音楽ファンのみならず、カルチャーにアンテナを張っている人のあいだで今、じわじわと話題になっている同人音楽。本インタビューでは、気がつけば同人音楽ファン歴10年以上であるという、印刷関連勤務のAさん(31)に、同人音楽の魅力をたっぷり語ってもらった。
インタビュー・文=山田宗太朗
写真提供=Aさん
――同人音楽って何? みたいな基本的なことから聞いていくのがインタビューのセオリーだと思うんですけど、それだと面白くないので、先にオススメの同人音楽を紹介してもらおうと思います。そこで今日は、数百枚あるというCDコレクションの中から事前に厳選してもらった3枚のアルバムを持ってきてもらいました。
「いやぁ3枚って結構難しいですね。とりあえず特に思い入れの強いものを選びました」
onoken『Swell Strings』
――ジャケットやブックレット、盤面のレーベルまで全体的にメジャーレーベルのCDと比べても全然遜色がないですね! ちなみにこれを選んだ理由を聞かせてもらえますか?
「これが初めて買った同人音楽のCDなので。もともとBMSというパソコンで遊べる無料の音楽ゲーム(以下、音ゲー)で、onokenさんの作る曲が好きでした。だから、当時『muzie』って音楽配信サイトにアップされていたゲームの音源をダウンロードしたりゲームから直接曲を書き出すソフトを使って音楽ファイルを作ったりして、音楽プレイヤーに入れて聴いていました。ただ、音ゲー用に作られた曲は、だいたい1~2分の短いものなので、当時はかなり物足りなかったと思います。そんなときに、好きな曲が長尺で入っているCDが発売されると知って、これは絶対に手に入れようと思いました。それが同人音楽のファンになったきっかけです」
――なるほど、Aさんが同人音楽を好きになった原点なんですね。では、このなかで好きな曲はなんですか?
「全部好きなんですけども、しいてあげるなら『felys』ですね。疾走感のあるドラムンベースにピアノのキレイなメロディーがたまりません! この曲とonokenさんの曲ではないですが、TaQさんの『era (nostalmix)』っていう音ゲーの曲のおかげで、ドラムンベースを好きになりました」
――ちなみに、このCDっていくらくらいするんですか?
「確か1000円くらいですね。ショップで買うと手数料がかかりますが、イベントで直接購入するとなると、同人音楽CDの価格相場はだいたい500~1500円です」
――それは商業用CDと比べるとはるかに安いですね。
「そうですね。このボリュームで1000円だと『よし、買おう』という気持ちになるんです。このCDとその後に出たリマスター版は完売していますが、iTunesで配信しているみたいです」
麹町養蚕館『バベリズム』
――これもかなりレベルが高い仕上がりですね。選んだ理由はなんでしょう?
「麹町養蚕館(こうじまちようさんかん)はコンポーザーのparaokaさんと、ヴォーカルのharu*nyaさんのユニットなんですけど、onokenさんと同様にparaokaさんがBMSで曲を作っていたときからのファンで、paraokaさんの頒布したCDはすべて購入するくらいです。それで、このCDはその中で一番完成度が高いと思ったので選びました。ただ、このCDについては視聴がリンク切れになっているようで、CD自体も入手が困難になっています」
――このCDはかなりレアなんですね。それでは、このなかで好きな曲はどれですか?
「これも全部好きなのですが、その中でも『砂の花束』が好きです。違ってたら恥ずかしいのですが、ピコピコした電子音とガッシャンガッシャンといったインダストリアルな音色が三拍子の上で寂しげなメロディーとともに鳴り続けていて、さらにharu*nyaさんの伸びやかな声と合わさって……もう最高なんですよ」
――かなりアツく語ってもらいましたが、よほど好きなんですね。
「今後も新譜が出たら迷わず買うくらいに好きです。paraokaさんといえばネタに走った曲も多いので、そういったところも好きなのかもしれません」
――例えばどんな曲があるんですか?
「某通販番組の元社長の甲高い声をサンプリングしたドラムンベースや、メイドロイドの阿久女イクとかですね」
――あージャ○ネットですね。もう一つの方はちょっとよくわからないのですが、ボーカロイドの初音ミクとは違うのですか?
「それのパロディというかなんというか。Hな声のサンプルをつなぎ合わせてHなセリフを言わせるソフトなので、本来歌わせるのが目的ではないのですが、paraokaさんはそれを使って一枚のCDを作っちゃったんですよ。本人がアップしたデモ音源がニコニコ動画にあるので、18歳以上の方はぜひ聴いてみてください」
――やっぱり18禁なんですね。
カラフル・サウンズ・ポート『Grand Rain』
――こちらもしっかりした作りですね。では、選んだ理由は?
「毎度のことですが、カラフル・サウンズ・ポートさんもBMSで知りました。この頃になるとBMS自体は難しすぎて遊んでいなかったのですが、年1回で大規模な大会が行われていまして、そこで選ばれた曲が2009年からウェブアルバムとして無料で公開されるようになったんです。その中で知ってファンになりました。このアルバムを選んだ理由としては、曲の感じが90年代に好きで聴いていたTWO-MIXや浅倉大介さんといったデジタルサウンドのJ-POPで、自分のツボをグイッと押されたからです」
――確かに懐かしい感じがしますね。それではこの中で好きな曲は?
「『風仁雷仁』です。カラフル・サウンズ・ポートさんを知ったきっかけなので。それはもう聴いた瞬間に、古代中国をモデルとした異世界バトルファンタジーモノの、テレビアニメのオープニングテーマのような、わかりやすい壮大さが好きになりました」
――例えがかなり具体的ですね。少し聴いてみて思ったのですが、歌っている方は何人かいらっしゃるのですか?
「いえ、全部カラフル・サウンズ・ポートさん本人の歌唱です。この特徴的な歌声もファンになった理由の一つですね」
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