メリハリの効いたセットリスト
今回のライブでは、曲と曲のあいだで照明を落としきらないという演出(?)も印象的だった。ステージ上の5人は、その度に明度を落とした赤色や青色の光で幽かに照らされ、闇に浮かび上がるように姿が見える。そのせいで、ステージもフロアにも互いにある種の緊張感が保たれていた。
しかしMCになるとその雰囲気は一気にほどけて柔らかくなる。
「ちょっと待って、楽しいんだが!」
という大胡田の言葉にフロアは大湧き。さらには大胡田が見た「近所の案山子の話」のとんでもないユーモアにフロアから拍手が起き、メンバーも笑う。
ライブ中盤は『resonance』でスタート。『トーキョー・シティ・アンダーグラウンド』でさらにフロアの熱をあげたところで、『煙』『くだらないことばかり』『waltz』でテンポを落として雰囲気を変える。
先に述べた通り、最近のパスピエは楽曲の独自性や変態的なまでに高度な演奏について語られることが多かったわけだが、そもそも「歌が良い」という要素を忘れてはいけないだろう。大胡田なつきのこの声、この歌があってこそ、彼らは他の誰とも似ていない唯一無二のバンドであり続けられる。マイクを両手で握って歌う大胡田の美しい歌声が会場に響き渡ると、それまで手をあげて身体を揺らしていた多くのオーディエンスは、その美しい歌声にじっと聴き入った。
『つくり囃子』『△』『R138』『ハイパーリアリスト』と一気に続け、露崎の渋いベースソロや佐藤の爆発的なドラムなど、クライマックスに向けて会場の熱をあげていく。『オレンジ』ではステージをオレンジ色の照明が照らし、フロア天井のミラーボールが光を乱反射させ、Zepp Tokyoが巨大なダンスフロアと化した。
本編ラストは、アルバムでもラストに置かれた『始まりはいつも』。「いつまでだって別枠でいようね」という箇所が強調して歌われていたことや、その後の「いつまでも繋がっててくれー!」という大胡田の言葉には、バンドのこれから先10年が見えた気がした。
間髪なく手拍子が起きアンコール。再びステージに姿を現した彼らに対し、『ネオンと虎』をともなったツアー『カムフラージュ』で生まれた「良い女ー!」という掛け声がフロアのあちこちからあがるなか、2020年2月16日に東京・昭和女子大学人見記念講堂で結成10周年記念公演『十周年特別記念公演“EYE(いわい)”』の開催を発表。ゲストを呼ぶことも考えているそうで、これまでにはない特別なライブが見られそうだ。
アンコールは『トキノワ』と『恐るべき真実』。ポップかつ壮大な2曲で、フィナーレにふさわしいカタルシスを演出した。
ライブはこれで終わりでエンディングSEが流れ出したが、ほとんどのオーディエンスが帰ろうとしない。再びアンコールを求める手拍子が起き、ダブルアンコールへ。「最後って言ったのに!」という大胡田の言葉に、あちこちから「ありがとー!」という声があがった。最後の最後は『ギブとテイク』でお祭り騒ぎ。「だって勝負はまだこれからよ」という歌詞が、10周年を迎えたパスピエの姿勢を象徴しているようだった。
「他の誰でもないあなた自身であること」がもっともユーモラス
ロックバンドは一般的に、リーダーやボーカルに注目が集まることが多い。しかし現在のパスピエは、曲ごと、あるいはフレーズごとに目まぐるしく主役が入れ替わる。全員が主役になれることがこのバンドの大きな強みであることは間違いない。本ツアーでは、曲ごとに「何を(誰を)際立たせたいのか」が明確なセットリストが組まれていた。その結果、ライブ全体に強弱と陰影が生まれ、ただ盛り上がるだけではなく、ただ聴かせるだけもない、このバンドの幅広さを印象付けるライブに仕上がっていた。
最後に、先日リリースされたアルバムのタイトルは『more humor』、それにともなったツアーのタイトルは『more You more』。この微妙な言葉の変換について考えたい。これは単なる言葉遊びだろうか? いや、何かメッセージが込められていると解釈した方が面白いだろう。ではどんなメッセージか。
第1には「人生にはユーモアが必要」ということ。そして第2には、そのユーモアを得る方法。more humor(もっとユーモアを)はmore you more(もっとあなたを)で実現する、すなわち、「他の誰でもないあなた自身であること」がもっともユーモラスなのだ、という含意があったのではないだろうか。
本ツアーでパスピエは、彼ら自身が他の誰にも似ていないパスピエでしかありえない音楽と演奏をすることによって、このメッセージを体現した。そんなふうに見ることもできるのではないか。それがこの10年をかけてたどり着いた彼らなりの答えである、という仮説を立ててみることもできる。
そしてその仮説はきっと、『十周年特別記念公演“EYE(いわい)”』で検証することができるのだろう。今から楽しみだ。
セットリスト
パスピエ全国ツアーファイナル『パスピエ TOUR 2019“more You more”』
7月15日(月)東京 Zepp Tokyo
1.だ
2.術中ハック
3.音の鳴る方へ
4.BTB
5.(dis)communication
6.ユモレスク
7.スーパーカー
8.グラフィティー
9.電波ジャック
10.とおりゃんせ
11.ONE
12.resonance
13.トーキョー・シティ・アンダーグラウンド
14.煙
15.くだらないことばかり
16.waltz
17.つくり囃子
18.△
19.R138
20.ハイパーリアリスト
21.オレンジ
22.始まりはいつも
En 1.トキノワ
En 2.恐るべき真実
WEn 1.ギブとテイク
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