福永的『ピンポン』推しゼリフBEST3
事前に用意してきた、推しゼリフが多すぎて、なかなかBEST3を決められない……。
推しセリフ1
ペコ「スマイルが呼んでんよ」
(第45話「学園熱血スポーツ根性物語」より)
復活したペコは、急激なトレーニングの代償として膝を痛めます。そうしてボロボロになりながらベスト4まで勝ち上がっていく。まわりは怪我の具合を心配してペコの準決勝出場を止めようとします。その時にペコが言うセリフがこれ。
本当に涙してしまうシーンです。スマイルは、かつてのカリスマ性を持ったペコをずっと待っていた。きっと、彼はペコに自分のことを助けてほしかったんですよね。
膝を痛めて試合に臨むというのは、かつてバタフライジョーが経験したのと同じ状況なんです。そこと重ね合わせながら、でもスマイルは決して手を抜かず、かつペコの膝に向かって打つわけではない。松本大洋さんが本当に一人ひとりのキャラクターを愛していることが伝わってきます。
推しセリフ2
ドラゴン「恨むか? 私を……」
アクマ「同情してますよ」
(第43話「一葉落ちて天下の秋を知る」より)
試合前、トイレにこもるドラゴンと、扉越しに話すアクマの会話。
ドラゴンにも類まれなる才能があります。なおかつ努力を怠らない。だけど、彼は卓球が好きかどうか自分でわかっていないんです。重圧を背負い、名誉のために戦い続けて、絶対に誰にも負けられない状況でプレイし続けている。卓球に縛られているんですね。
そんなドラゴンの心情をアクマは理解し、同情し、そうして「少し泣く」んですね……。
このやりとりが、ペコとドラゴンの試合のシーンにつながっていきます。
『ピンポン』のピークは、ペコとドラゴンの戦いのシーンだと思っています。ドラゴンはペコとの戦いで、卓球の楽しさに気付きます。そして負けることで解放され、ペコに対して感謝の気持ちさえ抱くんです。これは深いですよね……。
推しセリフ3
ペコ「ビバッ!」
(第52話「PM3:30〜4:00」より)
物語を通していろんな苦労や努力を重ね、ついにペコとスマイルが決勝戦で再会するシーン。
2人の再会をためにためておいて、ようやく終着したクライマックスで、ペコの第一声が「ビバッ!」なんですよ。ものすごくさらっとしてる。この感じは松本大洋さんにしか描けないと思います。
僕はその「ビバッ!」にすごくペコらしさを感じているから好きなのかもしれません。もしかしたら少し自分と似てるのかも。小学生の頃とか中学生の頃って、ケンカした相手や疎遠になってしまった友達と久しぶりに絡む時、まっすぐ謝ったり、「また仲良くしようよ」って言ったり、素直に仲直りできなかったですよね?ペコはこのシーンで、それまでまるで何もなかったかのように「ビバッ!」とスマイルに話しかけて、スマイルは「遅いよ、ペコ」と普段どおりに返す。そして、そのまま2人はあの頃の2人に戻っていく。皆さん、なんかこんな経験ありません?笑
僕はここにリアリティと胸が熱くなるほどの少年さを感じます。
ラストシーンの解釈:スマイルは卓球に何を求めていたか?
物語のラストでは、各キャラクターの数年後の姿が明かされます。
スマイルは大学生になっていて、小学校の先生を目指しています。選手としては引退しているんですね。これは感慨深いラストだと思います。冒頭で「自分には向いてない」と言っていたことをラストでやっているんです。
たとえば、選手を引退せずにプロを目指すというラストもありえたかもしれません。でも、スマイルは卓球自体に喜びを求めていたわけではなかったと思うんです。では何を求めていたか? それは、ペコと遊ぶこと。卓球を通していちばんカッコ良いペコを見ること。ペコと本気でプレーすることに喜びを見出していたんです。
スマイルはとってはきっと、卓球というスポーツそのものに意味があるわけではなかった。だからこそ部活では言われた練習をやっていただけだったし、才能を求めていたわけでもなかった。
そしてこのことは、この作品のキーフレーズでもある「僕の血は鉄の味がする」の意味ともつながってきます。アニメ版ではかなりフォーカスされている箇所ですが、スマイルは子供の頃、イジメを受けていました。決して笑わないことから「ロボットみたいだ」と言われ、掃除用具入れの中に避難するような少年でした。そんな状況から自分を救ってくれたのがペコだった。
ペコが「血って鉄の味がするんだぜ」と教えてくれたことで、スマイルは、自分もみんなと同じ人間であることを理解するんです。この言葉は、スマイルにとって大きな助けだったと思います。自分が人間であることの拠り所となる言葉です。
アニメ版もおすすめ
漫画・アニメ・実写すべてが成功しているので、未見の方にどれをおすすめすべきか迷うけど、多くの人に受け入れられるのは、もしかしたらアニメ版かなという気がします。
本当に原作のことを考え抜いてつくられた素晴らしいアニメで、すごく漫画に忠実、なおかつ原作では描ききれなかった部分が追加されているので、一人ひとりのキャラクターがより際立っています。非常にクオリティが高く、制作者たちの深い愛を感じます。
音楽も素晴らしいんです。まずメレンゲのエンディングテーマが良い。リフは『YUMEGIWA LAST BOY』(SUPERCARのシングル。映画版『ピンポン』の主題歌でもある)のオマージュになっているという話を聞いたことがありますが、そういうところも素敵ですよね。本当に『ピンポン』を愛している人たちがつくっているという感じがする。
メレンゲ『僕らについて』MV
もちろん映画版から入るのもアリです。特にアクマを演じた大倉孝二さんはすごいです。漫画からそのまま出てきたんじゃないかってくらい似てますし。漫画は読んだけど映画は観ていない方、ぜひ観てください。あまりに似すぎていて笑っちゃうと思います(笑)。
ただ、ひとつ言うなら映画版はコン・ウェンガがあまりにも光を浴びなさすぎてちょっとかわいそうなんですけどね……。
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