2次元経由で3次元の世界に飛びだす手法論
近年、動画共有サイト“ニコニコ動画”といったフィールドにおいて絶大なる支持を受け、その後、その存在を“現実”という3次元の世界に登場させて、活躍の舞台を大いに広げているアーティストやミュージシャン、歌い手、クリエーターが増えている。一昔前なら想像だにしなかったこの現象が、今では自身のクリエイト作品を訴求させていく上でのひとつのアプローチ方法として、若い世代を中心に既に市民権を得た形だ。代表的なアーティスト、クリエーターとしては、伊東歌詞太郎(イトヲカシ)、天月、そらる、ぐるたみん等、枚挙にいとまがない。彼らが生み出す作品の多くは、心に宿る熱いエモーショナルな気持ちをストレートに歌いあげる普遍的なスタイルではあるが、若い世代の心を捕らえて離さない。しかも、ただ歌いあげるということではなく、歌詞やサウンド、そして謎めいたヴィジュアルを含めたその作品には統一性があり、時代と掛け離れることなく、センスに溢れクオリティが高い。
絵師として注目の「くまお♀」「みっ君」 聞き手の心に深く作品を届けるためのイラストという強み
ここで注目しておきたいのは、彼らのクオリティを高めるために、その作品に関わっている“絵師” “動画師”といったネットスラングで称されるクリエーター達だ。 “絵師“。つまりはイラストレーター。世界の中においてアニメ・漫画大国としてリードを続ける日本では、イラスト文化の裾野は確実に広がっており、イラストや漫画を中心としたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)として展開している<pixiv>には、すでに1800万人以上もの会員登録がされている。絵師の中でも、伊東歌詞太郎(イトヲカシ)、天月、そらるといった代表的な「歌い手」の作品に関わるイラストを手がけ、このシーンを牽引している内の代表的な2組が「くまお♀」「みっ君」という名の絵師だ。歌の世界観をイラストでシンプルに表現し、言葉(詞)や歌声を絵という視覚の武器を通じて聞き手の心に深く届けることに成功している。くまお♀、みっ君はその他にも、上北健、まじ娘×みきとP、りぶ、たるとPといったアーティストへのイラスト提供をはじめ、KADOKAWAから発行されている人気雑誌「歌ってみたの本」の最新号では、くまお♀は表紙イラストも書き下ろしている。そんな彼らが伊東歌詞太郎や天月らと同じくイラストを提供し参加しているのが、いまTwitter上で支持が高まりつつある、“謎のチェロ弾きシンガー”というフレーズを持つ葉山彩音だ。
謎のチェロ弾きシンガー 葉山彩音 イラストの世界が葉山彩音をつくりあげる
葉山彩音。その素性は分からない。昨年末にYouTubeで公開されたMV『コウモリ少女とニット帽』は25万再生回数を突破。『Fantasy Finder』は間もなく15万再生、『Fairy Dust』も6万再生回数に近づいている。
その再生回数は無名でありながらも、メジャーデビューをしているアーティストの動画再生回数と遜色はない。彼女が届ける作品も、80年代を彷彿とさせる様な歌謡曲テイストに溢れ、キャッチーなメロディラインに乗って歌われる歌詞が普遍性を伴って素直に心に響く。綺麗な声質も彼女の武器だろう。葉山彩音の『Fairy Dust』『弦の糸』のイラストを手がけたみっ君は「音ひとつひとつを大事にした歌い方で、イラストを描かせて頂きながらも毎回葉山さんの音楽を楽しみにしていました。」と話す。『Fantasy Finder』『Mother’s Drop』を手掛けたくまお♀は「謎多き葉山さんは魅力的です。動画等でたくさんイラストを描かせていただき光栄です。」と言葉を寄せた。また最も多くの再生回数を獲得している『コウモリ少女とニット帽』のイラストを手がけたのは、Dollyな女の子の絵を得意とし、自らの個展も積極的に開催している城咲ロンドン。「葉山さんの透き通る女の子らしい歌声、そしてチェロの音色も、とても惹かれました。彼女の今後の活動をとても楽しみにしています。」と語る。
面白いのは、この三者三様のイラストレーター(絵師)の描くイラストの世界に“葉山彩音”が存在している、ということだろう。ニット帽、メガネ、チェロ、そして常に彼女に寄り添うウサギの妖精。これらはどの作品にも描かれ、葉山彩音という人格がこういったイラストレーターの手によって作り上げられている。まさに、新時代のミュージシャンの一つの在り方とも言えるのではなかろうか。
時代は変わった。存在不詳のミュージシャンが2次元の世界で躍動している。つぎに3次元の世界に飛び出してくるのは誰なのか。この世界を楽しく見つめている。
ライター:江奈屋あまや
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