シンガーソングライターの湯木慧(ゆき・あきら)が、自身21歳の誕生日である2019年6月5日に1stシングル『誕生〜バースデイ〜』をリリースし、メジャーデビュー。さらには東京・高田馬場のライブハウス『四谷天窓』にてワンマンライブ『誕生〜始まりの心実〜』を行った。本記事では、当日の様子をレポートする。
始まりの地、四谷で
『四谷天窓』は、着席60席ほどのライブハウス。この日メジャーデビューを迎え、ブレイク間近と注目されている湯木慧のデビューライブとしてはやや小さいハコだ。実際、スタンディング含め多くオーディエンスで会場はいっぱいになり、6月の涼しい夜にもかかわらず、汗ばむほどの熱気が漂っていた。
彼女がこの会場にこだわったのには理由があった。というのも、『四谷天窓』はまだ自身のみで活動をしていた2015年に初めてこの地でライブをして以来、特別に大切にしている場所なのだ。当時の彼女はまだ高校生だった。それから4年。メジャーデビューを勝ち取り、メジャーアーティストとして生まれる場所として、湯木慧は自分の原点ともいえる場所を選んだのだった。ライブのタイトルは『誕生〜始まりの心実〜』。まさにここからアーティストとしての湯木慧が誕生し、物語が始まっていくことが示されている。
湯木慧とはどのようなアーティストなのか。よく、「処女作にはその作家の本質がすべて込められている」というようなことが言われるが、たとえばこの日のライブでは、参加者一人ひとりにリストバンドが配られていた。リストバンドを受け取ったオーディエンスはまずここで驚く。なぜならそこにはこの日の日付や公演名に加え、一人ひとりのためにシリアルナンバーが書いてあるからだ。しかも湯木慧の手書きによって。
小さいハコでのライブとはいえ、すべての来場者にこうした気遣いをすることは簡単ではない。何しろメジャーデビュー日のワンマンなのだ。これから大きな世界に打って出て行くという時に、いちばん身近にいる人たちに向けて、きわめて近い距離で、丁寧に感謝の気持ちを伝える。ふつうのアーティストとは真逆の思考回路が働いていることに、彼女の誠実さと真剣さを見出せるだろう。それゆえ、彼女の言葉が嘘偽りない真実であることをより実感させられるというわけだ。
人を信じられなくなった時 一つ、信じられるような唄を
会場には心臓音のような音声がオープニングSEとして流れていた。ステージと客席は透明の幕で区切られている。白いワンピース姿の湯木慧がステージに登場すると、どこからともなく拍手が起こった。彼女がアコギを抱える。やわらかい照明が彼女を照らす。透明の幕が照明を反射させて、光のひだをつくっている。客席から見ると、ステージの湯木慧は、まるで水中にいるように見えた。
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