2017年12月7日に埼玉県・三郷文化会館でスタートした高橋優の全国LIVE TOUR 2017-2018『ROAD MOVIE』が、2018年3月30日、神奈川県・パシフィコ横浜国立大ホールにてファイナルを迎えた。キャリア最大最長となる、全国37公演のツアー。本記事では、セミファイナルとなった3月29日の横浜公演をレポートする。
Photography_Yuki Shimbo
Text_Sotaro Yamada
『ROAD MOVIE』とは?
本ツアーのタイトル『ROAD MOVIE』は、昨年4月にリリースしたシングル『ロードムービー』から来ているが、「長い旅のなかでしか見ることのできない景色、この旅だからこそ感じることのできる気持ちをみなさんと一緒に見つけていきたい」という高橋優の願いも込められている。埼玉にはじまり、年をまたいで日本を縦断した長い旅。その最終地点の横浜に駆けつけた5000人のファンで、パシフィコ横浜は3階席までびっしり埋まった。
高橋優の白米的コミュニケーション
大歓声のなか、ライブは『終焉のディープキス』『象』『現実という名の怪物と戦う者たち』といった激しいナンバーでスタート。すべての曲で、イントロが始まると拍手と歓声が起き、手拍子が続く。そして一斉にみんなで歌い出す。
途中に挟まれる秋田弁まじりのやわらかいMCが、冒頭の激しい演奏との落差を生む。会場をあたたかい空気がみたしていく。高橋優の言葉の一つひとつに、ファンの愛にみちた拍手や笑いが起きる。
高橋優の特徴のひとつは、どれほどスケールが大きくなろうとも、集まってくれた一人ひとりと積極的にコミュニケーションを取ろうとすることだ。2階や3階に目配せするのはもちろん、ファンの声をどんどん拾い、ツッコんでいく。神奈川県に関する小ネタをたくさん仕込んできて、ファンに質問する。さらには、マイクをファンにあずけて歌わせる。
高橋優のライブには、演者と観衆としてだけではなく、ひとりの人間同士のコミュニケーションが生まれている。こうしたことは、小さいハコで駆け出しのミュージシャンがやるぶんにはいくらか見慣れた光景かもしれないが、パシフィコ横浜クラスの大ホールでやるのは簡単ではない。なぜそのようなコミュニケーションを続けられるのだろうか?……と書いて、そんなことは愚問であったと思い直す。
高橋優は常に、周りの人たちに対して「白米」のような付き合い方をする人だった。つまみ食いのような日々に憤りを覚える人なのだから、どれほどスケールが大きくなろうが、オーディエンスの一人ひとりは彼にとって「白米」であるに違いない(高橋優『白米の味』歌詞を参照)。
「生きていけ」
中盤では、「どうしてもバンドアレンジにできなかった、10年前に路上で歌っていた曲」という『BLUE』を弾き語りで情熱的に演奏し、ピアノとの弾き語りで『シーユーアゲイン』をしっとり歌い上げる。さらに『ロードムービー』『明日はきっといい日になる』といった人気曲と、『ルポルタージュ』『太陽と花』といった激しい曲をおりまぜながら本編は続き、『泣ぐ子はいねが』ではステージに巨大な“なまはげ”(高橋優ver.)が登場。眼鏡をかけた神の使いに睨まれながら(見守られながら)、「泣ぐ子はいねがー」という世にも奇妙なコール&レスポンスが起きた。
アンコールでは『パイオニア』でオーディエンスをめいっぱい飛び跳ねさせ、ラストは『リーマンズロック』。このツアー中、すべての公演で『リーマンズロック』が最後に歌われたそうだが、ライブの最後を「さあ胸を張れ 生きていけ」という強いメッセージで締めるのは、いかにも高橋優らしい。
そう考えると、冒頭から終わりまでの流れが、これまでの高橋優を横断的に見ることのできる構成になっていたことに気づかされる。
高橋優のふたつの側面
ところで、Apple Musicのプレイリスト「はじめての高橋優」を見ると、彼の紹介欄には「デビュー前から、指先が切れてギターに血が飛び散るほどの激しいストロークとメッセージに満ちた絶唱で話題になっていた」と書かれている。
近年の高橋優には、そうした激しさよりもむしろ、優しさや親しみやすさに注目が集まっていた。映画『クレヨンしんちゃん 襲来!!宇宙人シリリ』の主題歌に起用されたシングル『ロードムービー』や、クレヨンしんちゃんとコラボした同曲のMVなどは、その最たるものと言えるだろう。
しかし、この日のセットリストや『ルポルタージュ』などの激しい演奏を見る限り、高橋優の本質は激しさにあるのではないかという気がしてくる。
『ルポルタージュ』でMV監督をつとめた箭内道彦が、ドキュメンタリーのなかで「みんなが高橋優だと思ってる高橋優じゃないものにしたい。自分が知っている高橋優をちゃんと撮りたい」と言っているが、高橋優には、『ルポルタージュ』的な、あるいは「指先が切れてギターに血が飛び散るほど」の激しさと、映画『クレヨンしんちゃん』の主題歌を歌ってみんなに愛されるような、ふたつの側面があるのだろう。
そしてその両方がバランス良く表現されていたのが、今回のツアー『ROAD MOVIE』だったのかもしれない。
高橋優にとって始まりの地・神奈川
高橋優にとって、横浜でのワンマンライブは一年ぶりだった。しかしそれよりも重要な事実は、彼が10年前に神奈川に住んでいたということだ。
約10年前、札幌から夢を持ってやってきた若者は、生活の拠点を神奈川県の溝ノ口に構えた。その時点で彼はまだ何者でもなかったが、やがて「高橋優」として世間に知られることになる。つまり、神奈川はプロミュージシャン・高橋優の始まりの地でもあるわけだ。
そうした場所でキャリア最大・最長のツアーを終えることができたことは、彼にとってもファンにとっても、感慨深いものがあっただろう。MCで神奈川についての小ネタをかなり仕込み笑いを誘っていた高橋優だったが、その笑いの裏側にはおそらく、彼のこの地への強い思い入れがある。
また、高橋優のライブに行くと、彼が年齢関係なく幅広い層に支持されていることがよくわかる。
なかでもとくに目立ったのは、親子で来ていた人たち。5歳くらいの女の子が、母親と一緒に手を叩いて嬉しそうにノっている姿は本当に素敵だった。
その光景がすべてを物語っている気がする。高橋優というアーティストが、いったいどんなアーティストなのかを。
高橋優はこの10年間で、楽曲だけでなく、真の意味で人々に『福笑い』をもたらすアーティストになったのだった。
セットリスト ※3月29日 パシフィコ横浜国立大ホール
1. 終焉のディープキス
2. 象
3. 現実という名の怪物と戦う者たち
4. シンプル
5. BE RIGHT
6. ⽩⽶の味
7. 羅針盤
8. life song
9. 花のように
10. 同じ空の下
11. BLUE
12. シーユーアゲイン
13. ロードムービー
14. ルポルタージュ
15. 太陽と花
16. Mr.Complex Man
17. 明⽇はきっといい⽇になる
18. 泣ぐ⼦はいねが
19. 虹
En. 1 パイオニア
En. 2 リーマンズロック
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