自分の気持ちに従っていたら自然とセルフマネジメントになっていた
――今は制作からライブまで、完全に自分1人でセルフマネジメントされてるんですよね。
番匠谷 : そうですね。でも助けてくれる方や協力してくれる方は徐々に増えていってます。
――そうなっていった経緯というのは?
番匠谷 : ワンマンライブを主催したり、ライブを繰り返していくうちに。自分が出来ることは自分でやった方が心が込もるし、聴いてくれてる人に伝わると思う。そういう気持ちでずっとやってきてたら、自然にこうなってました。
――会場を押さえたり、ブッキング、事務的なやりとり、調整といった部分も自分でされてるんですよね。すごいですね。
番匠谷 : すごくないですよ。
――自分でプロデュースやマネジメントをやってる感覚はあまりないんですか。
番匠谷 : はい。
――心地良いようにやっていたら、結果そうなっていったという感じ。
番匠谷 : そうです。直感で感じたことをやって、自分のタイミングで曲を作って。基本はそうじゃないと出来ないと思いますね。ただ、自分が必要だと思ったことはするから、“こうじゃないとあかん” “これじゃないとやりたくない”とかはないんですよ。もっといろんなことを知りたい。目標がないと頑張れないから、自分がこうなるためにこうしようって計画を立てるのが好きです。
――Twitterのライブ情報アカウントと、オフィシャルアカウント、どちらも管理されてるんですか?
番匠谷 : そうです。でも私、よく家に携帯忘れていくんですよ。
――そうなんですか(笑)。お母さんに手伝ってもらっている方もいらっしゃいますが…。
番匠谷 : あー、ないですないです。“音楽やりたいんやったらお金も自分で稼いで勝手にやれ”って感じやったんで。だからいろいろ調べて通信高校行って、バイトして、自分で頑張ろうって思ってたから、頼ろうと思ったことは全然なかったですね。
――でも応援はしてくれてるんですか?
番匠谷 : はい。間違ったり、ほんまに迷った時は教えてくれます。大事なとこだけちゃんと押さえて応援してくれる。ワンマンライブの時に物販手伝ってくれたり、“どう歌っていこう”って悩んだ時は一緒にライブに来てもらったりとか。普段からダメ出しばっかりされますけど。
――厳しいけどちゃんと後ろで見守ってくれている。
番匠谷 : 私が明るく元気で生きていける方法が歌なんやったら、歌を応援するし、それ以外でも応援するよって言ってくれてます。
――カッコいい。良いお母さんですね。
番匠谷 : ははは(笑)。
――福祉施設や小学校でも歌ったりと、活動の幅が広いですよね。それも自然とそうなっていったんですか?
番匠谷 : 地元の方が応援して下さって、施設に呼んでいただいたり、小学校は、友達のお母さんのつながりで毎年呼んでいたいたたり、です。
――活動スタイルは決めてるんですか?
番匠谷 : 全然決めてないです。ある意味今は、1個1個が勝負であり練習なんです。最近は曲作りや、自分にとっての土台を作りたいなと思うから、ライブをちょっと減らしてたり、その時期によって変えてたりします。
自分がどこまでいけるか知るために、いつかは東京に出たい
――大阪で活動することについて、どう思いますか?
番匠谷 : あったかいくて、ちょっと甘えちゃってるところもあるかもしれないです。毎回絶対ライブに来てくださる方とか、支えてくれる人がいるホームです。
――これからも大阪をフィールドに活動されるんですか?
番匠谷 : いつかは東京に出たい。自分にとって大阪がすごく大事なのは変わらないですけど、自分がどこまでいけるのか、知りたい。
――メジャーに行くことも考えている?
番匠谷 : はい。そのためにどうとかではないですけど、音楽やってるからには自分が1番高いとこ目指してないと、誰もついてきてくれないというか、応援してくださっている方への裏切りやと思うし。そういう意味で、目指してます。
カウンターのすぐそこには店主細井さん。
傷つくことがあっても、どんなことも今につながってる
――3月に発売されたミニアルバム『どんな今も』のレコーディングの思い出はありますか?
番匠谷 : 『キャンプのうた』という歌が入ってるんですけど、1番のワンフレーズを飛ばして歌うっていう大事件が起きて。入稿の前日くらいに気付いて、翌朝8時に京都まで2時間かけて行って、ワンフレーズだけ歌って、その流れで入稿して…大迷惑かけました。
――そんなことがあったんですね(笑)。
番匠谷 : ミーティアさんで公開してもらう『forget you』はめっちゃ考えて作った曲です。
――私この曲好きなんですよね。
番匠谷 : えっ、嬉しい! ありがとうございます。
――“君が大事にしてくれたことで自分を大事にできるようになった”っていう歌詞が素敵だなと。曲が出来た背景はありますか?
番匠谷 : 自分が変われたキッカケは、ほんまに自分のことを大事にしてもらってるっていう感覚を知ったとき。人と接することに臆病にならなくなったのも多分そのおかげかなと思います。周りの友達の話を聞いてても、自分を変えてくれたとか、大事だと思う存在って、あるんじゃないかなと思ったんですよね。だからそういう人を思い出して聴いてもらえたら嬉しいです。
――制作過程はどうでしたか?
番匠谷 : 一気に書くより、ちゃんとその時の気持ちを思い出して、一生懸命考えて書きました。
目の前の人に一生懸命歌えば、届く人がいる
――改めて3月27日のBIG CAT公演、振り返ってみてどうですか。
番匠谷 : その時の自分に出来ることは全部やったから、悔いはないんですけど、“もっとこういう曲やりたかったな”とか、“もっとこういう曲作れたらいいのに”って、頭で思ってることが出来なかったのはめちゃめちゃ悔しくて、自分からしたら、まだ土台にも立ててない感じです。
――端から見たらBIG CATワンマンをソールドさせたというので、大成功だと思うんですけど、満足はしてないと。
番匠谷 : してないですね。
――次のワンマンはどこを目指していますか?
番匠谷 : ワンマンは、どうしたらシンガーソングライターとしてステップを踏めるか、大きくなっていけるかと思ってやってたことなんです。次はワンマンというよりも、未完成の部分をどれだけ完成させられるか。たとえば、ボイトレを毎日めっちゃ頑張ったり、風邪ひかないように健康管理をしたり、シンガーソングライターとしての土台作りをしっかりしようという感じですね。
――今いろんな人から期待をされてる状況だと思うんですけど、ご自分ではどう感じてますか?
番匠谷 : えー、全然そんなことないですけど…たとえば場所が変わっても、誰から期待されてても、されてなくても根本は変わらないです。一生懸命届けたいと思って歌えば、届く人がきっといると思うんですよ。それは私が中学生の時に身をもって学んだことだから、芯だけは揺らがず、そういう思いでずっと歌っていきたいです。
――今後のビジョンや目標はありますか?
番匠谷 : こんなん言ったらちょっと恥ずかしいんですけど、昔からずっと頭の中に、大きい会場で歌ってるイメージがあるんですよ。
――大阪城ホールとか?
番匠谷 : うん。それぐらい大きくなっていきたい。そのために、小さいことを積み上げていくのが楽しい。だからいつか、自分のイメージを叶えたい。今応援してくれてる方が、大きいライブも見に来てくれて、その時も今と変わらず近くに感じられて、今より1人でも多く、誰かの気持ちを明るく出来たり、寄り添えるシンガーソングライターになりたいなと思います。
大阪から生まれた原石
インタビューを終えて、ホッとしたようにMole & Hosoi Coffeesの“無骨なモールショコラ”を口にした番匠谷(ちゃんとオレンジの皮が入っているのを見抜いていた)。18歳の少女の胸には、音楽への愛情と、確固たる覚悟と意志が静かに燃えていた。自分に正直にやりたいことをやる。とてもシンプルだが、それを実行に移すことの難しさは、皆がよく分かっている。だからこそ、ひたむきに歌を愛し、夢を追いかける彼女を応援したくなるのだろう。アーティストとしての才能もしっかりと兼ね備えているが、決して気取ることもない。Mole & Hosoi Coffeesの細井氏も、“1番やりたいのはメニューをちゃんとしたグレードで提供すること”で、そのために集中して調理できるよう、必要以上に喋らないように意識しているという。作品を生み出すという意味で、コーヒーを淹れること、料理することは、歌うことに等しいのかもしれない。ブレンドコーヒーを飲みながら、そんなことを思った。彼女の今後から、目が離せない。
無骨なモールショコラ ¥400
「オレンジの味がする!?」
店内ではお酒も楽しめる。こちらは自家製、ウイスキーにコーヒー豆をつけたもの。
細井さんは毎日蝶ネクタイをつけてお店に立っているそう。こちらは友人のデザイナーによる特注品の真鍮の蝶ネクタイ。
店内には「MOLE」モチーフのポスターや装飾が多く見られる。
2017年3月27日心斎橋BIGCATにて行われたワンマンライブ
「forget you」の映像を公開!
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