2019年11月27日。代官山にあるSPACE ODDで新しい試みが行われた。出演者には、natsume、DOG MONSTER、SULLIVAN’s FUN CLUB、She, in the haze、Joey Teeという面々が名前を連ねる。あの日、ステージ上でジャンルの異なる5組のアーティストが、数十人の観客を前に己の表現をぶつけあった。これから音楽・ダンスシーンで大きく躍進するであろう彼らの、快進撃を目の当たりにして、僕は期待に胸を膨らませた。SPACE ODDで一体何があったのか。これは「New Blood」という知られざるイベントの全貌を明かした記録である。
Text_Satoshi Shinkai
Photography_Yusuke Kitamura
——話は1ヶ月前に遡る。10月17日、その日は朝から雨が降っていた。僕はSPACE ODDのマネジメント担当・Iさんに呼び出されて、代官山のCafe Habana Tokyoへ向かった。指定された場所へ到着すると、Iさんからライブレポートの相談を受けた。ただ、通常のレポートではない。今から4年前、Cafe Habana Tokyoの地下には代官山AIRというクラブがあって、そこは石野卓球、砂原良徳、m-flo のVERBAL、中田ヤスタカ、Dragon Ashの櫻井誠など、名前を挙げればキリがないほど有名アーティストがDJとして出演していた人気のハコだった。しかし2015年に惜しまれつつも閉店。その翌年、新たに生まれたのがSPACE ODDである。
「これからSPACE ODDで、未来の音楽シーンを担うアーティストを発掘していくイベントを定期的にやろうと思うんです」とIさんは話す。そのイベントの名前は「New Blood」。記念すべき第1回目を11月27日に開催するという。しかも今回、チケット代1000円と破格の金額。令和を迎え、新しいカルチャー発信地を作り上げていこうとする姿勢に共感し、僕も参加させてもらうこととなった。
そして、迎えたイベント当日。1回目の開催ということで、スタッフも進行の確認に余念がない。そして開場の18時30分になると、観客が場内へ。
いよいよ開演時間の19時になり、トップバッターとしてステージに現れたのは神奈川発の4人組ロックバンド・natsume。「RO JACK」という「COUNTDOWN JAPAN 19/20」の出場権をかけたオーディションで、9月の入賞アーティストに選ばれた彼ら。1曲目は「想い唄」で幕を開けた。真田樹(Vo)の「僕はここにいるよ ここで立っているんだよ」という歌詞が、初見の観客に訴えかける今の状況とリンクしていた。純度の高いポップセンスがあり、さらに愚直な歌モノロックだからこそ、若者に受け入れられているのも頷ける。
「僕たちの気持ちを全部、今日の夜に置いていきたいと思っているので、どうかお付き合いください」と観客に挨拶をして「水色」へ。ステージに最前にいた、中年男性が首を振って踊っている。間奏でメンバーが演奏する中、真田は言う。「今年は色んな人と出会う機会が多くて、ありがたいことに、こうやってライブにも呼んでいただけて。……もっと僕たちの熱を伝えたいと思っているんです」。あなたと分かち合いたい、そんな気持ちが溢れている。「RO JACKの入賞アーティストに選ばれたことは、自分たちなりには嬉しくて。色んな人に知ってもらう機会をもらえたし、こうやって広い場所に立つ機会もいただけた。今の過程の中で僕たちが言えることは少ないかもしれないけど、音楽がずっと好きで。ずっとやってきて良かったなと思います」。そう告げると「子どもの頃は」を演奏して4人はステージを後にした。
2組目に登場したのは「インディーズバトル2016」でグランプリを獲得し、「百万石音楽祭~ミリオンロックフェスティバル~」や「布袋寅泰×TAGO STUDIO TAKASAKI MUSIC FES.2016」など大型フェスにも出場する実力者、DOG MONSTER。この日、「Money Monster」でライブをスタートすると、LiM(Dr)の激しくも繊細なドラムにchloe(Ba・Vo)とgouache.(Gt)の弦を叩くように演奏するツインスラップ奏法が乗っかり、誰しもがそのパフォーマンスに見入っていた。僕は2階席からステージを観ていたのだが、柵を掴んで前のめりになっている人もいた。
続く「がんじがらめシスターズ」は、手数の多いミドルロックでありながら、ボーカルは抜け感のあるラップという高度な楽曲。Chloeはスラップ奏法をしつつ歌っているのだから、本当にレベルが高い。前半戦が終わると、Chloeは笑みを浮かべた。「初めて観る方も多いと思います。私たちはギターとベースでスラップをバチバチと演奏する、ちょっとうるさめのバンドとなっております!」と、クールなステージングとは違って、喋りは人懐っこさを感じる。そうかと思えば、5曲目「赤ずきんちゃん」でChloeが赤いフードをかぶり、囁くように歌いおどろおどろしさを演出した。……イヤイヤ、かと思えば終盤は「ビタリポ」「酒乱犬」でミラボールの下、ダンスフロアを創出してしまう引き出しの多さを感じさせた。演奏技術、楽曲の世界観はただただ圧巻だった。
SHARE
Written by