赤い公園 – 『THE PARK』トレーラー & YouTube Live 2019.07.04 at TUPPENCE HOUSE I’S STUDIO
名実ともに、「公園」とのタイトルに相応しいバンド名にして新作のタイトルだなぁ…。
これは赤い公園が新体制となり初のフルアルバム『THE PARK』を聴き終えた際の私の感想だ。
公園はある意味、自身で愉しみを見出さなくては楽しめない場所だ。基本、用意されている遊具もスペースも、それのみでは楽しめはしない。当然そこには自身の身体やイマジネーション、イメージやアイデアの駆使が必要となってくる。ありきたりでシンプルな遊具ながら、それらは用いり様にて快楽や快感へと変わり、しいては時空を超えたり、アドレナリンやドーパミンを分泌させることも可能。そaの利用価値は用途と工夫によって無限とも言える。そう、まさしくそれって今の赤い公園や今作のことじゃないか。
音楽やポップスという限られ決められた公園の敷地のようなスペースの中、楽器という游玩具を駆使し、そこにイマジネーションと、シャベルやボール、フリスビーやグローブといった、今作に例えると揺蕩わせたり韻を踏んだり、DAW的な要素を交えたり、鍵盤を取り入れたりと必要な秘密兵器を投入。それらは昨日の遊びの続きながらも確実にまた新しい愉しみや喜び、発見や出会い、新鮮さや驚きを伴い、結果、次の日も、また次の日も次々とリセットされ、リスタートするが如く飽きることなく遊び続けることが出来る…。
うん、そう、まさしくそれって今の赤い公園と今作のことだ。
今年結成10周年を迎えた赤い公園から約2年8カ月ぶりのニューアルバム『THE PARK』が届けられた。新ボーカリスト石野理子加入後、新体制としては初のフルアルバムとなる今作。言葉のレトリックやライムも多様され歌詞も多彩。合わせてこれまでのメロディアスさに加え、クロっぽさや揺蕩う部分も多分に見受けられ、これまで以上に多彩な楽曲が並んでいる印象を受けた。また、鍵盤も多くフィーチャーされ、全体的にかなり高いプレイヤビリティもポイント。抜き差しや少ない音数でも一つ一つの音がしっかりと太く存在感があることも手伝い、アウトロが長い曲が多い特徴も踏まえ、かなり新生赤い公園の「バンド」感が伺える1枚だ。
作品内容…に入る前に今一度、前作アルバムからこの2年8カ月をざっと振り返ろう。
2017年7月に前ボーカリスト佐藤が脱退を発表。8月のアルバム「熱唱サマー」と同月のワンマンを最後に脱退する。2018年2月のベストアルバム「赤飯」の発売を経て、一時期は3人で活動を続けるもボーカリストを探す中、元アイドルネッサンスの石野理子と運命的な出会いを果たし、5月「VIVA LA ROCK 2018」にて彼女の新ボーカリスト発表と共に新体制第一弾ライヴを行った。
2019年8月には新体制初音源「凛々爛々」を配信リリース。
赤い公園 – 「凛々爛々」MV
10月には5曲入りEP「消えない」を発表し、年末は初の全国ツアーも敢行した。また今年1月にはニューシングル「絶対零度」(フジテレビ「+Ultra」TVアニメ「空挺ドラゴンズ」エンディング曲)の発表も記憶に新しい。
赤い公園 – 「消えない」MV
赤い公園 – 「絶対零度」MV
そして、それらを経てようやく届けられた新生赤い公園のまさに満を持してのニューアルバム『THE PARK』。その内容はざっとこんな感じだ。
シティポップでアーバンな「Mutant」はサビのダンサブルさにて心も体も躍らせ揺蕩わせる1曲。ラップも交えた石野の歌声とここでない自身の居場所を探るべく、韻を踏んだリズミカルなリリックと、間のポエトリーリーディングも意味深い。続いてシチュエーションは春の昼へ。これから何かが始まるワクワクする感とはやる心を擁した春曲「紺に花」だ。我々の心にバッとした花を咲かせてくれるかのような同曲。それを経て藤本のベースラインが楽曲を引っ張る「ジャンキー」では彼女たちのソリッドさが顔を覗かす。DAW性やコーラスワークも聴きどころな同曲。歌川菜穂のビートが生み出すラストに向けての高揚感がたまらない。
シングル曲「絶対零度」を経ると、しっかりと聴かせるミディアムな曲たちが続く。まずは「Unite」が幻想さとダイナミズムの同居にて、違った2つの個性の融合へと想いを馳せさせれば、こちらもミディアムナンバー。続く「ソナチネ」では安定感と安心感、安らぎを与えてくれる。ここでは秘めたエモを感じる津野米咲のギターソロも印象的だ。
ここでシーンは夜に。エレクトロ性とチップチューン、R&B性が同居した夜やクロっぽさ溢れる「chiffon girl feat. Pecori(ODD Foot Works)」が。ここでロートーンでクールなラップを聞かせるのはODD Foot WorksのPecoriだ。そして心寄せている男友達からの相談に複雑な乙女心を魅せる少女漫画チックな「夜の公園」が微笑ましい青春性を思い起こさせてくれる。
ラストに向けては、次へと向かっていくべく曲たちが並ぶ。これからスタートラインを力強く踏み出していく彼女たちの意思や決意とも気持ちが重なる「曙」、どこか童謡チックながら、「このメンバーでいれば大丈夫」「きっとうまくいく」感あふれるユニゾンも心強い「KILT OF MANTRA」。そしてラストは、「みんなとこれからも一緒に行くよ!!」「迷っているんならついておいでよ!!」と「yumeutsutsu」が、この先に続く道を逞しく楽し気に走っていく彼女たちの姿とオーバーラップした。
「Mutant」で探し始めた自身らしさが色々なことを経て、様々なものを得、しっかりと<アイデンティティ>へと行きくストーリーも面白い今作。また、初回生産限定盤はライヴ音源CDつき。2019年7月のTUPPENCE HOUSE I’S STUDIOと同年11月の下北沢ガレージでの配信ライヴ音源が収録される。こちらは全8曲中6曲が未発表曲。今後の作品化も楽しみな上、今作収録の「Unite」の一足早いライヴバージョンや既発「Highway Cabriolet」のライヴアレンジの違いも是非楽しんで欲しい。
赤い公園 – 「Highway Cabriolet」
時間をかけ、朧気ながら感じた自身のアイデンティティを信じて追いかけ、確信に変え、今回の『THE PARK』にて見事掴み取った新生赤い公園の未来は、今作共々とても明るい。
自身のバンド名に据えて10年。今回、いよいよニューアルバムにそれを掲げた彼女たち。その「公園」の定義こそが、赤い公園の現在アイデンティティなんじゃないか、と今はつくづく思う。
〈リリース情報〉
2020.04.15 release
赤い公園 『THE PARK』
[初回生産限定盤] ESCL-5383~4 ¥3,273+税
[通常盤] ESCL-5385 ¥2,727+税
Tracklist:
<収録曲>
01. Mutant
02. 紺に花
03. ジャンキー
04. 絶対零度
05. Unite
06. ソナチネ
07. chiffon girl feat. Pecori (ODD Foot Works)
08. 夜の公園
09. 曙
10. KILT OF MANTRA
11. yumeutsutsu
01. 衛星 (broadcast edition)
02. Beautiful (broadcast edition)
03. 未来 (broadcast edition)
04. 石 (broadcast edition)
05. おそろい (broadcast edition)
06. Unite (broadcast edition)
07. Highway Cabriolet (broadcast edition)
08. 輝き (broadcast edition)
SHARE
Written by