『フリースタイルダンジョン』最強ラップモンスター・R-指定
2016年はTVというメディアの力の大きさを感じた一年だった。それはきっと私だけではなく、多くのB-BOY&B-GIRLが感じていることだろう。テレビ朝日、そしてAbemaTVで放送中の『フリースタイルダンジョン』によって、日本語ラップの認知度は飛躍的に高まった。
これまで何度かあった日本語ラップのブームと今回が異なるのは、楽曲やアーティストによってではなく、MCバトルというマニアックな「競技」によって、ブームが起こったという点だ。そんなMCバトルの世界において、圧倒的な存在感を放つラッパーがいる。
『フリースタイルダンジョン』にモンスターとして出演し、チャレンジャーの前に立ちはだかるR-指定。このMCバトルブームをキッカケに日本語ラップに興味を持った人は、R-指定のバトルを見ればきっと「ラップってスゲー!」って思ってもらえるはず。なぜなら、日本のMCバトルが生んだフリースタイルラップの最高傑作、それがR-指定だからだ。
梅田サイファーからMCバトルの最高峰『UMB』3連覇
R-指定は1991年9月10日生まれ、大阪府堺市出身のラッパー。中学一年でラップと出会い、初めて聴いたHIPHOPはラジオで流れていたSOUL’d OUT。それからRHYMESTERやZeebraを聴くようになり、本格的に日本語ラップに傾倒していく。
そんなR-指定が高校生になってのめり込んだのが梅田サイファー。サイファーとは路上で行われるフリースタイルラップのセッションのことで、後にコッペパンというユニットを結成するKOPERUや、KZ、ふぁんくといった大阪の若き才能たちと毎晩フリースタイルラップに明け暮れたことが、R-指定にとっての原体験となった。
(コッペパン梅田サイファーのドキュメント。短髪&制服のR-指定、カワイイ見た目とは裏腹にラップのスキルはすでにエグい)
その後、R-指定はライブやMCバトルの大会へ積極的に参加するようになり、サイファー仕込みのスキルでその才能を急速に開花させていく。そして、日本最高峰のMCバトルの大会『UMB GRAND CHAMPIONSHIP』において、2010年から大阪予選を5連覇、2012〜2014年の全国大会では前人未踏の3連覇を達成。自他共に認めるフリースタイルラップの絶対王者として君臨した。
R-指定はラップスキル全てに優れた「フリースタイルラップ完全体」
MCバトルにおけるラッパーの戦闘力を計る際に、ポイントとなる要素をまず3つに分けるとするならば、「ライム」「フロウ」「バイブス」がある。それぞれにおいて優れているラッパーの例として、ライムは2010&2011年に『UMB』を制した晋平太、フロウは我が道を行く奇人ラッパー・鎮座DOPENESS、バイブスは「フリースタイルラップは芸術」とまで言い切る呂布カルマなどが挙げられる。
これらの要素はどれかひとつを持っているというわけではなく、ラッパーそれぞれによって強さの組み合わせが異なる。例えば『フリースタイルダンジョン』のラスボス・般若は、堅いライムに圧倒的なバイブスを併せ持つ一方、フロウを数値化した場合は他のラッパーに劣るだろう。
そういった視点で見てみると、R-指定はライム、フロウ、バイブスの全てに優れた、極めて総合力の高いラッパーだという事実が浮かび上がってくる。さらに、フリースタイル巧者には上記の3つの要素に加えて「ボキャブラリー」「対話力」「即興力」などが求められる(これら後述の3つの要素が乏しいラッパーは、「ネタくさい」とディスられる)。
ここまでに挙げた強さの6つの要素を六角形のチャートにした場合、R-指定は全てにおいてほぼマックスの値を叩き出す「フリースタイルラップ完全体」。バトルにおいて武器の多さはすなわち、どんな相手にも対応できることを意味する。それが『UMB』を3連覇できた最大のワケと言えるだろう。
敗北の度にアップデートされていったスキル
ただ、R-指定はそれらの武器を最初から全て持っていたわけではない。2010年の『UMB』でライムの名手・晋平太に、2011年は即興力の曲者・DOTAMAに、どちらも一回戦負けを喫している。2年連続で屈辱を味わった大阪王者は、負ける度に自分のスキルをアップデートしていき、その結果として挑戦者に付け入るスキを与えない最強のオールラウンダーに変貌を遂げた。これまで数多くの名勝負を演じてきたが、中でもやはり永遠のライバル・DOTAMAとの戦いはファンの間で語り継がれている。
(『UMB2014』ベスト16「R-指定vs DOTAMA」。再延長にもつれ込む耐久戦はR-指定のスタミナ勝ち)
また、『ADRENALINE 2014』決勝戦での、MC・太華のムチャぶりによるGOLBYとの「8小節×8本勝負」という超耐久MCバトルを見れば、R-指定というラッパーの総合力の高さを感じてもらえるだろう。
(『ADRENALINE 2014』)決勝戦「R-指定vs GOLBY」。GOLBYのスキルの高さが、名勝負に花を添えている)
『フリースタイルダンジョン』におけるR-指定とコンプラ
『UMB』を3連覇した後、R-指定は文字通り「殿堂入り」し、現在彼のMCバトルを見られるのは『フリースタイルダンジョン』のみ。同番組でもその安定感は群を抜いており、個人的にはバトルのシステムに2on2や3on3が組み込まれたのは、多くのラッパーでさまざまな組み合わせを楽しめるようにという番組側の配慮に加え、R-指定が強すぎる(1on1ではチャレンジャーの勝ち目が薄い)という理由があるのではないだろうか。
『フリースタイルダンジョン』にチーム戦が導入された3rdシーズンでR-指定を追い詰めたチャレンジャーと言えば、Rec1で登場したチーム「411」のJ平がいる。4thステージで実現したR-指定vs J平の1on1は、ラウンド3までもつれ込む熱戦となったが、最後はR-指定が貫禄勝ちを収めた。
この一戦は審査員のKEN THE 390が“ヒーロー”感があると評したJ平に対し、R-指定が“ダークヒーロー”と化して迎え撃ったという構図がある。一部ネット上ではR-指定の「コンプラ」の内容が物議を醸しているが、本来R-指定はコンプラが少ないラッパーという印象の方が強い。そしてコンプラに関しては、出演するモンスター全員が少なからず「使わずに勝つ」ことを意識しているはず。それは地上波のTVだから日和っているというわけではなく、TVで放送されるからには、視聴者にも伝わる言葉を使うことに意味がある、という判断のように思える。
そもそもコンプラは、漢 a.k.a GAMIのようなバックボーンを持つ者からナチュラルに“出てしまう”ものであり、この一戦でR-指定のラップにコンプラが多かったのは、それを出さざるを得ないくらいに追い詰めたJ平の実力を評価すべきだろう。このバトルで何が話されていたのかは、会場にいた観客とJ平だけが知るところ。事実、J平は自身のTwitterでそのバトルでのコンプラにまつわる一連の憶測について、詳細は述べていないものの否定している。
フリースタイルダンジョン R指定 対 J平
(『フリースタイルダンジョン』3rdシーズンRec1-3「R-指定vs J平」。追い詰められたとはいえ、最後は審査員、恐らく会場も満場一致でR-指定のクリティカル勝ち)
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