2019年に新譜を出し、ツアーをまわることの意味
THE YELLOW MONKEYが、4月にリリースした実に19年ぶりとなるアルバム『9999』を携えて行っているツアー『THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-』。そのさいたまスーパーアリーナ公演・2日目を観た。今回のツアーは各公演ごとにトランプのマーク4種類のいずれかが割り振られ、そのマークごとにセットリストなどが異なるという仕掛けで、この日は「ハート」だった。まだツアーは続くため、以下のテキストにおいては曲順や演出の詳細は伏せるが、ある程度のネタバレは含まれるのでご了承を。
Photography_Megumi Suzuki
Text_Taiyo Kazama
先にも触れたとおり、実に19年ぶりのアルバムである『9999』。19年前には、いまシーンを賑わすバンドの多くがまだキャリアをスタートさせてすらいなかったと考えれば、THE YELLOW MONKEYが2019年にこの規模の動員でツアーをしていること自体が凄まじいし感慨深いが、今回はとにかく歓迎ムードに満ちていた再集結直後のツアーの頃とはちょっと事情が異なる。新作アルバムを出したということはつまり、現在進行形のロックバンドとして、あの頃は存在しなかった20代や30代のバンドと肩を並べたり胸を貸したりするということだからだ。
だからこそ、『9999』がどのような内容になるかは興味深かった。懐かしい感触になるのか、まったくの新機軸を打ち出すのか。間が空いたゆえの選択の難しさがあったことは想像に難くないが、結果として彼らが選んだのは、自らの音楽性における原点であり核心。「ロックンロールを鳴らす」ことだった。『9999』がそういう性質の作品である以上、曲ごとのサウンドのディテール云々はさておき、今回のツアーでロックンロール・バンドらしいストレートで痛快なステージが展開されることになったのは必然であり、それこそがTHE YELLOW MONKEYというバンドを動かす「ハート」=心臓部分といえるだろう。
絶妙な音作りとロックバンド然としたパフォーマンス
再集結後に初めて世に出た「ALRIGHT」以降のシングル曲や配信曲、アルバム曲に関しても、あくまで4人の音、歌とギターとベースとドラムが中心に据えられた、無骨でタイトでミニマルな、いかにもロックバンド然とした印象の曲が多い。けれど、決してそれだけでは終わらせないTHE YELLOW MONKEYならではのマジカルな音世界が、ライブ冒頭から次々に展開されていった。まず驚かされたのが、吉井和哉のボーカルが前に出た音作りをしながら、かといって楽器の音が一歩引いたりはせず、むしろそれぞれの楽器が何をやっているかが手に取るようにわかるという、絶妙なバランスだ。ツアーをまわりながらの試行錯誤も当然あっただろうが、前提として百戦錬磨な4人の経験とプレイヤビリティというガッチリとした土台がなせる業。さらに照明や特効やメンバーそれぞれの一挙手一投足が効果的なプラスアルファをもたらし、観る者を駆り立てていく。
「最高のロックンロールを、最新のTHE YELLOW MONKEYを、最後まで堪能してください!」
そう叫んだ吉井は、花道で寝っ転がったりアリーナまで降りたりと、自由度の高いパフォーマンス。ヒーセ(廣瀬洋一)がフリンジを翻しながら重厚なベースラインを奏で、大きく両足を広げて後ろに重心を預けながら、華も実もあるフレーズを繰り出すエマ(菊地英昭)。アニー(菊地英二)の叩き出すビートは揺るぎなく強靭。そんな個々のプレイや、ふとした瞬間にじゃれあったりする様子を楽しむうち、大ヒット曲や懐かしい曲も交えながら、『9999』の収録曲がどんどん披露されていった。セクシーでどこかコミカルで歌謡っぽさもある「Balloon Balloon」にゴキゲンな調子の「Tiita Tiita」。「Changes Far Away」や「Horizon」での吉井の語りかけるようなハートフルな歌。旧来のイエモン印といえる曲と、年を重ねたことで味わいを増すタイプの曲のどちらもグッときたし、観客からも大きなリアクションで受け止められていた。
花道が2本ある以外は、全体的にライブハウスの延長線上ともいえる造りのセットで大掛かりな仕掛けもなかったが、後半では、“ショウ”と呼ぶのが相応しい派手さも忘れない。バキッとした照明を身に受け、マイクスタンドを振り回したりステップを踏んだり花道でエマと絡んだりしながら、アドリブを詰め込んでフリーキーに歌う吉井は、なんだかミック・ジャガーみたいだ。シンプルなロックを中核に据えながらも、ハードなアプローチあり、歌謡テイストあり、エロさあり、メロウなバラードありと、いずれの方向の楽曲からも、ちゃんとTHE YELLOW MONKEYらしさが濃厚に匂い立つ。
「日本にまだちゃんと在っていいバンド」の行く道は
「再集結して、アルバムを出したTHE YELLOW MONKEYが、一回り違ったように見えませんかね? 僕はそう思っているんですけど」
終盤、吉井の言葉に盛大な歓声が起きた。そしてこう続ける。
「成長、というのが適切かはわからないけど、昔と違う部分も変わっていない部分もあって。でも、日本にまだちゃんと在っていいバンドなんじゃないかと思います」
この日、何より印象的だったのは、4人がとにかく楽しそうに、自信たっぷりに演奏していたことだった。それは多分、ベテランの風格とか余裕のようなニュアンスとは違っていて、どちらかというと若手のバンドが大きな会場に挑んでそれを完遂したときみたいな、みずみずしい衝動や達成感を含んだものだったように思う。長大なブランクを経てリリースした新作を世に出し、それをライブの場で演奏してリアクションを受け、それを燃料にしてまた次なるライブや創作に挑むという、とてもシンプルな好循環の中に今の彼らはいるのではないだろうか。
THE YELLOW MONKEYは、このあとも更新を重ねながらツアーを続けていくのだろう。この日の終演後には「30」と書かれたロゴと意味深なカウントダウンが映し出されていた。その意味するところはまだ分からないが、次作が世に出るまでに10何年もかかったりはしないはずだし、一度アルバムを出したことでブランクを埋めたからには、次の一手がどんな方向に突き抜けても不思議ではない。『9999』にスプーン一杯分の“何か”を足す、という意味を込めた『GRATEFUL SPOONFUL』ツアーを終え10000になった完全体のTHE YELLOW MONKEYは、果たして何をみせてくれるのだろうか。
THE YELLOW MONKEY
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