大阪・淀屋橋にある、芝川ビル。レトロ建築物として多くのファンに愛されるこのビルに、1人の少女がやってきた。少女の名は番匠谷紗衣(ばんじょうやさえ)。大阪在住の18歳、新進気鋭のシンガーソングライターである。高い歌唱力と熱のある楽曲が魅力で、業界の注目を集めている。14歳から活動を始めて約4年。今年3月には、セルフマネジメントにして、BIG CATでのワンマンライブをソールドアウトさせた実績をもつ。今回、喫茶店が好きだという彼女と共に、芝川ビルの地下に位置する「Mole & Hosoi Coffees」を訪れ、コーヒーを飲みながら、プロフィールから現在の音楽活動のこと、そしてこれからのビジョンについて語ってもらった。和気藹々とした雰囲気でスタートしたインタビューだったが、今後の活動について話を振った瞬間、真剣な眼差しに一変したのが印象的だった。
Photography_MAKO HAYASHI
Text_ERI KUBOTA
築90年の歴史を感じる喫茶店、Mole & Hosoi Coffees
南米マヤインカの装飾が施された石造りの階段を地下に降りると、大きな分厚い鉄の扉が見えてくる。実はこのMole & Hosoi Coffees、元金庫室なのだ。珍しそうに扉を眺める番匠谷。レトロビルに来たのは初めてのようだ。
東京でいう丸の内のようなビル群に佇む、どっしりとした外観
ドアをくぐると正面に看板が出ている
芝川ビルの中でも、Mole & Hosoi Coffeesがある地下は元金庫室ということもあって独特な雰囲気
重厚な金庫扉と、金網の張られた鉄格子をくぐると、迎えてくれるのは寡黙なマスター、細井立矢さん。カウンターのみの小さな店内は、随所に金庫室の名残が残る。元々カフェで働いていた細井さんが出店場所を探していた時に、この物件に出会い、2008年にオープンした。“Mole”は英語で“モグラ”という意味。“大人がくつろげる空間を作りたい”との想いで営業を開始し、今年で9年目。
マスターの細井立矢さん
店内に飾られたMole=モグラの絵
隣にはMole Galleryが併設され、作家による展示が行われる。置かれたインテリアや本、アート作品、店内に漂う雰囲気から、大切に作り上げ愛されてきた場所であることが感じられる。オリジナルブレンドコーヒー“SHIBAKAWA”(¥450)を飲みながら、インタビューを開始した。
この奥には展示のできるスペースが
かわいい顔してわんぱくだった子ども時代
――珈琲は好きですか?
番匠谷 : 好きです。前に珈琲屋さんでバイトしてたことがあって、それをキッカケにブラックを飲むようになりました。
――小さい頃はどんな子供でしたか?
番匠谷 : めっちゃわんぱくでしたね。木に登ってるか、自転車漕いでるかでした。あとドブに入ってタニシ捕まえてました(笑)。友達と“よっしゃ冒険いくぞ!”みたいな。
――初めて音楽に触れたのはいつですか?
番匠谷 : 幼稚園の時から歌が好きで、よく歌ってました。人前で初めて1人で歌ったのは小学2年生、親戚の結婚式の時。大塚愛さんの『さくらんぼ』を歌いました。ほんまに楽しかったんですよ。お母さんが小5の時にボイトレを習わせてくれて。歌を練習し始めたのはそこからです。
ギターを手にした中学時代
――14歳から活動を始められたんですよね。
番匠谷 : はい、おばあちゃんちにあったギターを持ち出して、中2くらいから弾き始めました。誰か1人でもいいから、歌を聴いてもらいたいと思うようになったんです
――それで、路上ライブをやろうと?
番匠谷 : はい。ほんまに家で1人で歌ってるだけやったから、“誰かに聴いてもらいたい、じゃあどうしたらいいんやろう。外で歌ってみたら聴いてくれるかも。”っていう感じです(笑)。
カウンターから見える風景。
――大体どのくらいのペースでされてたんですか?
番匠谷 : あんまり決まってなかったですね。歌える時は歌って。ライブハウスのオーディションにも行ったりして、その時やれることをやってた感じです。
――路上ライブは好きですか?
番匠谷 : 路上ライブってびっくりするぐらい怖いんですよ。でも歌い出したら楽しくて。誰かが足を止めて聴いてくれたり、嬉しい言葉もらえたり、目に見えて出会いがあるから好きです。
――歌うことが救いになっていったんですね。
番匠谷 : そう、支えでした。
濃厚なクロックムッシュ
彼女の言葉からは、歌が好きだ、という気持ちが強く伝わってくる。一息つきましょうと運ばれてきたのは、Mole & Hosoi Coffees特製のクロックムッシュ。ライ麦パンにベシャメルソースを塗ったハムが挟まれていて、見た目も美しい。
特製クロックムッシュ ¥550
番匠谷も、“わ〜美味しそう!”と嬉しそうな声を上げる。“おなかがすいたら音程がとれなくなる”という、素直でかわいい一面もある彼女。自身でも料理をするが、“それは女子力じゃない”と言い切るのがおもしろいところだ。
元気に“いただきまーす!”とパンを口に入れる。“んー! 美味しい! 口に入れた瞬間美味しいのがすぐきました。チーズが濃い! こんなにチーズの味を感じたのは生まれて初めてです”と食レポ(?)もしてくれた。
プロになるためやり遂げたワンマンライブ
――本格的に歌手になろうと思ったのは、いつ頃ですか?
番匠谷 : 中学3年生の時に、テレビのカラオケ番組に出演させていただいたんですよ。その番組に出演できたことで初めて聴いてくれる人ができた。自分の歌を認めてくれる存在が出来ました。そこで初めて“頑張ろう”って思えました。
シンガーソングライターに憧れてたから、14歳の頃から徐々に曲作りを始めてライブに出ていました。でもその時はライブに出ても、“カラオケ番組の子”っていうふうに見られている気がして、自分の中で葛藤があって。だから、シンガーソングライターとして認められたくて、ワンマンライブをしようと決めました。
初めてのワンマンライブは高校2年生のとき。約1年間、必死に曲作りやライブを頑張った時間がすごく楽しかった。そのワンマンをやり遂げてからプロになりたいと思うようになりました。
――初めて曲を作った時のことは覚えてますか?
番匠谷 : めっちゃ覚えてます。初めて作ったのは『君へ』なんですけど、友達が悩んでいた時に、聴いてる間だけでも優しい気持ちになれたり、少しでも嫌なことを忘れられるような曲を作りたいと思って書きました。
――曲はスムーズに書ける方ですか?
番匠谷 : 作れる時は一気に出来ることが多いですね。曲と歌詞は大体同時で、ギターから入って、鼻歌歌いながら、浮かぶ歌詞を書き出して調整していったり。スムーズに出来る時の方が、自分的には“出来た”っていう感覚があって、そのままライブで歌ったりしますね。
――曲作りはどういうふうにされてますか?
番匠谷 : メロディーと歌詞は常に書き溜めてるんですよ。“曲作ろう”ってなった時や、パッと思いついた時に、普段書き出してるものが集大成になったり、“前に浮かんだあの感じで書きたい”ってイメージして書いたり、です。
――紗衣さんの出身は泉佐野、海の見える街ですね。海見ながら曲作りしますか?
番匠谷 : しないですね。メロディー浮かんだりはするんですけど、海見て、リフレッシュして、帰ってから曲作りします。自分にとって海は大事です。
18歳のリアル
――プライベートにも少し触れたいのですが、普段はどういうところで遊ぶんですか?
番匠谷 : プリクラを撮ったり、映画を見たり、ユニバーサルスタジオジャパンに行ったりします。
――カラオケとか行きますか?
番匠谷 : あんまり行かないです。でも歌をやってる友達とお互い“これや!”っていうバラードを歌いあって、一緒に泣くっていう会はたまに開きます(笑)。
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