W杯がいよいよ終幕。Suchmosの新譜『THE ASHTRAY』は「VOLT-AGE」以外も名曲揃い!
世界各国が激闘を繰り広げたワールドカップ。2010年以来2大会ぶりの決勝トーナメント進出を果たした日本代表の活躍はもちろん、今回は全試合がリアルタイムで地上波放送されたこともあって寝る間を惜しんで熱戦を楽しんだ人も多いハズ。
テーマソング「VOLT-AGE」は、なぜ賛否両論だったのか。
今回焦点を当てるのは、ワールドカップのNHKテーマソングに起用され話題になった、Suchmosの「VOLT-AGE」。フロントマンのYONCEをはじめ、メンバー自身がサッカーファンであることから本人たちも気合いを入れて取り組んだというこの楽曲、中継を見ていた人であれば、「Heartbeat」のリフレインにきっと聞き覚えがあるだろう。
ワールドカップの盛り上がりも後押しし、「VOLT-AGE」が収録されたニューミニアルバム『THE ASHTRAY』はiTunes週間アルバムチャートで1位を獲得。多くの人に届いている一方で、「VOLT-AGE」に関しては「これまでのテーマソングと違う」といった戸惑いの声も聞かれ、評価が分かれているという。
では、具体的に「VOLT-AGE」はこれまでとどう違うのだろうか? そしてSuchmosはなぜこの曲を書き下ろしたのか。その理由は、『THE ASHTRAY』を聴くと見えてくる。彼らの現在の表現を紐解いてみたい。
観客席で盛り上がる「お祭り的」から、選手と共に走る「ゲーム性の高い音楽」へ
「VOLT-AGE」以前のNHKワールドカップのテーマソングは「お祭り」の要素が強いものだった。2006年のドイツ大会で起用されたORANGE RANGE「チャンピオーネ」はイントロから合唱しやすいコーラスが用意され、2010年のSuperfly「タマシイレボリューション」は開催国の南アフリカを意識したリズムに、パワフルなボーカルが気分を盛り上げる。2014年の椎名林檎「NIPPON」は前大会で印象的だったブブゼラを想起させるホイッスルに337拍子と、応援ソングのエッセンスを詰め込んだ楽曲になっていた。
この流れの延長線上で考えると、たしかに「VOLT-AGE」は毛色の違う楽曲だ。体をリズムに委ね、祭りの熱狂に飲まれるのは楽しい。そうした一体感や歓喜の感覚を求めていた人にとっては、退屈に感じるかもしれない。だが、「VOLT-AGE」はそうした高揚感を煽らない代わりに、よりスリリングであると思う。「お祭り的」ではなく、「ゲーム性の高い音楽」だとも言えるだろうか。
太いベースが唸る、相手の出方をうかがっているような序盤から、「Chanting now 風が吹けば〜」で急にリズムが展開し、途端にビートが疾駆する。ボールに全神経を集中させ、来たるべき瞬間に走らなければ、一瞬の遅れが命取りになってしまう、そんな緊迫感をよく捉えている。その後もリズムは微細に変化し続け、YONCEのボーカルもフィールド全体を見わたすような冷静さを保ちつつ、勝利をめがけて着実に熱量を上げていく。
7月4日の日本経済新聞では、神戸大でサッカーと社会の関係を研究する小笠原博毅教授が「サッカー観なお成熟途上」という題で、「パブリックビューイングでお祭り騒ぎするか、感傷的な賞賛しかしないサポーターと、欧州でじっくりと技術を積み重ねた末に負けて悔しがっている現場の選手との間にズレがあるのではないか」とし、サポーターのサッカー観のアップデートが必要だと指摘している。
これになぞらえて考えてみると、「VOLT-AGE」はサポーターではなく選手寄りの、つまり「成熟した」視点で作られた楽曲ではないだろうか。お祭りから、知性と技術を結集させたゲームへ。転換が求められるなかで、結果的にSuchmosは一歩先を行く次世代のテーマソングを「VOLT-AGE」で提示した。
バンドの現在のスタンスが滲む新作『THE ASHTRAY』
実際、制作時には大衆に向けたポップソングを作るという選択肢も考えられただろう。だが、Suchmosはあえてそれを選ばなかった。そこにはバンドの現在の立ち位置が滲んでいる。そのことがよくわかるのが、「VOLT-AGE」も収録されているニューミニアルバム『THE ASHTRAY』だ。
オープニングを飾るのは、「STAY TUNE」に引き続きHonda『VEZEL』のCMソングに起用された「808」。「STAY TUNE」同様にドライブ感あるキラーチューンで、少し聴いただけでSuchmosだとわかるようなグルーヴが心地良い。彼らのポップサイドが存分に味わえる1曲だ。
2曲目には「VOLT-AGE」を収録。中継では部分的な放映のみだったが、全容は7分と実はけっこう長い曲なのだ。しかし軽快な「808」からハードな「VOLT-AGE」という流れが絶妙で、決して重苦しい印象は感じない。それどころか、この配置によって「VOL-TAGE」のソリッドな熱さがさらに際立っているように思う。
その他の楽曲もバラエティ豊かだ。「YOU’VE GOT THE WORLD」では大きなステージで映えそうな、バンドのスケールアップも感じられるロックサウンドを聴かせ、「FRUITS」や「FUNNY GOLD」では70年代のAORに接近する。「FRUITS」の言葉遊びを交えながら家族への感謝を歌った歌詞はこれまでにはなかった表現で、「FUNNY GOLD」のようにピアノを前面にフィーチャーしたサウンドも新機軸。「ONE DAY IN AVENUE」も同様に力強いピアノのリフが印象的で、けだるさの中に芯の強さを内包したYONCEの歌声とメロディラインはどこかオアシスを彷彿とさせる。「知りたいのは 不倫?不幸?/聞きたいのは 音?騒動?」なんてYONCEの歌詞もシニカルだ。彼らはいつも、判断基準を持たず、情報に踊らされる人にうんざりしている。偽物を見抜く目と、感じたことを信じる強さはあるかと問いかけている。
ロックスターが輝くのは、自分を曲げずに貫いている時
Suchmosはこれまでもずっと自分たちの美学を信じ、その選択に責任を持つというスタンスを貫いてきた。『THE ASHTRAY』でも、過去のサウンドをリスペクトしながら、ただの繰り返しにならないように、今の自分たちにしかできない音楽を響かせようとしている。
それは不必要に迎合しないということで、何かしらのトラブルを引き起こすケースもあるかもしれない。よく知らない人ほど、そういう時だけ物知り顔でコメントを言ったりする。でも、ロックスターが観る者の心を躍らせるのは、大衆をうかがっている時ではない。自分自身を曲げずに貫いている時だ。
その意味で、「VOLT-AGE」の一件は、バンドの評判を落とすどころか、リスナーとの信頼関係をさらに強固にしたと思う。そして『THE ASHTRAY』は、そのリスナーを納得させる出来だ。さらに言うなら、このアルバムはまだちゃんと聴いたことがないという人を引き込む強度も、ノリの良い音楽ならなんでもいい……という人を振り落とす美学も兼ね備えている。iTunes週間アルバムチャートで首位を獲得するなど既に結果が出ているわけだが、「サチモス?ステイチューン以外はちゃんと聴いたことがない」なんて人にこそ、まずは自分の耳で聴いて、その強度と美学をぜひ感じてみて欲しい。
Suchmos 最新リリース情報
『THE ASHTRAY』
01. 808 ※Honda『VEZEL』CMソング
02. VOLT-AGE ※2018 NHKサッカーテーマソング
03. FRUITS
04. YOU’VE GOT THE WORLD
05. FUNNY GOLD
06. ONE DAY IN AVENUE
07. ENDROLL
11/24.25 横浜アリーナワンマンライブ
「Suchmos THE LIVE YOKOHAMA」
>>チケットOFFICIAL HP先行 受付中(応募受付は”7/17(火)23:59″ まで)
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