知らなかった東京が、まだまだたくさんある
“Music meets city culture” を掲げるミーティアですが、シティカルチャーについて調べたり、出かけたり、取材を重ねるうちにひとつ気づいたことがあるのです。
東京って広い
東京生活の年数が増えるほど、わりと行き来する街は固定されてきて、その街での暮らしも居心地良くなっていくものです。
ただしいざ視野を広げてみると、一度も訪れたことのないエリアや駅、ひいては利用したことのない路線がいくつもあることに気付きます。
気づきはするものの「行ってみようかな」とか「ここに引っ越してみたいな」とか決定的な揺さぶりをかけられる機会ってなかなかないです。
〜23区外への誘い〜君は『たまら・び』を読んだことがあるか?
しかし、僕らはとある1冊の雑誌に出会ってしまったのです。
いまの生活圏内が東京のすべてだ、と錯覚しがちな脳に「東京ってマジで広いし、いろいろある」ことを知らしめ、視野をグングンに広げてくれる決定打マガジン。
『たまら・び』vol.100記念号「多摩ってなんだ?」特集
[企画]多摩信用金庫
[発行所]株式会社多摩情報メディア
[編集・発売]株式会社けやき出版
東京の西の郊外、23区外である多摩エリアにフォーカスした雑誌『たまら・び』。これまでに発行した号数は100号を越えていて、20年以上も続いているロングセラー媒体。
2〜3冊ほど手に入れて目を通したところ、東京の話なのに、知らないことが盛りだくさん。
東京のなかでは、ベットタウン、ニュータウンと括られるエリアですが、都内とほどよい距離があるからこそ育まれている独自の文化が、ページをめくるたびに広がっていました。
なかでも印象的だったのは、多摩地域に暮らす山崎ナオコーラさんの「天国」と題したコラム。
山崎ナオコーラさんは、20代で独身の頃は上昇志向と共に都心へ近づき、西新宿に暮らしたのち吉祥寺に移ります。
結婚を機に、当初は家賃を抑えるべく吉祥寺からさらに西の多摩エリアへ引っ越し、どちらかといえば「お金がないから、仕方なく田舎に引っ込んだ」という消極的な心だったものが、暮らしはじめてみれば、都心とのほど良い距離感や自然や文化のほど良さ、暮らしやすさに惹かれていき、時代の変化も後押しして、多摩でずっと暮らしていきたいとの心境の変化が綴られていました。
詳しくはぜひ本誌を読んでいただいきたいのですが、この文章が、30代を目前とする男としては非常に刺さりました。
多摩エリア、今後結婚や子育てを視野に入れると、居住地としても魅力的なのでは…!?
そんな多摩について知りたい!詳しくなりたい!ということで、『たまら・び』編集部のおふたりに、話を伺いました。
『たまら・び』をつくる編集部の中心メンバー、松岡さん(写真左)と野村さん(写真右)。
――ーお忙しい時期に、突然のご依頼ですみません!
松岡 : いえ、ちょうど入稿が終わったタイミングだったので落ち着いていたんです。
(※取材は2018年12月中旬に行われました)――雑誌を読んでいて、これまで知らなかった多摩エリアがとても魅力的だと感じました。
松岡 : ありがとうございます。
――そして、『たまら・び』で紹介されているような西東京のポテンシャルに気づいている人は案外少ないのではないか?ということで、僭越ながら多摩エリアに関する入門編として今回インタビューをオファーさせていただきました。
松岡 : うまくお話できるかどうか...! 普段は取材をする立場なので逆に緊張しますね。
(今回のインタビューは国立駅前の「ロージナ茶房」で行われました。かの忌野清志郎も通っていたという名喫茶店で、取材に同席した編集長は興奮のあまり取材開始直前に名物のカレーをオーダー。3分で完食したものの汗だくになっていました)
多摩エリアに根ざした出版社が20年以上にわたり制作・発行している『たまら・び』。
――はじめて手にとった『たまら・び』が100号目だったのですが、地域に関する雑誌でここまで続くものってなかなかないですよね。
松岡 : そうですね。通算20年以上続いている雑誌なのですが、編集部や中の人間は代替わりで入れ替わっていて、制作スタイルも特集するエリアの市民の方々と一緒につくっていた時期があったりさまざまだったようです。
記念すべき1号目の「TAMAら・び」。発行は1997年。TAMA表記がアルファベットである。
――『たまら・び』を制作している編集部の母体は出版社なのでしょうか?
松岡 : はい。けやき出版といって、多摩にまつわる出版事業を行っている会社です。
『たまら・び』だけでなく、個人の自費出版物から、まちにまつわる本などをつくっています。
たとえば…と紹介いただいたのが、青梅の映画看板師の作品を記録した写真集『板観さん』。
かつては3つの映画館があった青梅のまちで、16歳から映画看板師として活躍してきた久保板観(くぼ ばんかん)さん。1994年からは、地元商店街活性化のために新たに描き下ろした看板が街中を彩った。
板観さんはこの写真集が完成した半年後に脳梗塞により他界。まちなかの看板は徐々に数を減らしつつあるが、写真集をひらけば板観さんがつくりあげた町の景観を眺めることができる。
地方と都心のいいとこどり。
――まず多摩エリアの地理的な特徴について伺いたいのですが、どこからどこまでが多摩なのでしょうか?
松岡 : ざっくりいうと、武蔵野市に入る吉祥寺から西の、奥多摩にいたるまでの間にある30の市町村のことを指しています。
――暮らしている方も「ここが多摩エリア」的な意識はあるのでしょうか。
松岡 : 「多摩市」や「西多摩郡」など、地名に“多摩”が含まれる地域もありますが、どこからどこまでが多摩エリアというのは、あまり認識せずに暮らしている方も多いと思います。
創刊以来、99号まではまちや地域ごとの特集が組まれており、
現在はエリアを絞らずに全域でのテーマ特集スタイルになっている。
――多摩エリアとは、◯◯である!みたいなのはなかなか言い切れないですよね。
松岡 : エリアも広いので、ひとくくりに言い表すのはなかなか難しいですね。人口規模にすると400万人が暮らすエリアなので。
――「とばなれ」(けやき出版が運営するウェブマガジン)に載っていた文章は、多摩エリアをよく言い表しているのかなと思いました。
「郊外」、「ベッドタウン」、「自然豊か(東京にしては)」
などのイメージを持つ人が多い地域かと思います。
そのイメージも間違いではなく、むしろ正解ですが、
まちがあれば人がいて、その景色や表情もその数だけ様々です。
都心より面白いことで溢れてる、は言い過ぎですが
こっちはこっちで結構、かなり、面白い。
「ローカル」とも「TOKYO」とも少し違う、
真ん中から少しはなれた人、場所、風景、できればその空気や気配。
そんな情報を、東京のエアポケットのようなところから皆さんにお届けできればと思っています。
松岡 : おお、そうですか。
――ここの文面にある“「ローカル」とも「TOKYO」とも少し違う”のはどういった部分でしょうか?
松岡 : 表面的に見える部分ではないのですが、人の気質として感じることが多いです。僕は岐阜の山の中の出身なんですけど、そこと比べてみたときに、奥多摩や青梅も山ですけど、暮らしている人が“東京の人”なんですよ。
――というのは?
松岡 : 良い意味で人に慣れてるというか、ほどよいドライさがあるように感じます。これがほんとに田舎になると、同じように自然に囲まれている中でも、人が閉じていたりコミュニケーションのとり方が変わるんです。
松岡 : 多摩エリアにも地方に似た風景はありますけど、新宿など都心といつでも行き来できる距離で生活している。そこで生まれ育った人っていうのはやっぱり“東京の人”だなぁっていう感覚はあります。
野村 : はぁ〜、なるほど。
――野村さんとしても意外な捉え方ですか?
野村 : 私は生まれも育ちも多摩エリアの日野市なので、客観視がむずかしい部分はありますね。言われてみればまあそうなのかもな、と思います。
松岡 : お店などの取材をしていても、多摩エリアを選んでお店を開いた方もいれば、もともとこのまちで生まれ育ったからここで商売をしているだけ、といった淡々とした方も、どちらもいますね。
野村 : 都心でバリバリと働きたいわけでもなくて、かといって地方に移住して、山や川など自然のなかでだけで暮らしたいわけでもない。どちらにも片足ずつ立ちつつ、ほど良い距離感を自分で保てるというのが多摩エリアなのかなとも思います。単純に郊外のほうが家賃安くて広い場所が借りやすいということもあったり。
距離があるから生まれる、町ごとの個性。
――他にも都心部と多摩エリアの違いはありますか?
松岡 : 取材で各地を巡っていると、駅やまちごとの特色はハッキリしているような印象があります。というのも、中央線も西荻あたりまではわりと駅同士が隣接していて、歩けば15分~20分とかで行き来できたりしますよね。
――そうですね。移動はなんだかんだ歩くことが多いです。
松岡 : 多摩エリアに関しては、駅と駅がけっこう離れているようなところも多くて、がんばって歩いていける距離ではなかったりするんです。そうすると、街をまたいでのはしご酒とかはできなくて、まちごとに完結しているというか…。その結果、ひと駅ちがうだけで、空気感や文化がちがうような印象を受けるのかもしれません。
『たまら・び』vol.100記念号「多摩ってなんだ?」特集 見開き
――ほ〜なるほど。面白いですね。地域ごとの特色はどのように違いますか?
野村 : 中央線で都心から下ってくると、今いる国立あたりまではいわゆる中央線の雰囲気で、立川から、西多摩と言われる青梅線の方に入るとどんどん風景が変わってきますね。山がぐんと近くなってくる。南の稲城市から八王子市にかけては多摩ニュータウンがひろがっていて、また雰囲気が全然違います。
松岡 : 北のほうもまた、西とも南とも違って独特ですね。池袋方面に通勤してる人の生活圏内でもあって、田舎っぽくはないのですが中央線の雰囲気ともまた違う。西武線など線路が入り乱れていたりして、乗り換えの時に歩く飲屋の連なる通りがあったりとか、面白いところではあります。
――なんとなくイメージが湧いてきました。
松岡 : 中央線と西武線では別の文化圏が形成されている印象ですね。
――各々の町が独立しているからこその特徴とかって何かありますか?
松岡 : いい食堂、喫茶店、酒場が多いですね。どのまちにも、少なくともひとつずつは代表的なお店があるような気がします。
『気になる喫茶店』号(vol.99)の巻頭では「でんえん」や「ほんやら洞」などレジェンド的喫茶店の店主インタビューを掲載
野村 : 23区内だと数えきれないほどお店があると思うんですけど、多摩エリアは都心に比べて選択肢が少ないからこそ、自分にとっていいお店というのが見つけやすいのかもしれないですね。
――それらのいいお店の共通点って何かありますか?
野村 : ほとんどは個人店ですね。店主の人柄というか、カラーが色濃く出ているとか。家族何世代かでやっていたり、建物の雰囲気が良かったり…あと私たちの好みなんですけど、年季の入ったお店が多いかも。
松岡 : わりと好みが偏ってます。いまの「たまら・び」も編集部の好みがやはり反映されているので、多摩を代表して!的なことは言えないですね…。
――いえいえ、ビバ偏愛!です。
暮らしに溶け込む。新旧が入り交じる。
――予想はしていましたが、お話を聞けばきくほど多摩をめぐりたくなってきました。
松岡 : 最新号の表紙になっている小金井の「丸田ストアー」も面白いですよ。
松岡 : 昔ながらの集合店舗で、ずっと古くからやっているお肉屋さんや惣菜屋さんがありつつ、閉まっていた店舗で新しい世代が珈琲屋さんをはじめたりしていて、新旧がいい具合に混在しているんです。駅からは遠いんですけど、人が集っている印象がありますね。
――ほんとだ、武蔵小金井駅徒歩25分、と書いてあります。
野村 : それでもいつも賑わっていますね。イートインスペースで常連のおじいちゃんがコーヒーを飲んでいたり、近所の小学生も毎日のように遊びにきたり。地域の日常の風景になっているんだろうなあと、多摩らしさを感じる場所のひとつですね。
温泉、図書館、山、湖、団地。
――またこの最新号のテーマ「多摩的休息」も気になります。
野村 : この号で紹介していますが、多摩エリアはいい図書館が多いです。武蔵境にある武蔵野プレイスや、個人的には日野市立中央図書館が多摩的休息スポットです。歴史のある建物も周囲の環境も落ち着くんです。
市民のための図書館でありつづけるために先駆的な取り組みを数々行い、現在の公共図書館の先駆け的な存在となった日野市立中央図書館。
他にも、複合機能施設「武蔵野プレイス」や「立川まんがぱーく」など近年新たにできた図書スポットも多摩エリアにある。
――本好きにはたまらないですね。この勢いで、多摩エリアのここがイチ押し!を教えてください。
野村 : 100%個人的なおすすめになっちゃいますけど、奥多摩方面に向かうのが好きです。奥多摩湖とか。奥多摩のなかでもいちばん奥ににある湖です。あと奥多摩湖の手前にある白丸湖も、湖の色がすごくいい。
――湖よさそうですね。
野村 : 東大和にある多摩湖の周りも好きです。
松岡 : 湖の話になるとだいぶ前のめり(笑)。
野村 : 第2弾、3弾でミーティアさんが湖取材いくならついていきたいくらい(笑)。
――多摩在住の方はけっこうみなさん休みの日に奥多摩湖に行かれたりするのでしょうか?
松岡 : いや、一部の湖好きだけかもしれないです...(笑)。ちなみに「多摩的休息」つながりだとこのあたりは温泉もおおいです。
よみうりランドの入り口から徒歩5分で行ける温泉「よみうりランド 丘の湯」。男女計157坪の大露天風呂が名物。
――温泉いいですね。
松岡 : 温泉に関連して、「東京に泊まる」特集でいろいろご紹介したのですが、ユニークな宿泊施設も多いですよ。川沿いだったり廃校に泊まることができたり。
東京・多摩唯一の村である檜原村のなかでも「隠れ里」と称される数馬の里にある「蛇の湯温泉 たから荘」。
松岡 : 奥多摩の最奥地にある「蛇の湯温泉 たから荘」とかは完全に東京離れしてます。
――ここすごいですね。
松岡 : あと、多摩は丘陵地が多くて山全般おすすめなのですが、御岳山って行かれたことありますか?
――ないです!
松岡 : 奥多摩のほうの山で、観光地としての知名度はそんなに高くないんですけど、江戸時代からお寺のある、霊山なんです。
上のほうに集落があって、もともと僧侶や神社の信者のための「宿坊」という宿泊施設が20軒ぐらい今も稼働していますね。、高尾山とちがっておもしろいのが、山の上なんですけど、住宅もあって、ふつうに人が暮らしているんです。
――すごく気になります。
松岡:そこに住んでいる子供とかは、バイクとかで山を下って、学校に通ってたりして。標高はたしか900mぐらい。御嶽駅からバスが出ていて、ケーブルカーで行けるので、そこまで不便ではないです。
――多摩といえばニュータウンや団地のイメージもありますが、ここは知っておいたほうがいい、みたいな場所はありますか?
松岡 : 武蔵村山にある「村山団地」は特徴的ですね。団地の住民がほぼ高齢者になっていて、駅からは徒歩15分とアクセスがいいとはいえない。マンモス団地なだけあって、そのなかにお店が立ち並ぶ商店街があるんですね。
松岡 : ただ、高齢化がすすむにつれて、住民の方々は団地内の商店街を歩き回るのもむずかしくなってくる。そこで商店会の方が発案して、特注の送迎サイクルをつくったんです。電話で予約して、家からお店まで送迎する仕組みです。これが商店街活性化の先進事例としても注目を集めています。
――すごい、まったく知らなかった世界です。
松岡 : 送迎サイクルを運転しているのも、60-70歳だったりと高齢の方々です。ここはおもしろいですよ。
『たまら・び』のこれから。
――『たまら・び』はこれからも多摩地域にフォーカスした特集を制作していくのでしょうか?
松岡 : 実は、2019年の春に発行する号で、いまの雑誌形態からは変更になることが決まっているんです。
――そうなのですか!
松岡 : まだはっきりとは決まっていないんですけどね。形が変わるのか、WEBに移行するのかとか、いま話し合っているところです。変わらず多摩地域に特化したコンテンツをつくっていきます。
――ミーティアでは今回教えていただいたことをもとに、まだまだ多摩を深掘りしていけたらと思っていますので今後とも何卒よろしくお願いします!
松岡 : はい、何かお力になれることがあればぜひご連絡ください!
取材協力:ロージナ茶房
編集部のお二人にインタビュー場所をご相談して、挙げていただいた「ロージナ茶房」。国立屈指の老舗大箱喫茶店で、席数も多くゆったりとくつろぐことができる。近隣に一橋大学があることも関係してか、名物のザイカレーをはじめ食事メニューはどれもボリュームたっぷり。
住所:国立市中1-9-42 / JR中央線国立駅すぐ
電話:042-575-4074
営業時間:9:00~22:45
Text_KentaBaba
Photography_Reiji Yamasaki
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