湯木慧というアーティストをご存知だろうか? 読み方は「ゆき・あきら」。東京を拠点に活動している20歳(2019年4月現在)の女性アーティストだ。
CDの全国流通や配信をしていない頃から、コアな音楽好きやシンガーソングライター界隈などでは話題になっており、このたび、自身21歳の誕生日である2019年6月5日にメジャーデビューが決定。では、どんなアーティストなのか?
(Yuki Akira 1998-2018 Activities)
湯木慧とは?
大分県出身のアーティスト。小学3年生の頃、姉が入っていたマーチングバンドに惹かれ音楽と出会う。当時「目立ちたい」という理由からトランペットを始め、小学5年生になると独学でアコースティックギターを始める。6年生の頃には、すでに自分で楽曲をつくるようになっていた。
高校生になると、路上ライブやカフェバーなどでのオープンマイク、ツイキャス配信を開始。物事の本質をより深く考えるきっかけになったという両親の離婚を経験し、さらに音楽活動に本格的に打ち込むようになる。特にツイキャスは人気で、2年間で200万ビューを超えるなど、一気に認知を拡大させた。
自主制作盤もふくめ、これまでに4枚のミニアルバムと1枚のフルアルバムをリリースしている。
「命に向き合ってない人になんか響かなくていい」
(湯木慧『存在証明』MV)
音楽面では、アコースティックギターを使用した弾き語り、バンド形式、打ち込みという3種類、あるいはそれらの融合を基本的な楽曲スタイルとしている。力強い歌声や時おり挟まれる美しい裏声、ウィスパーボイスとブレスの使い方などに特徴があり、全体的にただよう儚さが独特の雰囲気をつくっている。
共通点のあるアーティストを探せば、鬼束ちひろや初期の椎名林檎、あるいは最近ならばあいみょんの名前をあげることができるかもしれない。彼女たちのように、歌謡曲のメロディを下敷きにしつつ骨太な楽曲を得意とする。
もっとも特筆すべきは、おそらく歌詞の魅力だろう。彼女の歌詞はシンプルだが、非常にテーマ性が強く、言葉を伝えることに重点を置いた楽曲が多い。
本人は自身の作風について「命に向き合ってない人になんか響かなくていい」という。これは裏返せば、命について真剣に考えたことのある人にとっては響きすぎるくらい響いてしまう可能性があるということだ。
たとえば『74億の世界』という楽曲を聴いてみてほしい。
(湯木慧『74億の世界』MV)
「死にたいなって思う夜がある 死ねないなって負ける夜がある」
という歌い出しはかなりインパクトが強い。澄んだ声で歌われるのだからなおさらだ。 こうした歌詞が全編続くので、聞き流すのはちょっと難しい。
綺麗事を排除しているので一見ネガディブに思えるかもしれないが、根底にあるのは生への肯定だ。Coccoやamazarashiなどを好んで聴いている人と相性が良いのではないだろうか。
「ひとり」に向けた手紙のような作品
湯木慧はおそらく、顔の見えない不特定多数に向けて歌っているのではなく、自分に向けて歌っている。自分自身が次の一歩を踏み出せるように、自意識から少し離れたところで、もうひとりの自分に対して歌っている。
そういう意味で、彼女の曲には個人的な作品が多いと言えるだろう。そしてもっとも人の心を強く打つ作品とは、もっとも個人的につくられた作品である。
作家・詩人の朝吹真理子は、芥川賞の受賞会見で「手紙のような気持ちで作品を書いている」と述べた。湯木慧も朝吹と同じような気持ちで作品をつくっているのだろうし、同じようにみずからを俯瞰する視点を持ち、作品の受け取り手の感情に強くうったえる技術を持ち合わせている。
また、ファンのあいだでは米津玄師との近さを指摘する声もあるようだ。確立された世界観、心をえぐる歌詞、聞き取りやすい歌声、ポップかつセンチメンタルで耳に残るメロディ、そして後述するが音楽だけにとどまらないアート活動など、たしかに「女性版米津玄師」と形容しても、まあそれほど的外れではなさそうだ。
もちろん彼女はニコニコ動画やボーカロイドを当然のものとして享受している世代であり、その過程において米津玄師(当時はハチ名義)の楽曲にも親しんでいた。17歳で初めて打ち込みに挑戦したという『人間様』を聴いてみれば、米津玄師の影響と彼女の才能の両方を感じ取ることができるだろう。
(湯木慧『人間様』MV。みずからMV制作を手がけることもあるが、『人間様』が初めて自作したMV)
湯木慧とアート
(湯木慧『一期一会』MV)
湯木慧の活動においては、音楽とアートがわかちがたく結びついている。自身のCDジャケットやMVの制作だけでなく、衣装や舞台装飾などの制作も手がけ、トータルでセルフプロデュースを行っている。またライブ演出においても、絵画やインスタレーション、創作写真などを用いて展示とライブを融合させ、視覚と聴覚の両方に強く訴えかける。
オフィシャルサイトには「耳のギャラリー」「映像のギャラリー」「目のギャラリー」という項目が設けられており、耳のギャラリーには音楽、映像のギャラリーにはMV、目のギャラリーには絵画やライブペインティングの様子がおさめられている。「ギャラリー」という言葉づかいからも、アートへのこだわりを感じることができる(ちなみに、各種SNSのアカウント名にはいずれも「art」の文字がある)。
こうした活動を鑑みると、湯木慧を「ミュージシャン」「シンガーソングライター」という言葉でくくるのは正確ではない気がする。
歌詞のメッセージ性の強さとも関係するが、湯木慧にはまずテーマ(伝えたいこと)があり、そのテーマを伝える最適な手段を、その都度、音楽や絵画で使い分けているのだろう。あるいは、それらを同時に創作することで、様々な角度からメッセージを伝えようとしているのかもしれない。
メジャーデビューシングル『誕生〜バースデイ〜』
さて、湯木慧は2019年6月5日にメジャーデビューが決定しているが、デビューシングルとなるのは『誕生〜バースデイ〜』。『バースデイ』『産声』『極彩』の3曲と、『98/06/05 11:40』と題された音声が収録されている。
タイトルの通りテーマは「誕生」。自身の誕生を、メジャーアーティストとしての湯木慧が誕生する瞬間に重ね合わせている。生まれたばかりの人間にとって、世界はまだ淡くぼやけて見えるだろう、そうした淡い光につつまれて感じる不安や迷い、恐怖のなかで、少しずつ生きはじめようとする意志を歌う。
『産声』は、DAOKOやぼくのりりっくのぼうよみなどに多大な影響を与えたササノマリイが編曲を担当しており、ササノマリイらしい温かく繊細なエレクトロニカを基調とした美しいサウンドが魅力。
『バースデイ』は20歳の誕生日につくった曲で、とある少年に起きた出来事がきっかけでうまれた曲。その少年は、自身の誕生日の前日に目の前で母親を事故で失ったという。他者の痛みへの想像力と共感力の高さが楽曲に反映されている。
『極彩』は上記2曲とはやや雰囲気が異なり、すでに死の気配が漂っている。誕生とはすなわち死のはじまりであり、生とは少しずつ死に続けることでもある――そんなメッセージが見え隠れするようだ。硬質な打ち込みと、いくつも重ねられたコーラスの美しさも際立っている。
そして『98/06/05 11:40』には、湯木慧が生まれた瞬間のホンモノの産声が収録されている。当たり前のことだが、誰しも自分ひとりで生まれることはできない。そこには常に産む側=母親の存在がある。そういう意味で、デビュー作となる本作は、湯木慧と彼女の母親による共作であるとも考えられる。
このように、シングル全体を通してしっかりとコンセプトがつくりこまれていることも、彼女の作品の特徴だ。
ネクストブレイク最有力
(湯木慧『キズグチ reborn by MI8k』MV)
アーティストの本質は、初期作品にすでにはっきりと現れていることが多い。おそらく湯木慧の場合も例外ではない。彼女が初期に発表した『傷口』のサビを引用してみよう。
「人を信じられなくなった時 一つ、信じられるような唄を」
「明日を信じられなくなった時 自分、信じられるような唄を」
湯木慧ってどんなアーティスト?どんな歌?という質問に対しては、この曲を聴かせればじゅうぶんだろう。
ここ数年、女性アーティストのブレイクが続いていた。2016年は水曜日のカンパネラ、2017年はDAOKO、2018年はあいみょん、というふうに。
では、次にブレイクするのは? 令和という新しい時代を牽引していくのは?
現時点で答えを出すのは早すぎるかもしれないが、断言させたくなる魅力が彼女にはある。
新しい年号とともに湯木慧を追いかけるんだぞォ
— 湯木慧ーcoming soonー (@Yuki_Akirart) March 27, 2019
湯木慧
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新譜情報
2019年6月5日発売
メジャーファーストシングル 『誕生〜バースデイ〜』
・初回限定盤:CD+ライブDVD+スペシャルパッケージ仕様/VIZL-1952/:¥1,800+消費税
・通常盤:CD/VICL-37474/ 予価:¥1,200+消費税
・CD(初回限定盤・通常盤共通)
1. 98/06/05 11:40
2. 産声
3. バースデイ
4. 極彩
・DVD(初回限定盤のみ)
2018年10月20,21日、開催ワンマン個展ライブ『残骸の呼吸』at四谷アートコンプレックスホール(約30分のパフォーマンス映像を収録予定)
・店舗特典(タワーレコード/amazon/ヴィレッジヴァンガード 各デザイン色違い) 湯木慧オリジナリデザイン 「足形メモリアルステッカーシート」
ライブ情報
メジャーファーストシングルリリース記念ワンマンライブ 「誕生〜始まりの心実〜」
日時:2019年6月5日(水) OPEN:18:30/START:19:00
会場:四谷天窓
チケット料金:前売 3,500 円 当日 4,000 円
※ドリンク代 600 円別 ※学割:1,000 円キャッシュバック有り
座席:着席(一部立見あり)
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