perfume、相対性理論など、少しリアリティから離れているような世界観で、3人の女の子が水曜日に何かをやる。そういう企画ありきで動いていました。ただ、メンバーが固まってからは、やっぱりライブをやらずにYouTubeにアップしているだけでは広がっていかないと感じるようになってきて。コムアイの“有名になりたい”というキーワードもあったし、少しずつやり方を変えていったんですね。現在の水曜日のカンパネラのコンセプトは、ライブをするようになってから固まりはじめたと思います」(Dir.F)
(水曜日のカンパネラ『オズ』。これが初音源。この頃はボーカルが2人だった)
水曜日のカンパネラの音楽は、ジャンルで説明するのが難しい。オフィシャルサイトのプロフィールに該当する欄をクリックすると、ウィキペディアの「水曜日のカンパネラ」のページに飛ぶ。ウィキペディアによると、水曜日のカンパネラのジャンルは「J-POP、エレクトロニカ、ハウス・ミュージック、ヒップホップ、コミックソング」と書かれている(2018年5月時点)。
「ジャンルは変わっていっちゃうので、スタンスとしては、みんなが決めてくれればいいと思っています。各ライターの方に自由に決めていただいて、そのように書いてもらえれば(笑)。たとえばテクノだけやっていればテクノだと言えるけど、そういう曲ばかりでもないし。だから、ジャンルについて考えるのを放棄したんです。ジャンルを決めすぎていないからこそいろんな場所に行ける気もしていますね」(Dir.F)
転機2:『桃太郎』MVと初のテレビCM出演
(水曜日のカンパネラ『桃太郎』MV)
水曜日のカンパネラにとって、次の転機は2014年に『桃太郎』がヒットしたことだった。クセのありすぎる歌詞やアニメMV、「きっびっだ〜ん♪ きびきびだ〜ん♪」という忘れられないフレーズなどに中毒者続出。YouTubeでの再生数は2千万回を超え、現在でも水曜日のカンパネラと言えば『桃太郎』をイメージする人も多い。
さらには2015年に『ヤフオク!』のテレビCMにコムアイが出演。これを機に、コムアイというキャラクターがお茶の間に広がり、テレビをはじめとしたメディア出演も増えていった。
この頃の代表曲には『メデューサ』や『ラー』などがある。『桃太郎』しか聴いたことがなければ、試しにこれらの曲を聴いてみてほしい。“コミックソング”というレッテルからはほど遠い都会的なトラックにきっと驚くだろう。
(水曜日のカンパネラ『メデューサ』MV。この曲をベストソングに推すファンも多い)
(水曜日のカンパネラ『ラー』MV。日清『カレーメシ』とのタイアップであり、2016年のSPACE SHOWER MUSIC AWARDのBEST ART DIRECTION VIDEOにも選出)
そして2016年6月、ワーナーミュージック・ジャパンからEP『UMA』をリリースしてメジャーデビューする。
転機3:日本武道館公演
(水曜日のカンパネラ2017年3月8日・日本武道館公演〜八角宇宙〜「ユタ」「ネロ」「ユニコ」)
2017年2月には1stフルアルバム『SUPERMAN』をリリース。そして3月8日には初の日本武道館公演『八角宇宙』を開催。一万人以上を動員した武道館公演は、のちにDVD/ブルーレイ化もされた。
「コムアイ本人としては、この武道館公演がそれまでの活動を見直すきっかけになったようです。もう1回ゼロからスタートしたいと。それまでの自分が求めていたことはやり切ったという感覚なんだと思います。だからこそ違うことをやりたい気持ちになって、武道館以降は完全に別のモードに入っている。楽曲の方向性や作り方も変えて、コラボレーションを増やしたり、エンジニアを新しくしたり。チームとしても停滞したくはないので、これをきっかけに変わろうとしています。そこでどう変わるべきか、今模索しているところですね」(Dir.F)
その後も、東京競馬場での生配信ライブや海外のフェス出演(フランス、アメリカ)、栃木県日光市との共同企画で映画の無料上映会『名画ニッコウ座』の開催、映画『猫は抱くもの』の劇伴を担当するなど、多岐にわたる活動を継続中だ。
(水曜日のカンパネラ 東京遊駿『TIME TO PLAY』DIRECTOR’S CUT版)
こうした3つの転機を経て、2018年6月27日、メジャー2ndEP『ガラパゴス』をリリースする。
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