口コミで人気『羅小黒戦記』自然と人間の相剋描くファンタジー映画
圧倒的におもしろいアニメーション映画が中国から日本にやって来た。作品の名前は『羅小黒戦記』(ロシャオヘイセンキ)。主人公の名前は羅小黒(ロシャオヘイ)。呼び名は小黒(シャオヘイ)だ。妖精と人間が共存する世界が舞台の、ド王道のファンタジー映画である。
開発によって故郷を奪われた子ネコの妖精・羅小黒が、自分の居場所を求めて旅する過程で、様々な妖精や人間と知り合い、彼らと関係を深めてゆく。自然と人間の共生という壮大なテーマを軸に、霊力の戦いをちりばめた、アクション大作でもある。
本作は、2019年9月20日から29日まで、都内で公開された。わずか10日間の上映だったにもかかわらず、クオリティのあまりの高さから話題となり、日本各地で上映する動きが出はじめた。12月30日現在、京都の出町座、東京のユジク阿佐ヶ谷、大阪の第七藝術劇場、北海道の札幌プラザ2.5、福岡のKBCシネマにて公開中であり、新たに、愛知の名古屋シネマテーク、徳島のufotable CINEMA、兵庫の塚口サンサン劇場、栃木の宇都宮ヒカリ座で上映されることが決定している。
本記事では、このすばらしい映画を1人でも多くの方々に観てもらうべく、魅力をたっぷりとご紹介したい。
『羅小黒戦記』予告編
監督は中国の新海誠?
最初に監督について書いておこう。
名前はMTJJ。まだ30代と若い。本職はアニメーターではなく、漫画家である。
2009年に本作の原作漫画の連載を開始し、2011年には短編のウェブアニメ『羅小黒戦記』を制作しはじめた。現在28話まで出来ているこのアニメの記念すべき第1話は、彼が1人で半年かけて完成させたという。中国の動画サイトで公開されると人気を集め、今ではアニメシリーズ総再生回数は2億回を超える。
このたびの長編映画『羅小黒戦記』は、さすがに監督1人ではないが、50人の少数精鋭で4年かけて制作したものだ。
このエピソードを聞いて、すぐに思い出される日本のアニメーション監督がいる。新海誠である。
彼も元々アニメーション制作会社に籍を置いていたわけではなく、ゲーム会社を辞めて、たった1人でアニメーションを完成させた。それが『ほしのこえ』(2002年)だ。ネット上で評判を呼び、完全な個人制作の作品でありながら、劇場公開もされた。その後、新海誠監督は多くのスタッフと共に長編映画の制作に乗り出し、いまや日本アニメーション映画界の中心人物となった。
MTJJのこれまでの経歴は、新海誠監督の出発点を彷彿とさせる。『羅小黒戦記』の完成度の高さは、彼のこれからの経歴も、新海誠監督のように華々しい道を辿るのではないかと期待させてくれる。いま大注目の若手監督と言ってよい。
映画は魅力の詰め合わせ
(画像出典:『羅小黒戦記』公式Twitter)
画像を見てもらえれば一目瞭然だが、『羅小黒戦記』はキャラクターがかわいい。主人公の黒ネコ・羅小黒だけではなく、出てくるキャラクター全員が愛らしく造形されている。動物も妖精も人もだ。
だが、アクションシーンは格好いい。中国の五行思想に由来する霊力を使った多彩な技、スピーディーでキレのある動き、スリリングなカメラワーク。
この格好いいアクションを支えているのが、作画の力である。スタッフのほとんどは20代から30代の若手だというが、腕は確かだ。いや、確かどころか、感動するほど巧い。炎のゆらめき、大波の盛り上がり、着物の乱れを直す仕草、風になびく髪。大きな動きも、難しい動きも、細かい動きも、見事にアニメートされている。
アニメーションは動きが命である。一般に、キャラクターの造形が複雑になればなるほど、動かす手間がかかり、のびのびとした動きは失われる。ところが『羅小黒戦記』では、キャラクターは造形が愛らしくシンプルな分、存分に動き回る。
背景美術も愛らしく、かつ美しい。緑には温もりが溢れ、水は優しく、空は清々しい。近年の日本のアニメーションは、背景の描き込みの密度や緻密さを一つの売りにすることが多いが、『羅小黒戦記』では、描き込みはかなり抑制されている。だがキャラクターの造形と非常によくマッチしており、風景に人物が理想的に溶け込んでいる。
(画像出典:『羅小黒戦記』公式Twitter)
一方で、都市部は描き込みの密度を上げている。つまり、『羅小黒戦記』には、自然と都市の、タイプの異なる2種類の背景美術が存在していることになる。そして、このような都市と自然の違いは、実は映画のテーマとも共鳴している。最初に書いた通り、自然と人間の共生が、この映画のテーマだからだ。
日本のアニメファンにとって、同様のテーマは馴染みのものだろう。『もののけ姫』で、「森とタタラ場、双方生きる道はないのか」と叫んだアシタカの声が、『羅小黒戦記』にもコダマしている。本作の中で、ある妖精は自然の側につき、別の妖精は人間の側につき、また別の妖精は双方の狭間で葛藤する。この壮大で難しいテーマに、『羅小黒戦記』は真正面から挑んだ。
日本のファンに馴染み深いといえば、『羅小黒戦記』は日本のマンガやアニメから多大な影響を受けている。個人的には、ジブリの諸作品や『NARUTO―ナルト―』の影響を特に感じたが、他にも、日本のマンガ・アニメ全般に特有の表現が随所に見られる。それは主に、ギャグシーンでのキャラクターの表情に顕著だ。異国の映画ながら、日本のマンガ・アニメという文化を共有しているため、日本人にとっては非常に親しみやすい。
このように、キャラクターのかわいさ、アクションの格好よさ、作画の巧さ、背景美術の温もりと美しさ、遠大なテーマ、表現の親しみやすさ等、『羅小黒戦記』にはたくさんの魅力が詰まっている。どんな人でも、自分の好みに合った魅力を発見することができるだろう。
(画像出典:『羅小黒戦記』公式Twitter)
今年は海外の長編アニメーションの日本公開が相次いだ。各種の映画祭で受賞経験のある他作品に対し、『羅小黒戦記』はダークホース的存在だったが(ネコだけど)、ここへ来て、舞台中央に躍りでた感がある。
パンフレットも急ごしらえのようで、日本語の文章は明らかにネイティブチェックを受けておらず、かなり怪しい部分が残る。だがその怪しさが、逆に、あれよあれよという間に人気が高まってきた本作を取り巻く状況の変化の目まぐるしさを雄弁に物語っている。
『羅小黒戦記』は感動するほどおもしろい。物語に感動するだけでなく、おもしろさに感動してしまう。本記事冒頭の予告編を観て、少しでも気になったなら、ぜひとも全編を鑑賞して欲しい、と切に思う。上映館が増えることに期待。
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