甲本ヒロトと内田勘太郎、奇跡のコンビ“ブギ連”
若いリスナーにブルースやブギと言ってもピンとこないかもしれない。40〜50代のリスナーでも、パンクをルーツに持つ人なら、ブルースは延々と過去のブルースマンのコピーを垂れ流す自己満足か趣味の音楽だと思うかもしれない。だが、時代や人種を超えて、今の日本でブルースが生まれた時のような凄みや素直さを表現できるミュージシャンがいたのだ!というか、各々が本質的なブルースの実践者でありつつ、ともに活動をすることはないと思われていた二人が、バンドでもユニットでもない“ブギ連”というコンビを組んだのだ。“キング・オブ・ブギ”として愛されたブルースマン、ジョン・リー・フッカーの名曲「Boogie Chillen」が命名のインスピレーションであるこのコンビのメンバーは憂歌団でのデビューから40年以上にわたって多くの音楽ファンをうならせてきたギタリスト内田勘太郎、そしてザ・ブルーハーツ、ザ・ハイロウズ、今はザ・クロマニヨンズで、存在がアートのようなロックンローラーとして活躍し続ける甲本ヒロト。二人の演奏や作品を愛する音楽ファンはこの結成に狂喜した。
6月に1stアルバム、その名も『ブギ連』をリリース、今回は記念すべき初のワンマンライブともあって、チケットは即完売。超満員のクアトロは二人が登場する前から期待と興奮でざわめいている。めでたく9月に追加公演が決定したので、詳述は避けるが、この日の興奮をレポートしていこう。
Photography_Eri Shibata
Text_Yuka Ishizumi
Edit_Shu Nissen
ダンス・ミュージックでもあるブギ連の音楽
ミラーボールが光を撒き散らす中ブギ連の二人が現れると、オーディエンスの大人たちは絶叫・歓声・黄色い声をあげた。内田勘太郎のスライド奏法や、パーカッシブなギター・カッティングなど、本当にギター一本なの?とア然とするようなジェットコースター並みのプレイ、それを満面の笑顔で見つめながら、自身も全身全霊で歌い、ハーモニカを吹き鳴らす甲本ヒロト。二人の演奏が白熱するたびに絶叫する人、思い思いにハンドクラップをしたり、足を踏み鳴らしたり、スペースがあれば踊りまくる人もいる。ああ、もうこれはブルースやブギというジャンルを知っていようがいまいが、人間なら体の芯に火がつけられる音楽だ。ブギ連の音楽はダンス・ミュージックですらある。
「今日のお客さんはうるさいから、(モニターの返しを)もうちょっと大きくしてください」と笑うヒロト。それにつられてお客さんもさらに笑う。内田は「CDを作るのは5年ぐらいかかるかと思ったけど、すぐにできた(笑)。嬉しいですね。ヒロトさんなら抱かれてもいい」と仲がいいにもほどがあるだろうというMCに、「潮が満ちた」とヒロトも大人のジョークで返す。アルバム『ブギ連』からの曲を中心に、往年のブルースナンバーを二人の解釈で表現したレパートリーも披露。スリリングで一音も聴き逃したくない演奏、初めて聴いても言葉が明瞭に聴き取れるヒロトの真っすぐで強い声は、もはやジャンルを突き抜けて、ただただ射抜かれる。でも、ブルースが生まれた頃、止むに止まれぬ思いをギターをかきむしりながら歌っていたブルースマンのパッションはむしろそういうものだったはずだ。それを今の日本人の二人がリアリティを持って演奏できるのは、ブルースへのリスペクトももちろんあるだろうが、二人の真心と肉体から放たれているのが“ブルースそのもの”だからだ。
女も男も惚れるエロくてかわいい(!?)存在感
曲調と歌詞も通り一遍ではない。素朴だがひたひた迫ってくるような内田作詞の「誰かが見てる」には、今の自分は本当の自分か?という問いかけを感じたし、言葉の区切り方が特徴的な「バットマン・ブルース」は詩人であり歌い手であるヒロト独自のセンスを見た。また、アップテンポで盛り上げる曲もあれば、とろけるようなボサノバっぽいムードを漂わせる「軽はずみの恋」での、弱気で情けない男の素直な歌も泣ける。そんな純情が染み込んだ上で、人間の根源的な欲求であるエロティックな想像を掻き立てる「ヘビが中まで」がさらにグッとくるのも当然だろう。昔、若い女性を指した褒め言葉に「エロかわいい」というのがあったけれど、この日の二人は失礼を承知で言えばエロくて無邪気で最高にキュートだった。なんて人たらしなコンビなのだろう。
ギターと歌とハーモニカだけで、ブルースはもちろん、メロウグルーヴもハードロックよりもハードなロックも、日本の民話的な世界も立ち上がらせるブギ連。いや、逆に二人という最小編成だから実現できる自由度なのだとも言えるけれど、やっぱり人間として、音楽人としての地力が違う。甲本ヒロトというカリスマ、内田勘太郎というブルース・ギターのトップ・プレーヤーとしての過去を知らなくても、その場に居合わせれば誰もが生演奏の可能性にぶっ飛ばされるはずだ。女も男も惚れるブギ連。老若男女、ファンであろうとなかろうとこの夏、ブギ連の生のステージを見逃すのはかなりもったいない。相手の出方で次の一手を繰り出し、ボクシングのようにパンチを交わしたり、一転、お互いを尊重して愛し合うように音を奏でたり。それを受けて、大の大人のお客さんも感情の赴くままに声を発することができる場所――つまり、人が人で居られる場所、それがブギ連のライブだ。
ブギ連
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