絶対に見逃せないアニメがここにはある!下北沢でアニメ三昧
東京・下北沢の映画館「下北沢トリウッド」で、いま、近年話題になった多くのアニメーション作品がリバイバル上映されている。7月14日~8月10日までの約1ヶ月間、合計11作品が順次上映される予定だ。
トリウッドはもともと短編映画専門の映画館で、新海誠監督が自主制作した短編アニメ『ほしのこえ』(2002年)にすぐさま注目し、これを初めて劇場で上映したことでも知られる。『ほしのこえ』はこうして彼の商業デビュー作となった。新時代のアニメーション・スター新海誠は、このトリウッドから巣立ったのだ。
そんなトリウッドが今夏リバイバル上映するアニメーション作品に、ハズレはない。ベテランから期待の若手まで、現代はもちろん未来のアニメーション界をも背負って立つだろう監督たちの作品が集まった。
これらを観ずして未来のアニメーションは語れない。来たれ、明日を生きるすべての人よ。
ラインナップは以下の通り。
湯浅政明監督
『DEVILMAN crybaby』7月14日~8月3日
『マインド・ゲーム』7月14日~7月20日
『夜明け告げるルーのうた』7月14日~8月3日
『夜は短し歩けよ乙女』7月14日~8月3日伊藤尚住監督
『きみの声をとどけたい』7月14日~7月20日ユン、ローラン・ボアロー監督
『はちみつ色のユン』7月28日~8月3日石田祐康監督
『陽なたのアオシグレ』8月4日~8月10日新井陽次郎監督
『台風のノルダ』8月4日~8月10日岡田麿里監督
『さよならの朝に約束の花をかざろう』8月4日~8月10日片渕須直監督
『この世界の片隅に』8月4日~8月10日
『アリーテ姫』8月4日~8月10日
タイムテーブルとチケット料金の詳細はオフィシャルサイトを参照。下北沢トリウッド
まずは各作品について簡単に紹介しよう。
そのあと、特に大注目の若手である、『陽なたのアオシグレ』の石田祐康監督にフィーチャーしたい。
作品紹介
湯浅政明監督作品
『DEVILMAN crybaby』は今年Netflixで世界配信された、全10話のアニメーション作品だ。劇場で鑑賞できる機会は滅多にないため、今回の上映は非常に貴重といえる。
他の作品も見逃せない。特に『夜明け告げるルーのうた』(2017年)と『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)は世界4大アニメーション映画祭の一つ、アヌシー国際アニメーションフェスティバルとオタワ国際アニメーションフェスティバルでそれぞれ最高賞を受賞している。
(『夜明け告げるルーのうた』予告映像)
また、『マインド・ゲーム』は2004年の毎日映画コンクールで大藤信郎賞を、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞を獲得している。この2004年という年は、宮崎駿監督『ハウルの動く城』、押井守監督『イノセンス』、大友克洋監督『スチームボーイ』が公開された巨匠揃い踏みのアニメ・イヤーであり、さらには新海誠監督『雲のむこう、約束の場所』も公開されているから、もはや伝説の年と言っていい。その中での大藤信郎賞とメディア芸術祭の大賞受賞は極めて価値が高い。
湯浅監督の作品はいずれも世界最高峰の作画レベルを誇り、とにかく人や物の動きがダイナミックで引きこまれる。キャラクターが走っているのを見るだけで感動する、というこの稀有な体験を、ぜひスクリーンで味わってもらいたい。
『きみの声をとどけたい』
(『きみの声をとどけたい』予告映像)
伊藤尚住監督『きみの声をとどけたい』(2017年)は胸のすく爽やかな佳品だ。
1人の女子高生が雨蛙に導かれるようにして古い喫茶店を見つけ、そこから物語が展開してゆく。そう聞くと、『耳をすませば』(近藤喜文監督、1995年)を連想する人がいるかもしれない(『耳すま』の主人公である雫は猫を追いかけるうちに地球屋という店を見つける)。実際、『きみの声をとどけたい』には雫という名の少女も登場する。『耳をすませば』ファンにはオススメの映画だ。
『はちみつ色のユン』
(『はちみつ色のユン』予告映像)
ユンとローラン・ボアローの2人が監督・脚本を務める『はちみつ色のユン』(2012年)は国内最後の上映という触れ込みで、今回を逃したらもうスクリーンで観るチャンスはないかもしれない。
朝鮮戦争で孤児となり、ベルギー人の里親に引きとられた主人公・ユンが「自分とは何者か」を問い、苦悩する社会派作品だが、キャラクターの造形は親しみやすく、こういった作品に馴染みのない観客にも取っ付きやすいはずだ。
ちなみに、この映画は2000年代から世界中で増えはじめてきたアニメーションの新しいジャンルである「アニメーション・ドキュメンタリー」に分類できる。アニメーションという非現実的な素材を用いてドキュメンタリーという記録映像を作ろうとするため、必然的に、このジャンルの映画は「そもそも現実とは何か」という難問に接近することになる。
最近何かと話題になりやすいフェイクニュースの問題や、フィクション/ノンフィクションの境界線の問題を考えるうえでも、注目すべきジャンルといえる。
『台風のノルダ』
(『台風のノルダ』予告映像)
石田祐康監督『陽なたのアオシグレ』(2013年)と新井陽次郎監督『台風のノルダ』(2015年)は共にスタジオコロリド作品。前者については後述するので、後者について少しだけ。
監督の新井陽次郎はスタジオジブリ出身のアニメーターで、劇場用短編アニメーション『台風のノルダ』が公開されたときは弱冠26歳だった。
吹き荒れる台風のなかで男子高校生が謎の少女と出会ったのをきっかけに、ファンタジックな物語が展開する。キャラクターはやはりジブリのそれを思わせ、好感がもてる。今後注目したい若手の劇場映画デビュー作だ。
『さよならの朝に約束の花をかざろう』
(『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告映像)
アニメファンと非アニメファンの垣根を越えて感動が広がったTVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで脚本を手がけた岡田麿里が、劇場用長編アニメーション監督デビューを果たした。それが『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2017年)である。
「変わるもの」と「変わらないもの」との相克という、私たちの世界に普遍的なテーマをアニメーションの世界に移し、広げ、剥きだして、痛切なエレジーを歌いあげた。
味わい深く、心の奥底にあるひそやかな部分にまで沁み入る忘れがたい映画だ。
片渕須直監督作品
『アリーテ姫』(2001年)は片渕須直の劇場用長編アニメーション初監督作品。ノスタルジックな音楽と映像に乗せ、ヨーロッパを舞台に王道ファンタジーが展開する。のちの監督作『マイマイ新子と千年の魔法』や『この世界の片隅に』がどちらも昭和の日本を舞台にしていることを勘案すれば、この題材は興味深い。観直してみると新たな発見があるかもしれない。
(『この世界の片隅に』予告映像)
『この世界の片隅に』は、同年公開された新海誠監督『君の名は。』とともに、2016年のアニメーション・シーンを代表する映画となった。戦時中の日本を描いたこの作品は、同種のテーマを扱ったアニメーション作品として、高畑勲監督『火垂るの墓』に比肩しうる傑作であり、日本映画史上に残ることは間違いない。都内の劇場で観られる機会はかなり限られているので、ぜひこの機会を利用してほしい。
なお、8月8日(水)の『この世界の片隅に』(13時40分)上映後と『アリーテ姫』(16時30分)上映前には、片渕須直監督の舞台挨拶とサイン会が実施される予定だ。
石田祐康という稀有な才能
さて、ここからは、『陽なたのアオシグレ』(2013年)の石田祐康監督にフィーチャーしたい。
石田祐康は今年30歳を迎えたばかりの非常に若い監督である。
彼はスタジオジブリ出身の若手アニメーター新井陽次郎とともに、2011年、スタジオコロリドを設立した。そこで劇場用短編アニメーション『陽なたのアオシグレ』を監督したほか、新井陽次郎監督『台風のノルダ』(2015年)の作画監督を務めるなど、これまで精力的に創作活動をおこなってきた。
そして、来る8月17日(金)、石田監督の初劇場用長編アニメーション作品『ペンギン・ハイウェイ』(原作・森見登美彦)がいよいよ全国公開される。
『ペンギン・ハイウェイ』は、スタジオコロリド設立前からその動向に注目してきた石田祐康ファンにとって、待ちに待った長編アニメーション初監督作品となる。
彼のこれまでの華々しい経歴を振り返ってみよう。
『フミコの告白』
2009年秋、ごく少数の学生たちだけで作ったわずか2分の自主制作アニメがネット上の話題をかっさらった。それこそが石田祐康監督『フミコの告白』である。
(『フミコの告白』)
2018年7月15日現在、YouTubeの再生数は480万回を越えている。実は2010年の間にはすでに100万回に達していた。それから順調に再生数を伸ばしつづけてきたといえる。同作は人気があるばかりでなく、オタワ国際アニメーションフェスティバルで特別賞を受賞するなど、そのクオリティも非常に高く評価されている。
『フミコの告白』の魅力は、何といってもそのスピーディかつ大胆でメリハリの効いた動き(作画)にある。また、その動きに伴って急展開してゆく物語もギャグ満載で楽しい。
『rain town』
(『rain town』)
2011年、石田祐康が卒業制作として発表した『rain town』は『フミコの告白』とは打って変わり、固定カメラからみた映像を多用し、静けさをたゆたわせた物悲しいアニメーション作品である。
この2作品は「静と動」の見事な好一対をなしている。『rain town』も第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を獲得するなど、高い評価を受けた。
つまり、スピーディな動きもゆったりした動きも、ギャグも抒情も、目まぐるしい展開も落ちついた展開も、石田祐康は両極端な2つの方向性へ作品を自由にコントロールできる才能が自らにあることを立証したのだ。
『陽なたのアオシグレ』
その石田祐康が2013年に監督した劇場用短編アニメーション作品が『陽なたのアオシグレ』である。
これは『フミコの告白』の力強く伸び伸びした動きと、『rain town』の繊細さを併せ持ったとても気持ちのよい快作で、筆者は初めて観たとき、雲を突きぬけるような喜びと鉄を溶かすような切なさの両方を味わった。
(『陽なたのアオシグレ』予告映像)
20分足らずの短い作品なので、『ペンギン・ハイウェイ』公開前に、東京にお住いの方はトリウッドでぜひご覧になっていただきたい。もちろん、DVD・BDも発売されている。
この夏トリウッドでは、いま注目のアニメーションをおさらいし、そして将来のスター候補生である石田祐康監督の映画『ペンギン・ハイウェイ』の予習をすることができる。
この千載一遇のチャンスを逃す手はないだろう。
SHARE
Written by