『ホフマニアダ ホフマンの物語』日本公開決定
『チェブラーシカ』や『霧の中のハリネズミ』等の名作アニメーションを世に送り出してきたロシアのソユーズムリトフィルムが15年の歳月をかけて制作した人形アニメーション映画『ホフマニアダ ホフマンの物語』(スタニスラフ・ソコロフ監督)が、東京都写真美術館ホールにて、4月2日から26日までの約1ヶ月間、緊急公開される。
ロシアへの留学経験があり、本編をすでに視聴済みでもある筆者が、その見どころを詳しくご紹介したい。最後に、ホフマンと日本との関係についても触れておこう。
『ホフマニアダ ホフマンの物語』予告編
映画の特徴
めくるめく幻想
『ホフマニアダ ホフマンの物語』の主人公は、ドイツ幻想文学の巨匠、E. T. A. ホフマンである。『くるみ割り人形とネズミの王様』、『砂男』、『黄金の壺』などの小説がよく知られており、名前を聞いたことのある人も多いだろう。
映画の中では、若かりし頃のホフマンが自分自身の作品の登場人物たちと共に幻想の世界をさまよい、ときに翻弄され、ときに危険に陥り、ときに恋をする。
今作の特色は、何よりもまず、めくるめく幻想の世界を描いているという点だ。
そもそもホフマンの小説はほとんどすべて幻想に彩られている。ただし、幻想といっても、妖精が顔を覗かせるようなファンタジーに限らず、不安を駆り立てる不気味なものも多い。
(ホフマンの小説)
『ホフマニアダ ホフマンの物語』にも、この2つの要素が入っている。たとえば『黄金の壺』を下敷きにしたシーンは甘美で艶やかだが、『砂男』のシーンは不気味でスリリングだ。
「ホフマニアダГофманиада」というタイトルを直訳すれば、「ホフマン的」や「ホフマン風」となるので、映画がホフマンの作風を思わせるめくるめく幻想に満ちているのは当然といえるだろう。
人形アニメーション
今作のもう1つの特色として挙げられるのは、壮麗な人形アニメーション映画であるという点だ。
人形アニメーションは制作に膨大な手間暇や特殊な技術を要するため、採算を度外視できる国営スタジオのある共産主義国家で盛んに作られてきた。たとえばトルンカやポヤルを輩出したチェコの人形アニメーションは今なお有名だ。
だがロシアも負けてはいない。首都モスクワにあるソユーズムリトフィルムは数多くの人形アニメーションを生みだしてきた。その一つが『チェブラーシカ』だ(ロマン・カチャーノフ監督)。好きという人も多いだろう。
(チェブラーシカの置物)
そのソユーズムリトフィルムの制作したのが『ホフマニアダ ホフマンの物語』である。監督のスタニスラフ・ソコロフ(1947-)はこれまでもっぱら人形アニメーションに携わってきた。一例として、アンデルセンの童話『妖精の丘』に材を取った短編映画『地底の大舞踏会』(1987年)を挙げておこう。
『地底の大舞踏会』予告編
ソコロフ監督はこういう美しくも不気味な幻想に惹かれるのかもしれない。
世界のホフマン、日本のホフマン
ホフマンの小説はこれまで世界中で映画化・アニメーション化されてきた。『くるみ割り人形とネズミの王様』はその最たる例だろう。昨年も『くるみ割り人形と秘密の王国』(ラッセ・ハルストレム、ジョー・ジョンストン監督)が劇場公開されている。
また、チャイコフスキー作曲のバレエ『くるみ割り人形』や、オッフェンバックによるオペラ『ホフマン物語』も有名で、ホフマンの作品は他の芸術分野との相性がよい。
日本でも『くるみ割り人形とネズミの王様』はアニメーション化されている。中村武雄監督『くるみ割り人形』だ(1979年、2014年デジタルリマスター再編集)。しかもこの作品は人形アニメーションであり、ある意味で『ホフマニアダ ホフマンの物語』の先輩といえるかもしれない。
ホフマンが日本のアニメーション界に与えた影響は意外なところにも見出すことができる。スタジオジブリだ。2014年5月から約1年間、三鷹の森ジブリ美術館の企画展示で「クルミわり人形とネズミの王様」展が開催されていた。
(「クルミわり人形とネズミの王様」展パンフレット)
宮崎駿監督は展示パンフレットに自ら描いた漫画の中で、次のように記している。
「ホフマンは幻想と現実が入り乱れて境目が判らなくなる めくるめく世界を書きました」。そして、ホフマンにこう言わせている。「つじつまなんかどうでもいいのさ 心の膜こそはがしたまえ」。
この台詞は、ホフマンの小説『くるみ割り人形とネズミの王様』の注釈であると同時に、映画『ホフマニアダ ホフマンの物語』の注釈にもなり得ている。
『ホフマニアダ ホフマンの物語』では、幻想と現実の境界はぬぐい去られ、理屈では説明のできない怪事が次々と起こる。それは夢か、幻か、妄想か、いやそもそもこの世界が夢に冒されていないなどと、どうしてそう素朴に信じていられたのだろうかと自分を疑いだしてしまうほどの、疾風怒濤の幻惑。
『ホフマニアダ ホフマンの物語』は日本とも縁が深い。ホフマンが好きな人はもちろん、人形アニメーションのファンもジブリ作品のファンも、都内にお住まいの方は足を運んでみてはいかがだろうか。
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人形アニメーション映画『ホフマニアダ ホフマンの物語』
日時:4月2日(火)から26日(金)まで
会場:東京都写真美術館ホール
オペラ映画『ホフマン物語』(1951年)緊急公開
日時:4月2日(火)から26日(金)まで
会場:東京都写真美術館ホール
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