“しあわせ製造機”による失恋ソング
この日はもちろん、メジャーデビューシングルとなった『好-じょし-』も披露したが、この曲も、これまでのライブを包括してみると、悲しさや虚しさがしあわせへと変換された曲のように感じる。今のところ坂口有望の作品群でもっともポップなこの曲は、友達の恋バナを元にした失恋ソングだが、悲しさより強さ、静謐さより明るさを感じる曲になっている。
普通の失恋ソングとは違って、慰めや共感をもたらすのではなく、人に元気を与える。「しあわせ製造機」の手にかかれば、失恋ソングだってこんなに楽しいものになってしまうのだ。
(坂口有望『好-じょし-』MV Short ver.)
それにしても、サビの<<君がいなくなったって/ご飯はおいしい ちゃんと味もする>>はつくづく名言だなと思う。
本人は「今日来たことを周りの友達に自慢できるようにビッグになるので、ついて来てほしいです。何千倍もカッコよくなって東京に帰ってきます!」と爽やかに宣言していたが、この日のライブを見た人のほとんどが、もうすでに誰かに自慢しているだろう。
このレポートも、はっきり言って半分は自慢だ。なぜならこれから続いていくであろう坂口有望というアーティストの歴史の中で、メジャー初のワンマンライブは、折に触れて言及される重要なものだし、限られた人にしか見ることのできなかった貴重なものだから。その証人になれたことは、聴き手としても書き手としても幸せなことだ(あっ、やっぱり坂口有望はしあわせ製造機だ)。
アンコールでは改めてオーディエンスに感謝を述べ、オリジナルグッズの紹介もしっかり行う。Tシャツはライブタイトルにかけて『サマーセンT』、タオルは買って良かったと思ってもらえるように『買ってよかっタオル』と名付けられ、遊び心も満載。というか、親父ギャグ? 作品だけでなく人間としてもすでに成熟している感(?)を漂わせながら、『タイムカプセルパレード(仮)』『地球-まる-』の2曲でアンコールを締めた。
(坂口有望 「地球-まる-」 Music Video)
最後はバンドメンバー全員で手をつなぎ、「本日は本当にありがとうございました。坂口有望バンドでしたー!」と深く頭を下げた。本記事ではここまでバンドメンバーについてほとんど触れていなかったが、岡部晴彦(Ba.)、田中志門(Gt.)、井上順乃介(Dr.)といったサポートメンバーたちとの呼吸も非常に合っており、バンドとしての一体感があった。特に、プロデュース&アレンジにも関わっているベースの岡部晴彦が、まるで自分の娘か姪っ子を見守るように演奏中ずっと仕草や表情や目線でも坂口有望を支えていたのが印象的だった。
音楽に選ばれた人
さて、筆者が坂口有望を初めて知ったのは、YouTubeでクリープハイプの『二十九、三十』をカバーしている動画を偶然見つけた時だった。これを見つけた時は驚いた。なぜなら、クリープハイプの曲は難易度が高くてカバーしづらい上に、『二十九、三十』という曲は、内容的に中学生に歌いこなせる曲ではないからだ。
(坂口有望『二十九、三十(クリープハイプのカバー)』)
『二十九、三十』という曲の内容を要約すると、
何も成し遂げられないまま三十代を迎えてしまう状況で、これまでの努力が無駄になるかもしれないという焦りや無力感に苛まれながら、それでも踏みとどまって前に進もうとする、瀬戸際の人の歌。
という感じだろう。
そんな歌を、なぜ中学生がこれほどうまく歌いこなせ、しかも単にうまいだけでなく、しっかりとリスナーの心に響くように歌えるのか。坂口有望の技術があまりにも優れているからなのか、それとも、他に何らかの要素があるのか。
はっきりとした結論はまだ出ていないが、そのヒントがこの日のライブにあったような気がする。 いずれにせよ、「音楽に選ばれた人」が現れたという印象だった。今後の活躍に期待が膨らむ。
セットリスト
1. 15歳の詩
2. おはなし
3. 紺色の主張
4. お別れをする時は(仮)
5. 厚底
6. ぽてと(仮)
7. さよならロマン(仮)
8. 月には内緒で(仮)(弾き語り)
9. 悪魔の(仮)(弾き語り)
10. ばかやろう (仮)
11. 14才の唄
12. 好-じょし-
13. 16さいのうた
en1. タイムカプセルパレード(仮)(弾き語り)
en2. 地球-まる-
<PROFILE>
坂口有望(さかぐち・あみ)
2015年1月、曲作りを始めたばかりの、中学2年生・14才の時に初めて三国ヶ丘FUZZのステージに立つ。
彼女にとっての初のギター弾き語りライブである。
その後、大阪・京都のライブハウスやストリートを中心に精力的に活動し、本人手焼きの1st Demo CD「おはなし」レコ発自主企画対バンライブを同年9月19日に三国ヶ丘FUZZで開催、大盛況となる。
さらにMINAMI WHEEL2015初出演、eoMUSICTRY2015ノミネート、十代白書 2016準グランプリなど勢いは止まらない。
2016年9月14日にはTower Recordsから1st Indies Single「おはなし/地球-まる-」がリリース。11月6日には満を持してホームの三国ヶ丘FUZZにて初ワンマンを開催し、ソールドアウト。
2017年3月21日にはTower Recordsから2nd Indies Single「厚底/15歳の詩」をリリース。自身初の東京ワンマンと前回に引き続き三国ケ丘FUZZでのワンマンライブを開催し、2会場共にソールドアウト。
温かくも切ない歌声と、等身大の世界観の中から鋭く切り取られ描かれる歌詞。
詩とロックとポテトを愛する、大っきな可能性を秘めながらも、ちょっと小っちゃな16才。
<イベント情報>
「歌で紡ぐ、トアに続く」
日時:2017.09.26(火)
会場:神戸VARIT.
開場/開演:18:30/19:00
出演:新山詩織 / 瀧川ありさ / 坂口有望 / O.A 門脇更紗
プレイガイド:イープラス / チケットぴあ(Pコード:343-564) / ローチケ(Lコード:53731)
FM802 MINAMI WHEEL 2017
日時:2017.10.08(日)
会場:knave / Pangea / BIGCAT などサーキット型イベント
開場/開演:13:30/ 14:00
詳しくはイベントHPをご覧ください。
https://minamiwheel.jp/
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