昨今、世界の各地でVR技術の音楽への活用が、活発化している。
本連載では7月18日まで日本科学未来館で行われた展示、『Bjork Digital』を足がかりに、国内最大手のVR専門メディアであるMogura VRの監修の元、VRと音楽体験の未来について検証していく。
『Bjork Digital』から考えるVRと、音楽体験の未来~#1 VRは音楽体験を変えるのか?
https://meetia.net/column/bjorkvr1/
二回目となる今回は、VRを音楽に活用した国内外の事例を紹介していく。
Mogura VR
http://www.moguravr.com/
VRの一つの特徴は、360度全方位の3D映像が実写、アニメーション問わず制作可能であることにある。
2016年現在、多くのミュージシャン、そしてレコード会社がこうした技術の持つ大きな魅力に気付き、VRを活用したライブコンテンツの制作に注力し始めている。
『サー』の称号を持つレジェンド、ポール・マッカートニーは360度全方位方向の3D映像によるライブ映像の制作に、最も早い段階から取り組み始めた一人だ。
2014年8月に米、Candlestick Parkにて披露されたポールのパフォーマンスは、iOS/Android向けの360度動画プラットフォームVRアプリ『Jaunt』より配信されている。曲目は『Live and Let Die』。
上の映像は歴史的な意義がとても大きなものだ。
ただし、2014年時点の成果であることは確認しておかなくてはならない。ポールのライブには、まだ「VRならではの体験」を視聴者に提示するための工夫がそれほどなされてはいない。
カメラに向かって、奏者が手を振る。
ステージ上に置いたカメラの周りを、アーティストが動きまわる。
例えばそうした工夫がなされることにより、VR映像は臨場感がぐっと底上げされる。映像を見ている人間が『外から光景を眺めている』のではなく、『その場に自分が存在している』という感覚を、より強く得られるからだ。
とはいえ、急速な発展を遂げつつあった技術を、まだ誰もがどのように扱えば良いのか分かっていなかった段階で機器をステージに投入したポールの先見性の高さは、VRと音楽の歴史を前に進めるものであったことは間違いない。
今年6月、ベストアルバム『PURE MCCARTNEY』をリリースしたポール。
Jauntでは、リリースに合わせポールのプライベート・スタジオで収録された数多くのVR映像が配信されている。
ポールと同じ英国出身のアーティスト、テクノユニット、そしてデザイン集団『Tomato』の創立メンバーであるUnderworld。
彼等はTomato結成25周年の記念エキシビジョンにおいて興味深い形でVR技術を活用している。
2016年3月12日~4月3日にかけ、渋谷パルコで開催された「THE TOMATO PROJECT 25TH ANNIVERSARY EXHIBITION”O”」。
Underworldは展示の初日に開催されたライブ、「Underworld Live: Shibuya Shibuya, we face a shining future」に出演。会場でパフォーマンスが披露された他、別会場では360度動画によるライブストリーミングが行われた。
二次会場となった2.5DにはSAMSUNGのヘッドマウントディスプレイ、Gear VRと、4Dシステムを搭載し、映像の音に合わせて振動する椅子『Telepod』が用意された。
観客はリアルタイムにライブ映像を全方位から視聴しつつ、臨場感のある椅子の振動を味わうことが出来た。
UnderworldのVRストリーミングという試みの画期的な点は、ライブ会場の360度全方位の映像と『揺れ』を、会場から二次会場に向けてリアルタイムに配信し、同時に観客に体験させたことにある。
Telepodを使用したストリーミングにより、観客は映像の音に合わせたボディソニック(体感音響)を感じることが出来る。
Underworldの二人は臨場感溢れる映像、音声だけでなく、会場の『揺れ』や『体感』も一つの音楽コンテンツとして広く配信される未来を、一般の音楽ファンに提示してみせたのではないだろうか。
本連載の初回で述べた通り、あくまで『現実』と『VR』は別物だ。
この両者が、完全に同一視される日は来ないだろう。
しかし、VRの扱う領域が『視覚』、『聴覚』から、徐々にではあるが一層、広がりを見せつつあることもまた事実である。
VRを活用したMVも世界各地で積極的に制作され、公開されている。
国内で最もVRに意欲的に取り組み、完成度の高いMVを制作したロックバンドの一つがHello Sleepwalkersだ。
何重にも光が重なりあう新宿の街を舞台に制作された、MV。
全方位に、多重露光した写真のような強烈な光が溢れる空間に、『ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか』の歌詞が浮かぶ。
同MVはグラフィック・アーティスト、サヤメタクミ氏のアートを全天球映像作家・渡邊徹氏を中心とするチーム「渡邊課」が映像化したもの。
SHINJUKU_VR #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA
上は新宿の街をサヤメタクミ氏が360度静止画として、VR作品にしたもの。
VRアプリ『ハコスコ』にて公開されていた360度MV『アキレスと亀』も、Hello SleepwakersはYouTubeにアップロードしている。
今回紹介したVR技術×音楽の事例は、すべて2014年以降のものです。
ここ数年で急速に発展、普及が進んでいるVR。
VRを音楽に活用していく上での課題の一つは「そもそも音楽業界にVRのノウハウが存在しない」ことです。
制作者はいま、まさにVRに関するノウハウを開発している最中なのです。
今後の本連載では360度MVなど、音楽×VRの最前線でコンテンツ制作を行っている当事者へのインタビューも行っていきたいと考えています。
更新をお楽しみに!
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文章:九十現音(https://twitter.com/kujujuju0206)
監修:Mogura VR(http://www.moguravr.com/)
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