バーチャル・リアリティは、いわばプライベートに楽しむサーカス。
そんなVRに挑戦するのはとても自然なこと。
上は2016年6月29日から7月18日まで、日本科学未来館にて開催されている『Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験』の会場で読むことができる、Bjork本人によって書かれたステートメントからの引用だ。
Bjorkはこのようにも述べている。
VRは、このような感傷的な旅にふさわしい。
単にミュージックビデオが進化したものではなく、
もっとロジカルで緻密なパワーを秘めています。
音楽は、いま大きく変わりつつある。
音楽業界の収益源は楽曲販売から、ライブを主とする音楽に関連した『体験』を販売することに移行しつつある。
ライブビジネスが活性化する中、観客を会場に呼び寄せるためには『如何にして、魅力的なステージを創り上げるか』を検討する必要がある。
今後、VRをはじめとするテクノロジーが積極的にステージに投入されていく可能性は大いにある。
またVRを使用することで観客に対し、初めて提供が可能となる新たな音楽体験もあるに違いない。
『未来の音楽体験』とは、どのようなものだろうか。
ハードの変化は音楽の聴取環境や、リスナーの音楽体験に大いに影響を与える。
VRヘッドセットやコントローラーがiPodのように日常で普通に扱うことが可能なアイテムになった時、日常における音楽への接し方はどのように変わるのだろうか。
本連載では、VR技術を音楽体験に活用した最先端の事例である『Bjork Digital』を足がかりに、国内最大手のVR専門メディアであるMogura VRの監修の元、VRと音楽体験の未来について検証していく。
Mogura VR
http://www.moguravr.com/
VR(バーチャル・リアリティ)という言葉を耳にした時、多くの人が思い浮かべるのは『現実世界と全く同じような空間が、仮想空間上に広がっている』ようなイメージでは無いだろうか。
こうした認識は半分は正しいものの、半分は正しいとは言えない。
例えば、いまのVR技術ではまだ音楽ライブの会場に漂う『熱気』や『揺れ』までは再現することが難しい。
こうした要素も、VR技術の進展により忠実に再現することはそう難しいことでは無くなっていく可能性は大いにある。
しかし、いまの時点では『現実そのもののライブ』をVRを通じて体験することは困難である。
たとえそうした技術が完成したとしても『現実そのもののライブ』の良さが丸っきり無くなってしまうということは有り得ないだろう。
会場での他人とのやり取りやアーティストとの掛け合い、飲食やグッズの購入、思いもがけないサプライズというような要素は、やはり『現実そのもの』が持ちえる魅力であると言える。
上の内容を通じて、第一に確認したいのは『現実そのもの』と『VR技術』は別物であるという、当たり前の事柄だ。
少なくとも、日本科学未来館において『Bjork Digital』が開催された2016年6月~7月現在においては、VRは『現実そのもの』に比べ圧倒的にパーソナルな体験である。
端的に言ってしまえば、VRは『起こりえないことを、実現する』技術だ。
観客はVRヘッドセットを装着したら、VRの展示会場に居ながらにしてアイスランドの大地に即座に“ワープ”し、目の前で踊るようにして歌うBjorkを、まるで自分が彼女の最も親しい人物であるかのような至近距離から見つめながら、彼女が表現する楽曲の世界観の一部になる事ができるのだ。
『Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験』は、CDやiPodを通じた音楽の視聴ともライヴ会場で生身のアーティストとリアルタイムに時間を共有し、熱や揺れを体感するのとも異なる、新たな音楽体験を観客に提供していると言えるだろう。
『Bjork Digital』に展示されている3つのVR作品『Stonemilker VR』、『Mouthmantra VR』、『Not Get VR』はいずれもVRヘッドセットを使用し、体験するコンテンツだ。
観客は『Bjork Digital』の一番最初の展示作品である『Stonemilker VR』を鑑賞した際に、まずその視野の広さに驚きを覚えるはずである。くるくると回転する椅子に座り、身体を動かすと、視野も連動して変化していく。
従来のミュージックビデオや映像作品において、映像はフレームの枠の中でのみ展開される。鑑賞者はテレビ画面や映画館のスクリーンの『外』、カメラが捉えていない景色はいままで観ることが出来なかった。
その点、VRには『フレームの枠』という概念が存在しない。少々、主観的な書き方になってしまうが、鑑賞者は作品世界の中に放り込まれ、360度全方位に向けて、頭を動かして見回しながら、その『世界』を楽しむことが出来るのだ。
『Stonemilker VR』を鑑賞した際、筆者の場合は正直に言って、あまりにもBjorkとの距離が近いことに対して、圧のようなものさえ感じるほどだった。だから、筆者は時折、Bjorkから目をそらしては撮影地のアイスランドの空を眺めたり、足下の石の模様を見つめたり、後ろを振り向いて灯台を見つめたりした。
このような自由な作品の楽しみ方は、VRならではのものだ。
鑑賞者はVR体験をすると、主観的に『自分がその場所に居て、作品世界の一部となっている』という実感を得ることが出来る。その感覚は非常にパーソナルなものでありながら、ある種のライブ感覚もまた備えている。
アーティスト本人がその場に居るわけではない。
しかし、少なくとも自分自身は主観的に、アーティストが創りだした世界の中に”いま、まさに”存在しているのだ。
パーソナル性とある種のライブ感覚を兼ね備えたVR技術が実現する音楽体験は、CDやiPodによる視聴体験や実際の音楽ライブと比較しても、やはり特異な点が見られる興味深いものである。
いままで一般的とされてきた音楽体験とは、異なる空間を創りだす。
VR技術にはそのような力があると言っても、良いのかもしれない。
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2016年10月にはPlayStation 4向けのハイエンドのVRデバイスとして、PlayStation VRの発売が予定されています。
VR元年とも呼ばれる2016年は、Facebook傘下のOculusのOculus Rift、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStation VR、HTCとValveのHTC Viveと、高品質のヘッドマウントディスプレイの御三家が遂に出揃う年でもあります。
いずれのデバイスも、高品質のVR体験が可能です。
各デバイス向けにVRを活用した音楽コンテンツが次々と配信される日がやって来るのは、そう遠い未来のことでは無いでしょう。
そこで次回の更新では、国内外の最先端の音楽シーンにおけるVR活用事例をたっぷり紹介する予定です!
今後の連載では、VRの音楽コンテンツの制作者インタビューなども予定しています。
更新をお楽しみに!
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文章:九十現音(https://twitter.com/kujujuju0206)
監修:Mogura VR(http://www.moguravr.com/)
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